上 下
1,542 / 2,518
偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦後篇 その14

しおりを挟む
連続更新となります(08/12)
===============================


 現在、アジ・ダハーカことハークによって礼装を封印された俺は、その魔法をどうにかしようとあれこれ模索していた。

 スキルを共有することで纏っているギーの礼装の真価を発揮、魔法を模倣することでその解除法も暴こうとしていた……のだが、そのための時間稼ぎが崩れそうだ。


『──私を起こすとは、なかなかやるようですね』


 ハークの使っていた魔法陣を記憶し、そのまま転写して行使した“奈落監獄《アビサルプリズン》”。
 それによって封じていた、彼の蛇龍アジ・ダハーカとその主であるカナ。

 しかし、術式を完全に解除する前に監獄の檻が内側から破壊されていく。
 そして内部から現れたのは、首を三つ生やした巨大な龍である。

 だがこれまでとは、若干存在感が違う。
 何より、頭部に付いていた光輪、三つを覆うようについていたそれが、右側の首のみを覆うサイズに収縮していた。


「ハークさん・・……」

『カナさん、事情は聞いています。今はあの男をどうにかするため、尽力する……それでいいのですね?』

「はい!」

『それが分かるだけで結構です』


 神聖を帯びた光輪。
 そこから力がハークへ行き渡り、魔力の補助が行われている……外部バッテリーのような効果もあるみたいだな。


「だが、関係ない。俺は俺の道を貫き、貴様らを倒すのみだ──“疫病浴撒エピデミック”!」


 名前の通り、死の病を振りまく禍々しい魔法を解き放つ。
 ただし、通用するとは思っていない……相手の出方を伺うのみ。


『なんと卑劣な……ですが、残念ですね』


 そんな第二のハークが繰り出すのは、たった一つの魔法陣。

 ただし、それは光輪を媒介としたもの……発動した途端、眩い光が空間を支配する。
 その際術者である俺には、“疫病浴撒”が消し去られていくのが知覚できた。

 間違いなく、それは破邪系の魔法。
 それだけではなく、魔力そのものを消し去る魔法なのかもしれない。
 ディスクのように光輪が回転している。


「やるではないか……ならば、これを直接貴様に叩き込もう」

『竜殺しの魔剣、ですね。たしかに、そのままでは二の舞を踏むでしょう。ですが──その程度のこと、造作でもない』


 光輪が上から下へ、下から上へとハークの体を通過していく。
 すると光の膜がハークを包み込み、何やら魔法の効果をハークに付与する。

 ここから、俺とハークによる壮絶な戦いが幕を開ける……と思ったのだが、この場にはもう一人、参加者が居た。


「──お願いします、ケイコクさん!」

『カナさん! ……仕方ありませんね、どうしてですか?』

「え、えっと、自分がやられて、出てきたのがハークさんならそうしろって……」

「──そういうことだ、魔龍よ。貴様のような傲りを持つ者には、油断大敵という言葉が相応しかろう!」


 カナの職業は調教師系統のもの。
 本来であれば、何もない場所から配下を用意することはできない。

 しかし、過去のイベントでそれが可能なアイテムが配布されている。
 ……それとは関係なく、大量の配下を召喚する姿をさっき見ているけど。

 とにかく、この場に現れた新たな存在。
 十二枚の羽を持った、炎の天使──確信は持てないが、アジ・ダハーカ同様に、カナに導かれた結果生まれた存在なんだろうな。


「貴様、名は?」

「名とは問うて、返すものだろうに。まあよい、我が名はケイコク!」

「……種族名を言え」

「ふっ、やはり分かるか──『サマエル』、それこそが我が真名!」


 アダムとイヴに知恵の木の実を教えたという、魔王という説もある死を司る天使だ。
 つまりは天使であり悪魔、そして蛇……目の前の男は完全に見た目は天使だけど。


「天使であり、魔王、そして天魔! 我だけの、唯一無二の種族の力! 嗚呼、貴様に勝利という未来は存在せぬ!」

「……ほぉ、天魔か」

「かつての我であれば、貴様と互角の勝負を繰り広げたであろう。だが、今の我はカナの力によって昇華された! 天魔の焔により、貴様を死へと誘ってくれよう!」


 調べたことがあるのだが、天魔は天使か悪魔の状態で業値を中庸にしなければ進化できないという特殊な種族。

 そのため、最初からどちらかに偏っている自由民の天使と悪魔は進化しづらく、祈念者も調整に失敗して進化できないでいる。

 だからこその、固有種族でありながらなかなか数が増えないでいる天魔。
 天使と魔王、二つの経歴を持つがゆえにサマエル改めケイコクは天魔に至ったのか。


「因子を使えない今の身が、これほどまでに虚しく感じるとはな」

「……因子?」

「いや、何でもない。それよりも、後ろの二人は準備を終えたのであろうか?」

「ふっ、気づいていて誘いに乗るか。貴様のそれはの魔龍の傲りとは違うな。力を持つ強者ゆえの矜持……と言ったところか」


 そういうことではなく、単純に模倣できる術を増やしていたからだ。
 大量に展開される魔法陣、そしてカナが綴る何かしらの支援魔法。

 それらは俺の中に記憶されていき、共有されたものは眷属たちが解析してくれる。
 今は使えないものが多くとも、いずれ自らの力となる……うん、得しかない。


「案ずるな、ケイコク。貴様のやる気を引き出す魔法の言葉を教えてやろう」

「魔法の言葉だと?」

「ああ、そうだ。貴様は天魔、唯一無二の種族──つまりはボッチということだ」

「……それで煽ったつもりか? だが、否定はできぬな。ゆえに他の種族とつるみ、導かれたのだからな。いいだろう、その浅はかな挑発に乗ってやろうではないか」


 煽る気はなく、ただ思ったことをそのまま口にしただけである。
 何はともあれ、やる気を出してくれたのは実にいい──第三ラウンドの開始か。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...