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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦後篇 その02

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 ギュッと抱き着いてきたカグを、俺もほんの少しだけ力を加えて抱き返す。
 何もしなかったり力をいっさい加えない場合、カグが寂しがるとカカが言っていた。


「おにーちゃん!」

「おおっ、カグ! カカに頼んでくれたんだな、助かったよ!」

「えへへ、カカもお返しがしたいって言ってたんだ」

「それでも、カグの協力なしじゃ成し得ることのできなかったことだ。少なくとも、俺にはカカを頼るってアイデアは無かったしな」


 カカは神であり、神頼みは俺のポリシーに反している……いやまあ、充分リオンに偽装工作を頼んではいるけど。

 戦闘系だけでも、神々の手を煩わせないようにと考えているのだ。
 なのでカグの行ったことは、絶対に俺ではできなかったことというわけだな。

 ポンッと手を頭に乗せる。
 つい、みたいな感じで撫でられるのは、ひとえに眷属たちによる調教の結果……なのかもしれない。


「カグがずっとカカを降ろし続けていられたのも、できるように頑張ってきたからだ。初めからそうだったわけじゃない。カグが頑張ろうと思ってやり続けてきたからこそ、ここは二人に守られたんだ」

「そう……なのかな?」

「自信を持ってくれていいんだぞ。現れる魔物は、本来カグの歳じゃ逆立ちしても勝てないレベルだし……そもそも単独ですべてに対処するのは、できない眷属も多い」


 広域殲滅ならまだしも、制圧──ただ破壊するだけでなく対象を選ぶことが、できるような戦闘法を取らねばならないからな。

 うちには過剰な力を発揮してしまう者、単体戦を繰り返さねばならない者など、特定条件下で真価を発揮する者が多いのだ。


「さて、カグ。とりあえず休もう。カカからも聞いていると思うし、自分でも分かっているだろう? いかに頑張ってくれたとはいえども、これ以上はもう限界だ」

「……うん、分かってる。おにーちゃん、それじゃあいっしょに寝よう!」

「そうだな、いっしょに……って、え゛?」

「寝よう寝よう、早く寝よう!」


 俺を引っ張るカグ、それを振り払うことは容易い……が、それはできない。
 このままでは道徳的にアウト! 何より眷属を傷つけるようなことはしたくないのだ。

 となれば、変身魔法を使えば妖女状態になれるので問題ない。
 眷属優先ルールを使用して、自身の姿をモブから美少女へ変える。

 カグもそうなることは分かっていたのか、不満も文句も言わず、態度にも出さない。
 意識を切り替えメルとして、今度はカグの前に進み出る。


「うん、それじゃあカグ、どこで寝たい?」

「えっと、お布団がいいかな? スーおねーちゃんのお布団がいいと思う。おにーちゃんがすぐに元気になるもん」

「分かった──『堕落の寝具』。それじゃあ中に行こう。ちゃんと、良い場所に案内するからね」


 もっとも早く生まれた【怠惰】の魔武具。
 この世界で安住の地を求め、もっとも安全な場所を生みだすための力を宿している。

 俺とカグは瞬時に着替え、布団へ潜った。
 そしてその周囲を結界が包み込み、ふわりと浮かび上がる。


「安心してね、誰も私たちの眠りを妨げる者はいないから。ゆっくりと寝よう……おやすみ、カグ」

「うーん……おや、すみ……」

「うん、おやすみ」


 ニコリと笑ってから、瞼を閉じるカグ。
 すぐに彼女の状態は『睡眠』となり、意識はこことは異なる場所へ。


「私も……寝るよ。アン、任せていい?」

《おやまあ、気づいておられましたか》

「カカとカグに気を使って黙っていてくれたみたいだね。とりあえず、寝ている間の指揮はアンに委ねるから……最悪、領域は放棄して良いから、カグは守っていてよ」

《メルス様もお守りいたしますよ。ご安心してください》


 そう言ってもらえて何より。
 俺も安心して、意識を落とせ──


≪──占有領域『都市トレモロ』にて、偶発的レイドが発生します≫


 ああもう、面倒臭いんだよ!
 カグと共に寝る、それを邪魔するのであれば容赦などする必要しない!

 先にカグの周りに感知を妨害する結界を構築し、魔力を一気に解き放つ。
 それらすべてをここではない場所へ送り込み、イメージした光景で現実を塗り潰す。


「魔導解放──“彷徨える豊樹の大海”! アン、徹底的に潰して!!」

《本当に過保護ですね、メルス様は。先に申しておきますと、思考を割いて調査するようなことはしないでくださいよ?》

「……分かった、止めておく。だから頼んだよ、アン」

《お任せください。必ずや、死守します》


 魔導はきっかり三十分、現れる敵対勢力すべてを迷いの森へと閉じ込める。
 眷属たちは、それを処理していくだけ……もちろん、迷いの影響はいっさい受けずに。

 ……そろそろ寝た方がいいかな?
 意識をスキルで遮断して、『眠る』という行為を始めるのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


≪──占有領域『都市トレモロ』、偶発的レイドが終了しました≫
≪討伐数──評価:S≫

≪レイドのレベルはすでに最大値です、魔物の数を増大させます。失敗した場合は通常レベルへ戻ります≫


 きっかり三十分、俺とカグは意識をこちらへ呼び覚まされて目を開ける。
 体の疲れを取るためのものだったので、これぐらいで充分だった。


「おはよう、カグ。調子はどう?」

「うん、おはよう! わたしは大丈夫だよ。おにーちゃんは?」

「私もバッチリかな? やっぱり、休むのは大切なんだね……」


 完璧に防げたようだが、現場がどうなっているか分からない。
 素材の回収もあるし、一度様子を見に行っておこうか。


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