1,540 / 2,518
偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦後篇 その12
しおりを挟む
連続更新となります(06/12)
===============================
俺はただ、自身の知覚領域に入ってきたその反応が近づくのを待った。
真っ向からの勝負……というわけではないが、それなりの礼儀を果たしたかったから。
相手も相手で、遠距離からの攻撃などはせずに空を優雅に舞ってそのままやってくる。
それは巨大な龍……ただし、首が三つ存在する上、頭に光の輪っかを載せているが。
そして、その主こそが待ち侘びた者。
暗ぼったい色のローブを羽織った、黒髪おさげの少女。
大量の魔物たちを使役し、俺が操っている『狂邪真竜』を討伐させにいく。
本人と、その龍だけがその場に残って俺をジッと見てくる。
「こ、これ以上先には行かせません! みんな、あの竜を倒し──」
「ははっ、懐かしい相手との対面だ──久しいな、カナよ!」
「あ、あなたは……魔王さん!?」
『禍々しい古龍の力を持つ者が現れたと思えば……なるほど、食客であったか』
共通語も話せる龍──『アジ・ダハーカ』ことハーク。
それを従えるのは、主人公候補にしてすでに『導士』として目覚めた調教師のカナ。
かつて、育成イベントにおいて彼女たちと協力して最後のボス──ノアの下へ辿り着いたのだが……うん、今回は敵として相対したというわけだな。
「ど、どうして魔王さんが……」
『カナよ、考えるまでもあるまい。食客……いや、彼の者こそがすべての元凶。精鋭たちと共にこの地を攻めに来たのだろう。そこに理由など存在せぬ』
「その通り! ただの遊びだ、俺も傍観に徹するつもりでいたが……やれやれ、さすがにカナを相手に見逃すという行動は取れないであろう? 俺直々に、足止めをしてやろう」
『迷う必要などない。奴とて祈念者、その身が朽ちることはない……』
たぶんだが、俺の邪縛やら問題にハークは気づいている。
そのうえで、主であるカナが悩まないように言わないでいるのだろう。
俺も自分から打ち明ける気はない。
相手には本気でぶつかって来てほしいし、自分のことで苦しんでほしくはない……偽善者は基本、自分優先だしな。
というわけで、もともと欠けた情報しか与えられていない以上、カナの選択は制限される──そんな中で、彼女が選ぶのはもっとも『らしい』行動だ。
「──分かりました。魔王さん、あなたをここから先には向かわせません!」
「よくぞ選んだ! ならば、俺も全力で相手となろう──“龍炎”!」
『この龍魔法……やはり異常だな。ならば、こちらの全力で応えよう』
ソウの恩恵を受けている以上、並大抵の攻撃では防げない火炎の放射。
しかし相手は導士の補正を受けた龍──千の魔法陣を浮かべ、迎撃を行ってきた。
普通に戦っていては、いかにソウの力を使えるとはいえ苦戦してしまう。
相手は[騎士]としてのイベント補正もあるのだから、なおのこと強大だ。
俺にできるのは、身体系スキルの行使と眷属の魂魄を借り受けてスキルを使うこと。
今は単純な戦闘力よりも、騙し討ちだろうと勝機を得られる能力が必要だ。
「剣の頂、高みへ至りし聖剣姫。禁忌の鎖の軛を解き放ち、其の身を今一度現界させん。生まれ出づるあまねく剣士、其に並び立つ者無き剣技を今ここへ──“獣剣魂魄”」
礼装は今一度、その姿を変える。
白銀は色褪せ、茶色が主のモノへ。
デザインは剣を模し、所々に血のように赤い鎖が生成される。
ティルの礼装なのだが、ただ剣に特化しているのではなく、彼女の生涯をも取り込んだ衣装になっております。
「剣は……これだな──[リュウゴロシ]」
『……また禍々しいものを』
「竜族特化の剣だ。貴様相手に使うのであれば、ちょうどよかろう──“火雨”」
なお、ティルはすでに七大属性と一部の派生属性の魔法を使えるようになっている。
普通に使用することはできないが、魔法剣としてならば使えるという条件付きだが。
それでも、使えることには違いないので相手が相手ということもあって魔法を使う。
アジ・ダハーカといえば、神話でも千の魔法を使ったと言われるほどの存在だしな。
降り注ぐ火の雨。
それなりに魔力を注いで威力を上げたが、千の魔法陣はすぐにそれを消火してしまう。
時間にしてほんの数秒……それでいい。
僅かでも時間を稼げれば、早口言葉の一つや二つ容易く唱えられるのだから。
「──“身体強化”、“俯瞰”、“俊敏”、“空間把握”、“肉体制御”、“韋駄天”、“物理加速”、“立体機動”、“見切り”、“空中制御”、“俊足”、“疾駆”……」
『なんとも多いな……カナ、こちらにもバフが欲しい』
「うん──“配下強化”、“■■”……」
途中からハークが音を掻き消したので、対策が取れなくなる。
あとで調べれば判明するのだが、少なくともそれは今ではない。
俺は身体の強化、そして移動速度の向上に加えてティルのスキルを重ねて使う。
ついでに意思を添えて魔力を込めると、鎖が勝手に動き出す。
カナとハークは自分たちだけでなく、苦戦している魔物たちへの強化も行う。
カナは職業的にそれが可能だし、ハークも千の魔法陣があれば充分に行えるだろう。
