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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦後篇 その04

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「行け──『黒死鋲』」


 画鋲のような暗器を地面に向けて投げる。
 現在、空を飛んでいる俺からすれば、地面にあるものはすべて獲物だ。

 なお、投擲する際は縛りルールで解放されている暗器術を使っている。
 普通に投擲スキルの補正を受けるより、バレづらい投げ方をできるのだ。


『ゴォオアア!?』


 数体の魔物にそれらは命中する。
 また、そうでなくとも針が上になった状態で着地したそれを、魔物たちが勝手に踏むので犠牲者は増えていく。

 ──そう、犠牲者は増えていくのだ。


「たとえこの後、俺が何もしなくても」

『ゴアァアアアアアアッ!!』

「ほーら、もう発症した」


 言わずとも、その武具の名が物語る。
 最悪の細菌と同じ読みを持った鋲、それは突き刺した相手を苦しめる疫病をもたらす。

 ただ、さすがにそれを外部に振りまくほど俺も落ちぶれてはいない。
 制作の段階で、多少弄ってあるので魔力でできた擬似細菌も数分で消滅する。


「その前に死ぬけどな」

『ゴガガガ、ゴァアア──ッ!』

『グォンッ!?』

「高熱、悪寒、頭痛、痛みや腫れ、咳、痰、胸痛、腹痛、出血斑などなど……従来の症状に加えて、身力操作の阻害や発狂が状態異常に出るぞ。これも全部、あの人のお陰だな」


 かつての英霊のスキルを解析し、当時受けた呪いや病──総称して『呪病』──を再現した結果、擬似細菌が誕生した。

 俺はそのオリジナルを浴びているため、この後地上に降りても問題ない。
 ……だが、魔物たちはそうじゃない。
 そして、擬似細菌は接触で別個体を蝕む。


「死体にも働く擬似細菌だ。食べて再生力を高めようとしても、逆に自分を苦しめるぞ。それに、そろそろ第二フェイズへ移行だ」


 擬似細菌たちは引かれあう。
 それは人々が同じ病気の人たちを隔離したように、同じ場所へ集まって……互いにぶつかりあっていく。

 要するに蟲毒が発生する。
 鋲を飛ばす前にそう設定しておいたので、魔物たちは殺し合いを始めだす。

 擬似細菌が自分と同じ存在を知覚すると、内部からそれを抉り出すために寄生主に持ち主を殺させようとする……狂っている個体は当然それを行うため、結果的にこうなる。


「というわけで、俺に注意を向ける個体はほぼいなくなった──“擬態”」


 先ほどの弱者に見せかける擬態ではなく、隠蔽擬態という隠れることに特化した擬態。
 礼装の力で補正が加わり、俺の姿は完全に狂気の中へ溶け込んでいく。


「直接狩りに行ってやる──“大鎌生成”」


 鋲の出番は終わったので、両手を包むように礼装が形を変え──巨大な鎌となる。
 そして荒ぶる鷹のポーズを取ってから、一気に戦場を駆け巡る。


「──“認識偽装”、“空間把握”、“思考加速”、“精密操作”、“自重操作”」


 自分の姿を隠し、場を知覚する。
 思考速度を高め、器用さを上げて魔物たちに両腕の鎌を振るう。

 その際、掛ける重量を変更しておく。
 重さはそのまま力に転じて、通常では切れないものを切れるようにしてくれる。


「今は武技を使わないけど、暗殺術の補正だけでも充分だな。暗器じゃないから、二重の補正は受けられないけど」


 一撃必殺のいわゆる小狡い手を使えば、だいたい暗殺術の補正が入る。
 効果は即死クリティカルの発生率向上、そしてその攻撃の成功率向上だ。

 要するに、ダメージ的にも物理的にも暗殺に補正が入る。
 前者はステータス的に即死を、後者は首を切り落とすとかそういう感じだ。


「首狩りか……なかなか現実感がないな」


 普通に殺すならまだしも、首を刎ねるなんて現実でもめったに無いのでは?
 殺すならいちいち首を狙わずとも、心臓を一突きでも毒でもやり方は無数にある。

 テレビでよく見た殺人事件でも、首を刎ねるなんて見た覚えがないぐらいに件数が少ないと思う。

 そのため、それを俺自身が実行しているというのは新鮮というかなんというか……。
 補正もあってサクサクと進むのだが、生々しい感触が伝わってくる。


「{感情}様の効果もあって、別に危険性を感じているわけじゃないけどさ。まあ、もったいないとは感じるけど」


 あとで<物質再成>を使って、首は元の場所に戻しておこっかな?
 自分でやっておいて、また仕事を増やしてしまう俺なのであった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「……ふぅ、しばらくは何も来ないだろう」


 夥しい死体、血生臭い周囲の環境。
 何より無残な死を遂げた魔物たちの悲鳴が先ほどまで上がっており、そこには忌避感を感じるものしか存在していない。


「それ、一番感じるのは俺だろうけど」

《ご安心を。メルス様を嫌がる眷属など、一人もおりませんので》

「アンか……そっちはどうなっている?」


 俺のやっていることが、終わったと分かっているからだろう。
 念話が届いたのは、まさに帰ろうかと考えた瞬間であった。


《子細ありません。カグ様のお勉強をお手伝いしているぐらいでしょうか?》

「できるだけ自分でやらせるんだぞ」

《おや、メルス様には他の人にやってもらったという経験がございませんか?》

「……だからこそだよ」


 このままでは、俺が一方的に罪悪感に圧し潰されるだけだ。
 どうにか話題を元に戻してもらい、本題へ移ることに。


「とりあえず、そっちへ帰る。擬似細菌の暴走がないことも確認したし」

《畏まりました。では、眷属総出でお迎えさせていただきましょう》

「いや、別にいいから。カグの勉強に付き添いをしててくれ」

《分かりました》


 死体を一気に片付けて、血液の方も集めれば掃除は終了だ。
 ……さて、都市に帰りましょう。


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