上 下
1,528 / 2,518
偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦中篇 その20

しおりを挟む


 姉妹たちを眷属にしたこと、その他諸々の事情から俺に怒りを抱いていたGM02を宥めていた最後のGM06。

 彼女はなぜか正座をしている02を放置すると、こちらを向いて挨拶をしてくる。


「あらためまして。わたしは……あっ、そうでした。メルスおにいさま、その、ひとつお願いがあるのですが……」

「えっと……それってもしかして──」

「はい、そのまさかです。よければわたしにも、なまえをいただけないでしょうか?」

「言われていたから構わないが……少し、会話させてくれないか? どんな人柄なのか、まずはそれを知ってからにしたい」


 これまでも、その実績があるからこそGMたちは名前を求めてきた。
 存在の格とやらの問題で、普通の祈念者ではできないから俺に頼んでくるんだとか。

 ネーミングセンスが皆無な俺なので、見ただけですぐ決めるのは……正直難しい。
 会ったばかりの06、彼女の人物像を理解してから名前を考えたかった。


「それに、他にも話したいことがある……そうだろう? 例の話はともかく、それ以外なら俺も君と話したい」

「ありがとうございます。ゼロツーおねえさま、おねえさまはどうされますか?」

「……野獣の前に可愛い妹を置いておけるわけがないだろう。ぼくも見張りとして、ここにいさせてもらうよ」

「いえ、そちらのはなしではなく、メルスおにいさまからなまえをいただくというはなしについてです」


 監視が付くことは性格上、すでに確定していたのだろう。
 なので問うのはそこではなく、今も嫌そうな表情を浮かべている件についてだ。


「おねえさま、かんがえてみてください。このままではおねえさまだけが、ナンバーよびになってしまいますよ?」

「うぐっ……だが、この男から……」

「ほかにわたしたちへなをあたえられるかたはいません。それに……ひとりだけ、ほかのかたからなをいただいて、おねえさまはなっとくできますか」

「ぐっ、うぅ……な、名前を聞いてから考えることにする」


 姉妹には弱いらしい02。
 自分の中で高まった複雑な感情は、すべてこちらへの怒りとして還元しているらしく、これまで以上に睨み付けてくる。

 ──という一連の変化をすべて察しているのか、申し訳なさそうな表情をする06。


「ありがとうございます、ゼロツーおねえさま。では、メルスおにいさま。いっしょにおはなしをしましょう」

「ああ、そうしよう」


 用意するのは椅子と机。
 そこにさまざまなお菓子を並べておく。
 もちろん02の分も用意したのだが……俺と06が座ってもなかなか座ろうとしない。


「おねえさま……」

「わ、分かったよ、座ればいいんだろう?」

「はい、さすがはおねえさまです」

「ふ、ふふふっ、そうだろうそうだろう!」


 本当に妹に弱いんだな02って……。
 すでにレイたちから聞いていたとはいえ、ここまでとは想像もしていなかった。

 だが、とりあえずこれで話を邪魔するモノは何も無いわけだ。
 何から話そうか……とりあえず、あのエピソードからかな?


  ◆   □   ◆   □   ◆


「まあ、それでどうなったのですか?」

「ああ、今はそこの情報収集に徹しているところだ。思いのほか資料が豊富にあったみたいで、纏めるのも一苦労らしい」

「ふむふむ、そのせかいにもそれだけのれきしがつみかさなっているというわけですね。それも、しょもつとしてちしきをのこしておけるだけのぶんめいをもって」

「……そういう考え方をしたことが無かったよ。なるほど、眷属たちは普段そんな風に物事を考えているのか」


 06との会話はとても弾み、今は橙色の世界の話をしていた。
 二つ目の華都、森人たちが過ごすあの場所には大図書館があったからな。

 アンが籠もって読んでくれていたが、終わるまでにかなりの日数を要した。
 なので要点や事実だけを抽出するために、それ以上の時間を掛けているんだとか。

 とりあえず、話すことも無くなった。
 その間に思考を重ねることで、ある程度名前の候補も挙げている。
 そして、二人に提案する名前も──


「『莉烏リウ』」

「リウ……ですか?」

「急で悪いな。ちょうど思いついた、君の新しい名前だ。字はこんな感じだ」

「リウ、リウ、リウ……ふしぎななまえですが、とてもしっくりきます。ありがとうございます、メルスおにいさま! わたし、これからはリウとなのっていくことにします!」


 とても嬉しそうな06改めリウ。
 だが喜べば喜ぶほど、反比例するように機嫌が悪くなっていく02。


「……それで、ぼくにもさぞ素晴らしい名前が見つかっているんだろうね?」

「ああ、もちろん──『地奈チナ』。それが考えていた名前だ。意味も訊くか?」

「…………聞くだけだ」


 ちらりとリウの方を見てみたが、ニコニコとしているので問題ないだろう。
 あっ、リウの方は定番の『ジャスミン』に、濡羽色の彼女の色をイメージして付けたものだ。


「『地』は大地、まあたとえは下手かもしれないけど姉妹たちを広い心で支えている──『縁の下な力持ち』みたいな感じと、土属性の担当だからってのが理由だな」

「…………」

「『奈』はベニリンゴ、らしい。もともとこの字は上と下の部分で違う意味を表して、上が大地を覆う大木、下が神事──つまり神事に用いる大樹って意味だ。その二つを合わせて『地奈』、それが新しい名前候補だ」


 それなりに張り切って考えてみた。
 昔取った杵柄で、そういう単語に籠められた意味とかを調べたことがあったので。

 02はそれを……うん、悪くは思っていないようだ。
 小さく『チナ、チナ』と呟いてくれているみたいなので。


「あとは……あちらをなっとくしていただければいいのですね?」

「俺はそれでもいいんだが……いいのか?」

「おねえさまはいじをはっているのです。ですので、わたしにできるのはけつだんをおしすすめることだけです」

「そこまでして、なりたいものなのか?」


 ここでの出来事はアンが他の眷属たちに伝えてくれる。
 ……つまり、しばらくここにいても、問題にはならないわけだな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...