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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦後篇 その05

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「ただいまー」

『おかえりなさい!』

「ああ。ところでカグ……勉強は?」

「おねーちゃんに教えてもらって、全部終わらせたよ!」


 まあ、カグの勉強が学校で出た宿題なのかそれ以外なのかは分からない。
 それでも、勉強をすれば知識を得られる。
 今の彼女はそれを貯めこむ時期だろう。


「ところで、カグはどんな勉強をしていたんだ? よかったら教えてくれないか?」

「あのねあのね、魔法使いでも魔術を使えるようにする方法を見つけたんだよ!」

「……世界を震撼させる勉強だった」

「メルス様。カグ様の理論は即座に魔術研究所へ報告しました。すぐに結果が返ってくるでしょう」


 魔法使いと魔術師。
 この二つの違いは、操る魔力の属性が無属性から特化した純属性のみかそれ以外かだ。

 さまざまな属性を操って魔法を使う魔法使いにとって、純属性のみを抽出して行使しなければならない魔術は非常に困難。

 また、才能が無いからこそ純属性のみに特化した魔術師が、魔法を使うのも難しい。
 純魔法なら使えると思われそうだが、込み入った事情もありそれもできないぞ。

 ──そこでカグの新理論が輝く。

 要点だけ端折って纏めると──魔法用の回路が形成されてしまっている者に、魔術師用の回路を上書きするという方法だ。

 危険そうに思えるが、そんなことを心優しいカグが許すはずもない。
 セーフティ機能が予め術式として記されており、時間経過で元に戻るようだ。


「ああ、凄いぞカグ! 今夜はお祝いだ、すぐに準備をしよう!」

「し、しなくても平気だよぉ」

「いいや、これで魔法使いと魔術師の懸け橋になる魔技が誕生したんだ! すぐにその逆も生まれ、好きな方を選べるようになる……そのきっかけはカグが作ったんだぞ!」

「メルス様の仰る通りです。カグ様、あなた様の行いはメルス様の仰った垣根を無くすことができる偉業と呼べるでしょう。もちろん謙虚なことは美徳でもありますが……メルス様のようになってしまいますよ?」


 わけの分からない説得の仕方……だが、なぜかカグはそれで納得したようだ。


「……うん、分かった」

「とのことですが、メルス様?」

「あ、ああ。とりあえず、包丁もあるから家庭料理をサクッと作ってくる。食材は……外の肉はやめておこうか。手伝ってくれる奴、いっしょに来てくれ」


 カグの反応は気になったが、今は祝うことに集中しよう。
 アンは分かっていっていたようだし、料理中に考えてみれば判明するかもしれないし。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──俺、そんなに拒否してた?」

「さすがメルス様、物語の主人公と違って辿り着きましたか。というわけで、さっそくこれまでツケにしていた分を支払ってもらいましょうか」

「俺が拒否していたのは、自分が面倒だと思うことだ。それ以上のサービスに関しては、言われるがままにやることはないだろう」

「チッ。では、仕方ありませんね。今回のところは、大人しく引き下がりましょう」


 言う台詞のすべてが光の灯っていないレイフ°目なうえ、かなり淡々と読むように言っているので感情が籠もっていないように思える……まあ、本人は真面目だろうが。


「メルス様にとっての普通とは? わたしたち眷属にとっての普通とは? 今回は、多少の差で済みました。メルス様やカグ様が礼を求めるレベルでは無かった、認識の差が根本的な原因です」

「……俺、何かしましたか? のあれか。俺は偽善をしたいのであって、お礼がしてもらいたいわけではないんだが?」

「縁を持たない相手であれば、それでもかまわないでしょう。ですが、恩義を持つ相手が何も求めないまま次々と何かを成しえていく姿は、罪悪感などあまりよろしくない感情をその者に与えてしまいます」

「…………ああ、それでか」


 ここで思い出したのはクラーレだ。
 俺がそんなだったから、ぶつかり合って本音を引き出そうとしていたのかもしれない。

 実際、メルスとしての姿がバレて本音を話せるようになってからは、クラーレの中で俺に関する行動の割り切りができるようになったみたいだし。

 そのことから考えるに、物語でも定番のあれ──「借りは返したぞ」的なことを、本人の意思でやるのがベストなんだろう。

 今回の場合、カグが祝われることを肯定したことで自分の中でも納得したわけだ。
 まだ詳細は分からないだろうが、自分の行いが誰かのためになったと理解をする。

 そして、普段から俺がやったことに対する礼を受け取らない様子から、礼を送る側のことを考えてくれたのだろう……そして、俺たちの祝いに参加してくれた。


「──って、攻城戦なんていう闘争に溢れたイベント中に話すことでもないんだよな」

「それを気になさるのは……あちらの光景を見てからでも遅くはないのでは?」

「ああ、それはずっと見ているんだけどな」


 パーティー感覚で楽しむついでに、暇な眷属やそうじゃなくとも時間に余裕ができた眷属をこの場に呼び寄せた。

 カグが快挙を成したので祝いたい、そう伝えただけで行動してくれる当たり……眷属はとてもいい奴らばかりだ。


「今後はどうなされるのですか? 全員で攻城戦に参加して、踏破となると……さすがに問題が生じてしまいます」

「たまには頭を空っぽにして、楽しみたいこともあるからな……あっち、踏破寸前まで追い込んでみるとか面白そうな気がする」


 もちろん、狙いはあそこだ。
 ……先にアポぐらいは取っておこうか。


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