上 下
1,532 / 2,518
偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦後篇 その04

しおりを挟む


「行け──『黒死鋲』」


 画鋲のような暗器を地面に向けて投げる。
 現在、空を飛んでいる俺からすれば、地面にあるものはすべて獲物だ。

 なお、投擲する際は縛りルールで解放されている暗器術を使っている。
 普通に投擲スキルの補正を受けるより、バレづらい投げ方をできるのだ。


『ゴォオアア!?』


 数体の魔物にそれらは命中する。
 また、そうでなくとも針が上になった状態で着地したそれを、魔物たちが勝手に踏むので犠牲者は増えていく。

 ──そう、犠牲者は増えていくのだ。


「たとえこの後、俺が何もしなくても」

『ゴアァアアアアアアッ!!』

「ほーら、もう発症した」


 言わずとも、その武具の名が物語る。
 最悪の細菌と同じ読みを持った鋲、それは突き刺した相手を苦しめる疫病をもたらす。

 ただ、さすがにそれを外部に振りまくほど俺も落ちぶれてはいない。
 制作の段階で、多少弄ってあるので魔力でできた擬似細菌も数分で消滅する。


「その前に死ぬけどな」

『ゴガガガ、ゴァアア──ッ!』

『グォンッ!?』

「高熱、悪寒、頭痛、痛みや腫れ、咳、痰、胸痛、腹痛、出血斑などなど……従来の症状に加えて、身力操作の阻害や発狂が状態異常に出るぞ。これも全部、あの人のお陰だな」


 かつての英霊のスキルを解析し、当時受けた呪いや病──総称して『呪病』──を再現した結果、擬似細菌が誕生した。

 俺はそのオリジナルを浴びているため、この後地上に降りても問題ない。
 ……だが、魔物たちはそうじゃない。
 そして、擬似細菌は接触で別個体を蝕む。


「死体にも働く擬似細菌だ。食べて再生力を高めようとしても、逆に自分を苦しめるぞ。それに、そろそろ第二フェイズへ移行だ」


 擬似細菌たちは引かれあう。
 それは人々が同じ病気の人たちを隔離したように、同じ場所へ集まって……互いにぶつかりあっていく。

 要するに蟲毒が発生する。
 鋲を飛ばす前にそう設定しておいたので、魔物たちは殺し合いを始めだす。

 擬似細菌が自分と同じ存在を知覚すると、内部からそれを抉り出すために寄生主に持ち主を殺させようとする……狂っている個体は当然それを行うため、結果的にこうなる。


「というわけで、俺に注意を向ける個体はほぼいなくなった──“擬態”」


 先ほどの弱者に見せかける擬態ではなく、隠蔽擬態という隠れることに特化した擬態。
 礼装の力で補正が加わり、俺の姿は完全に狂気の中へ溶け込んでいく。


「直接狩りに行ってやる──“大鎌生成”」


 鋲の出番は終わったので、両手を包むように礼装が形を変え──巨大な鎌となる。
 そして荒ぶる鷹のポーズを取ってから、一気に戦場を駆け巡る。


「──“認識偽装”、“空間把握”、“思考加速”、“精密操作”、“自重操作”」


 自分の姿を隠し、場を知覚する。
 思考速度を高め、器用さを上げて魔物たちに両腕の鎌を振るう。

 その際、掛ける重量を変更しておく。
 重さはそのまま力に転じて、通常では切れないものを切れるようにしてくれる。


「今は武技を使わないけど、暗殺術の補正だけでも充分だな。暗器じゃないから、二重の補正は受けられないけど」


 一撃必殺のいわゆる小狡い手を使えば、だいたい暗殺術の補正が入る。
 効果は即死クリティカルの発生率向上、そしてその攻撃の成功率向上だ。

 要するに、ダメージ的にも物理的にも暗殺に補正が入る。
 前者はステータス的に即死を、後者は首を切り落とすとかそういう感じだ。


「首狩りか……なかなか現実感がないな」


 普通に殺すならまだしも、首を刎ねるなんて現実でもめったに無いのでは?
 殺すならいちいち首を狙わずとも、心臓を一突きでも毒でもやり方は無数にある。

 テレビでよく見た殺人事件でも、首を刎ねるなんて見た覚えがないぐらいに件数が少ないと思う。

 そのため、それを俺自身が実行しているというのは新鮮というかなんというか……。
 補正もあってサクサクと進むのだが、生々しい感触が伝わってくる。


「{感情}様の効果もあって、別に危険性を感じているわけじゃないけどさ。まあ、もったいないとは感じるけど」


 あとで<物質再成>を使って、首は元の場所に戻しておこっかな?
 自分でやっておいて、また仕事を増やしてしまう俺なのであった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「……ふぅ、しばらくは何も来ないだろう」


 夥しい死体、血生臭い周囲の環境。
 何より無残な死を遂げた魔物たちの悲鳴が先ほどまで上がっており、そこには忌避感を感じるものしか存在していない。


「それ、一番感じるのは俺だろうけど」

《ご安心を。メルス様を嫌がる眷属など、一人もおりませんので》

「アンか……そっちはどうなっている?」


 俺のやっていることが、終わったと分かっているからだろう。
 念話が届いたのは、まさに帰ろうかと考えた瞬間であった。


《子細ありません。カグ様のお勉強をお手伝いしているぐらいでしょうか?》

「できるだけ自分でやらせるんだぞ」

《おや、メルス様には他の人にやってもらったという経験がございませんか?》

「……だからこそだよ」


 このままでは、俺が一方的に罪悪感に圧し潰されるだけだ。
 どうにか話題を元に戻してもらい、本題へ移ることに。


「とりあえず、そっちへ帰る。擬似細菌の暴走がないことも確認したし」

《畏まりました。では、眷属総出でお迎えさせていただきましょう》

「いや、別にいいから。カグの勉強に付き添いをしててくれ」

《分かりました》


 死体を一気に片付けて、血液の方も集めれば掃除は終了だ。
 ……さて、都市に帰りましょう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...