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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦後篇 その12

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連続更新となります(06/12)
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 俺はただ、自身の知覚領域に入ってきたその反応が近づくのを待った。
 真っ向からの勝負……というわけではないが、それなりの礼儀を果たしたかったから。

 相手も相手で、遠距離からの攻撃などはせずに空を優雅に舞ってそのままやってくる。
 それは巨大な龍……ただし、首が三つ存在する上、頭に光の輪っかを載せているが。

 そして、その主こそが待ち侘びた者。
 暗ぼったい色のローブを羽織った、黒髪おさげの少女。

 大量の魔物たちを使役し、俺が操っている『狂邪真竜ハイエンド・バーサークドラゴン』を討伐させにいく。
 本人と、その龍だけがその場に残って俺をジッと見てくる。


「こ、これ以上先には行かせません! みんな、あの竜を倒し──」

「ははっ、懐かしい相手との対面だ──久しいな、カナよ!」

「あ、あなたは……魔王さん!?」

『禍々しい古龍の力を持つ者が現れたと思えば……なるほど、食客であったか』


 共通語も話せる龍──『アジ・ダハーカ』ことハーク。
 それを従えるのは、主人公候補にしてすでに『導士』として目覚めた調教師のカナ。

 かつて、育成イベントにおいて彼女たちと協力して最後のボス──ノアの下へ辿り着いたのだが……うん、今回は敵として相対したというわけだな。


「ど、どうして魔王さんが……」

『カナよ、考えるまでもあるまい。食客……いや、彼の者こそがすべての元凶。精鋭たちと共にこの地を攻めに来たのだろう。そこに理由など存在せぬ』

「その通り! ただの遊びだ、俺も傍観に徹するつもりでいたが……やれやれ、さすがにカナを相手に見逃すという行動は取れないであろう? 俺直々に、足止めをしてやろう」

『迷う必要などない。奴とて祈念者、その身が朽ちることはない……』


 たぶんだが、俺の邪縛やら問題にハークは気づいている。
 そのうえで、主であるカナが悩まないように言わないでいるのだろう。

 俺も自分から打ち明ける気はない。
 相手には本気でぶつかって来てほしいし、自分のことで苦しんでほしくはない……偽善者は基本、自分優先だしな。

 というわけで、もともと欠けた情報しか与えられていない以上、カナの選択は制限される──そんな中で、彼女が選ぶのはもっとも『らしい』行動だ。


「──分かりました。魔王さん、あなたをここから先には向かわせません!」

「よくぞ選んだ! ならば、俺も全力で相手となろう──“龍炎ドラグンフレイム”!」

『この龍魔法……やはり異常だな。ならば、こちらの全力で応えよう』


 ソウの恩恵を受けている以上、並大抵の攻撃では防げない火炎の放射。
 しかし相手は導士の補正を受けた龍──千の魔法陣を浮かべ、迎撃を行ってきた。

 普通に戦っていては、いかにソウの力を使えるとはいえ苦戦してしまう。
 相手は[騎士]としてのイベント補正もあるのだから、なおのこと強大だ。

 俺にできるのは、身体系スキルの行使と眷属の魂魄を借り受けてスキルを使うこと。
 今は単純な戦闘力よりも、騙し討ちだろうと勝機を得られる能力が必要だ。


「剣の頂、高みへ至りし聖剣姫。禁忌の鎖の軛を解き放ち、其の身を今一度現界させん。生まれ出づるあまねく剣士、其に並び立つ者無き剣技を今ここへ──“獣剣魂魄ソウルリンクス”」


 礼装は今一度、その姿を変える。
 白銀は色褪せ、茶色が主のモノへ。
 デザインは剣を模し、所々に血のように赤い鎖が生成される。

 ティルの礼装なのだが、ただ剣に特化しているのではなく、彼女の生涯をも取り込んだ衣装になっております。


「剣は……これだな──[リュウゴロシ]」

『……また禍々しいものを』

「竜族特化の剣だ。貴様相手に使うのであれば、ちょうどよかろう──“火雨ファイアレイン”」


 なお、ティルはすでに七大属性と一部の派生属性の魔法を使えるようになっている。
 普通に使用することはできないが、魔法剣としてならば使えるという条件付きだが。

 それでも、使えることには違いないので相手が相手ということもあって魔法を使う。
 アジ・ダハーカといえば、神話でも千の魔法を使ったと言われるほどの存在だしな。

 降り注ぐ火の雨。
 それなりに魔力を注いで威力を上げたが、千の魔法陣はすぐにそれを消火してしまう。

 時間にしてほんの数秒……それでいい。
 僅かでも時間を稼げれば、早口言葉の一つや二つ容易く唱えられるのだから。


「──“身体強化”、“俯瞰”、“俊敏”、“空間把握”、“肉体制御”、“韋駄天”、“物理加速”、“立体機動”、“見切り”、“空中制御”、“俊足”、“疾駆”……」

『なんとも多いな……カナ、こちらにもバフが欲しい』

「うん──“配下強化”、“■■”……」


 途中からハークが音を掻き消したので、対策が取れなくなる。
 あとで調べれば判明するのだが、少なくともそれは今ではない。

 俺は身体の強化、そして移動速度の向上に加えてティルのスキルを重ねて使う。
 ついでに意思を添えて魔力を込めると、鎖が勝手に動き出す。

 カナとハークは自分たちだけでなく、苦戦している魔物たちへの強化も行う。
 カナは職業的にそれが可能だし、ハークも千の魔法陣があれば充分に行えるだろう。

 そして、準備が整った──第二ラウンドの始まりといこうか。


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