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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦後篇 その16

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「…………」

「くっ、なぜそこまで……」

「……なぜと言われても。俺は俺、だからこその結果としか言いようがなかろう」

「バカな、ありえん……」


 それはもう、頑張った。
 目には魔眼、体は身体強化と部分強化、それに属性強化と盛りだくさん。
 他にもいくつか加え──擬似限界突破。

 そんな高められた身体能力を、いっさい無駄なく使えるように体を人形のように操って光状の剣を振るい続けた。

 お陰様で全身がボロボロ、一時期は風穴ができるという事態に。
 なのでそこは物体再成スキルで修復し、今は有利な状態まで持ち込んだ。

 代わりにケイコク側は羽のほとんどを切り落とされて、腕も片方ない。
 片目だけだった盲目も、一時的にだが両目になっている……これは問題ないようだ。


「貴様、ただの人族ではないのだな?」

「俺が一度でも、自ら人族だと告げたか? 悪いが俺は俺のことを知らぬ。すべては謎に包まれている」

「何を言っている」

「言葉通り、[不明]のことだ」


 言葉遊びも楽しんだことなので、サクッと決着をつけることに。
 彼はカナの従魔、いずれ時間が経てば再び復活する。


「また会おう、かつての俺の同朋」

「……なんだと」

「夢現流武具術──『神魔崩滅』」


 ただの攻撃、今回は名前を言っているだけなので本来の効果は発揮しない。
 神や悪魔を殺せるというものだが……俺はすでに殺しているので、恩恵は不要だし。

 それらを殺した際に手に入れた称号の効果で、彼らへの干渉権は得ている。
 結果、かなりタフなはずの天魔のケイコクも、心臓を貫かれてそのまま死亡だ。


「──ぅそ」

「ギリギリ間に合ったようだな。カナ、それにハークよ。退屈はしていなかったぞ、さすがはカナの従魔であった」

「……どうしてとは言いません、なんでとも言いません。ただ、一つだけ訊かせてください。──ケイコクさんは強かったですか?」

「ああ、認めよう。俺の体に穴を穿っていったのでな。お陰でひどく身力を消耗した」


 強者を認める、魔王っぽくないか?
 ただ雑魚と言うよりも、なんだか矜持っぽいのがあるみたいでこっちの方が好きだ。

 実際、強かったか弱かったかと訊かれれば強かったわけだし。
 カナとハークの支援ありきだが、それでもバカみたいに強化していた俺と戦えたのだ。

 眷属の力を借りている俺は、戦闘そのものに気を抜いたりはしない。
 全身全霊、全力を以って挑んだ結果がこうだったのだ。


「賞賛に値する。見事であった……ゆえに、これを渡しておこう」

『カナさん!』

「いいんです……これは?」

「簡易の蘇生アイテム、といったところだ。天魔にしか使えぬことを除けば、誰もが喉から手が欲しくなる代物だが……あいにく、俺の知り合いにそれを必要とするものはこれまでいなくてな」


 警戒するハークを他所に、生活魔法で浮かせて届けたアイテムをカナが受け取る。

 過去、天魔の祈念者だった頃は【生産神】にも就いていたので、職業能力も全開でいろいろ作っていた。

 そのとき、世界樹の葉っぱ的なアイテムが欲しいなーということで、俺にしか使えない蘇生アイテムを作ろうとして……誕生したのが、彼女に渡した葉っぱ型のアイテムだ。


「この場で使おうとしたら、俺は容赦なく貴様らを潰す。だが、何もせずこの場を去るというのであれば……好きに使え。俺の配下も殺されたようだしな」


 すでに『狂邪真竜ハイエンド・バーサークドラゴン』は事切れて、黒の魔本の中へ回収されている。
 彼女の従魔たちも、少しずつ俺を取り囲みつつある……勝とうと思えば勝てるがな。

 俺は積極的に誰かを殺すといった、趣味嗜好は持ち合わせていない。
 蘇生できる環境を整えたうえであれば、多少の殺害は良しとすると弁えているけど。

 少なくとも今回のケースの場合、相手は全員蘇えるので俺的にはOKだ。
 しかし、ケイコク相手にかなり消耗したので、これ以上は避けたい。

 ……あと、ソウの時間稼ぎがいつまで持つのか、それも気になるからな。
 いつの間にか大規模な魔力の反応が消えているし、打ち合いが終わっているので。


「さて、どうする?」

「…………分かりました。みんなを危険な目に合わせるわけにはいきません」

『カナさん!』

「ですが、お願いがあります。魔王さん、わたしと全力で戦ってください」


 嗚呼、それでも戦いはまだ続く。
 俺はそれを──とても喜ばしく思う。

 別に、俺が戦闘狂だからではない。
 そうではなく、彼女自身がただ敗北を甘んじないという点に感動している。

 それでこそ、選ばれし者。
 それでこそ、主人公候補。

 さながら俺は、負けイベントのボス。
 いずれは勝利するだろう、しかし今回は敗北という経験をもたらすために、未来の糧となるために選ばれた贄。

 実に盛り上がる、モブである俺でもできるささやかな偽善。
 フレイ君のように覚醒すればなお良し、本来『導士』とはそういう存在だ。


「……カナよ、謝罪しよう。先ほどの発言は俺の弱さが言ったもの。訂正し、ケイコクをこの場で蘇らせても構わん。だが、持てる力のすべてをぶつけろ。それが俺にできる、最大限のもてなしだ」

「魔王さん……」

「名はそれしか教えていなかったな。戦いが終わったのちにでも、真名を語るとしよう」


 祈念者の導士と戦うのは初めてか?
 死なぬゆえ、多くの経験をしてきた彼女の実力……縛りを外しても許されるだろう。

 選ばれし者と本気で戦う、そのことに俺のモチベーションは急上昇中。
 その想いは眷属たちにも伝わっている……さあ、最高の戦いにしよう。


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