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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦後篇 その14

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連続更新となります(08/12)
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 現在、アジ・ダハーカことハークによって礼装を封印された俺は、その魔法をどうにかしようとあれこれ模索していた。

 スキルを共有することで纏っているギーの礼装の真価を発揮、魔法を模倣することでその解除法も暴こうとしていた……のだが、そのための時間稼ぎが崩れそうだ。


『──私を起こすとは、なかなかやるようですね』


 ハークの使っていた魔法陣を記憶し、そのまま転写して行使した“奈落監獄《アビサルプリズン》”。
 それによって封じていた、彼の蛇龍アジ・ダハーカとその主であるカナ。

 しかし、術式を完全に解除する前に監獄の檻が内側から破壊されていく。
 そして内部から現れたのは、首を三つ生やした巨大な龍である。

 だがこれまでとは、若干存在感が違う。
 何より、頭部に付いていた光輪、三つを覆うようについていたそれが、右側の首のみを覆うサイズに収縮していた。


「ハークさん・・……」

『カナさん、事情は聞いています。今はあの男をどうにかするため、尽力する……それでいいのですね?』

「はい!」

『それが分かるだけで結構です』


 神聖を帯びた光輪。
 そこから力がハークへ行き渡り、魔力の補助が行われている……外部バッテリーのような効果もあるみたいだな。


「だが、関係ない。俺は俺の道を貫き、貴様らを倒すのみだ──“疫病浴撒エピデミック”!」


 名前の通り、死の病を振りまく禍々しい魔法を解き放つ。
 ただし、通用するとは思っていない……相手の出方を伺うのみ。


『なんと卑劣な……ですが、残念ですね』


 そんな第二のハークが繰り出すのは、たった一つの魔法陣。

 ただし、それは光輪を媒介としたもの……発動した途端、眩い光が空間を支配する。
 その際術者である俺には、“疫病浴撒”が消し去られていくのが知覚できた。

 間違いなく、それは破邪系の魔法。
 それだけではなく、魔力そのものを消し去る魔法なのかもしれない。
 ディスクのように光輪が回転している。


「やるではないか……ならば、これを直接貴様に叩き込もう」

『竜殺しの魔剣、ですね。たしかに、そのままでは二の舞を踏むでしょう。ですが──その程度のこと、造作でもない』


 光輪が上から下へ、下から上へとハークの体を通過していく。
 すると光の膜がハークを包み込み、何やら魔法の効果をハークに付与する。

 ここから、俺とハークによる壮絶な戦いが幕を開ける……と思ったのだが、この場にはもう一人、参加者が居た。


「──お願いします、ケイコクさん!」

『カナさん! ……仕方ありませんね、どうしてですか?』

「え、えっと、自分がやられて、出てきたのがハークさんならそうしろって……」

「──そういうことだ、魔龍よ。貴様のような傲りを持つ者には、油断大敵という言葉が相応しかろう!」


 カナの職業は調教師系統のもの。
 本来であれば、何もない場所から配下を用意することはできない。

 しかし、過去のイベントでそれが可能なアイテムが配布されている。
 ……それとは関係なく、大量の配下を召喚する姿をさっき見ているけど。

 とにかく、この場に現れた新たな存在。
 十二枚の羽を持った、炎の天使──確信は持てないが、アジ・ダハーカ同様に、カナに導かれた結果生まれた存在なんだろうな。


「貴様、名は?」

「名とは問うて、返すものだろうに。まあよい、我が名はケイコク!」

「……種族名を言え」

「ふっ、やはり分かるか──『サマエル』、それこそが我が真名!」


 アダムとイヴに知恵の木の実を教えたという、魔王という説もある死を司る天使だ。
 つまりは天使であり悪魔、そして蛇……目の前の男は完全に見た目は天使だけど。


「天使であり、魔王、そして天魔! 我だけの、唯一無二の種族の力! 嗚呼、貴様に勝利という未来は存在せぬ!」

「……ほぉ、天魔か」

「かつての我であれば、貴様と互角の勝負を繰り広げたであろう。だが、今の我はカナの力によって昇華された! 天魔の焔により、貴様を死へと誘ってくれよう!」


 調べたことがあるのだが、天魔は天使か悪魔の状態で業値を中庸にしなければ進化できないという特殊な種族。

 そのため、最初からどちらかに偏っている自由民の天使と悪魔は進化しづらく、祈念者も調整に失敗して進化できないでいる。

 だからこその、固有種族でありながらなかなか数が増えないでいる天魔。
 天使と魔王、二つの経歴を持つがゆえにサマエル改めケイコクは天魔に至ったのか。


「因子を使えない今の身が、これほどまでに虚しく感じるとはな」

「……因子?」

「いや、何でもない。それよりも、後ろの二人は準備を終えたのであろうか?」

「ふっ、気づいていて誘いに乗るか。貴様のそれはの魔龍の傲りとは違うな。力を持つ強者ゆえの矜持……と言ったところか」


 そういうことではなく、単純に模倣できる術を増やしていたからだ。
 大量に展開される魔法陣、そしてカナが綴る何かしらの支援魔法。

 それらは俺の中に記憶されていき、共有されたものは眷属たちが解析してくれる。
 今は使えないものが多くとも、いずれ自らの力となる……うん、得しかない。


「案ずるな、ケイコク。貴様のやる気を引き出す魔法の言葉を教えてやろう」

「魔法の言葉だと?」

「ああ、そうだ。貴様は天魔、唯一無二の種族──つまりはボッチということだ」

「……それで煽ったつもりか? だが、否定はできぬな。ゆえに他の種族とつるみ、導かれたのだからな。いいだろう、その浅はかな挑発に乗ってやろうではないか」


 煽る気はなく、ただ思ったことをそのまま口にしただけである。
 何はともあれ、やる気を出してくれたのは実にいい──第三ラウンドの開始か。


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