そして、準備が整った──第二ラウンドの始まりといこうか。
===============================
俺はただ、自身の知覚領域に入ってきたその反応が近づくのを待った。
真っ向からの勝負……というわけではないが、それなりの礼儀を果たしたかったから。
相手も相手で、遠距離からの攻撃などはせずに空を優雅に舞ってそのままやってくる。
それは巨大な龍……ただし、首が三つ存在する上、頭に光の輪っかを載せているが。
そして、その主こそが待ち侘びた者。
暗ぼったい色のローブを羽織った、黒髪おさげの少女。
大量の魔物たちを使役し、俺が操っている『狂邪真竜』を討伐させにいく。
本人と、その龍だけがその場に残って俺をジッと見てくる。
「こ、これ以上先には行かせません! みんな、あの竜を倒し──」
「ははっ、懐かしい相手との対面だ──久しいな、カナよ!」
「あ、あなたは……魔王さん!?」
『禍々しい古龍の力を持つ者が現れたと思えば……なるほど、食客であったか』
共通語も話せる龍──『アジ・ダハーカ』ことハーク。
それを従えるのは、主人公候補にしてすでに『導士』として目覚めた調教師のカナ。
かつて、育成イベントにおいて彼女たちと協力して最後のボス──ノアの下へ辿り着いたのだが……うん、今回は敵として相対したというわけだな。
「ど、どうして魔王さんが……」
『カナよ、考えるまでもあるまい。食客……いや、彼の者こそがすべての元凶。精鋭たちと共にこの地を攻めに来たのだろう。そこに理由など存在せぬ』
「その通り! ただの遊びだ、俺も傍観に徹するつもりでいたが……やれやれ、さすがにカナを相手に見逃すという行動は取れないであろう? 俺直々に、足止めをしてやろう」
『迷う必要などない。奴とて祈念者、その身が朽ちることはない……』
たぶんだが、俺の邪縛やら問題にハークは気づいている。
そのうえで、主であるカナが悩まないように言わないでいるのだろう。
俺も自分から打ち明ける気はない。
相手には本気でぶつかって来てほしいし、自分のことで苦しんでほしくはない……偽善者は基本、自分優先だしな。
というわけで、もともと欠けた情報しか与えられていない以上、カナの選択は制限される──そんな中で、彼女が選ぶのはもっとも『らしい』行動だ。
「──分かりました。魔王さん、あなたをここから先には向かわせません!」
「よくぞ選んだ! ならば、俺も全力で相手となろう──“龍炎”!」
『この龍魔法……やはり異常だな。ならば、こちらの全力で応えよう』
ソウの恩恵を受けている以上、並大抵の攻撃では防げない火炎の放射。
しかし相手は導士の補正を受けた龍──千の魔法陣を浮かべ、迎撃を行ってきた。
普通に戦っていては、いかにソウの力を使えるとはいえ苦戦してしまう。
相手は[騎士]としてのイベント補正もあるのだから、なおのこと強大だ。
俺にできるのは、身体系スキルの行使と眷属の魂魄を借り受けてスキルを使うこと。
今は単純な戦闘力よりも、騙し討ちだろうと勝機を得られる能力が必要だ。
「剣の頂、高みへ至りし聖剣姫。禁忌の鎖の軛を解き放ち、其の身を今一度現界させん。生まれ出づるあまねく剣士、其に並び立つ者無き剣技を今ここへ──“獣剣魂魄”」
礼装は今一度、その姿を変える。
白銀は色褪せ、茶色が主のモノへ。
デザインは剣を模し、所々に血のように赤い鎖が生成される。
ティルの礼装なのだが、ただ剣に特化しているのではなく、彼女の生涯をも取り込んだ衣装になっております。
「剣は……これだな──[リュウゴロシ]」
『……また禍々しいものを』
「竜族特化の剣だ。貴様相手に使うのであれば、ちょうどよかろう──“火雨”」
なお、ティルはすでに七大属性と一部の派生属性の魔法を使えるようになっている。
普通に使用することはできないが、魔法剣としてならば使えるという条件付きだが。
それでも、使えることには違いないので相手が相手ということもあって魔法を使う。
アジ・ダハーカといえば、神話でも千の魔法を使ったと言われるほどの存在だしな。
降り注ぐ火の雨。
それなりに魔力を注いで威力を上げたが、千の魔法陣はすぐにそれを消火してしまう。
時間にしてほんの数秒……それでいい。
僅かでも時間を稼げれば、早口言葉の一つや二つ容易く唱えられるのだから。
「──“身体強化”、“俯瞰”、“俊敏”、“空間把握”、“肉体制御”、“韋駄天”、“物理加速”、“立体機動”、“見切り”、“空中制御”、“俊足”、“疾駆”……」
『なんとも多いな……カナ、こちらにもバフが欲しい』
「うん──“配下強化”、“■■”……」
途中からハークが音を掻き消したので、対策が取れなくなる。
あとで調べれば判明するのだが、少なくともそれは今ではない。
俺は身体の強化、そして移動速度の向上に加えてティルのスキルを重ねて使う。
ついでに意思を添えて魔力を込めると、鎖が勝手に動き出す。
カナとハークは自分たちだけでなく、苦戦している魔物たちへの強化も行う。
カナは職業的にそれが可能だし、ハークも千の魔法陣があれば充分に行えるだろう。
そして、準備が整った──第二ラウンドの始まりといこうか。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる