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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦中篇 その20
しおりを挟む姉妹たちを眷属にしたこと、その他諸々の事情から俺に怒りを抱いていたGM02を宥めていた最後のGM06。
彼女はなぜか正座をしている02を放置すると、こちらを向いて挨拶をしてくる。
「あらためまして。わたしは……あっ、そうでした。メルスおにいさま、その、ひとつお願いがあるのですが……」
「えっと……それってもしかして──」
「はい、そのまさかです。よければわたしにも、なまえをいただけないでしょうか?」
「言われていたから構わないが……少し、会話させてくれないか? どんな人柄なのか、まずはそれを知ってからにしたい」
これまでも、その実績があるからこそGMたちは名前を求めてきた。
存在の格とやらの問題で、普通の祈念者ではできないから俺に頼んでくるんだとか。
ネーミングセンスが皆無な俺なので、見ただけですぐ決めるのは……正直難しい。
会ったばかりの06、彼女の人物像を理解してから名前を考えたかった。
「それに、他にも話したいことがある……そうだろう? 例の話はともかく、それ以外なら俺も君と話したい」
「ありがとうございます。ゼロツーおねえさま、おねえさまはどうされますか?」
「……野獣の前に可愛い妹を置いておけるわけがないだろう。ぼくも見張りとして、ここにいさせてもらうよ」
「いえ、そちらのはなしではなく、メルスおにいさまからなまえをいただくというはなしについてです」
監視が付くことは性格上、すでに確定していたのだろう。
なので問うのはそこではなく、今も嫌そうな表情を浮かべている件についてだ。
「おねえさま、かんがえてみてください。このままではおねえさまだけが、ナンバーよびになってしまいますよ?」
「うぐっ……だが、この男から……」
「ほかにわたしたちへなをあたえられるかたはいません。それに……ひとりだけ、ほかのかたからなをいただいて、おねえさまはなっとくできますか」
「ぐっ、うぅ……な、名前を聞いてから考えることにする」
姉妹には弱いらしい02。
自分の中で高まった複雑な感情は、すべてこちらへの怒りとして還元しているらしく、これまで以上に睨み付けてくる。
──という一連の変化をすべて察しているのか、申し訳なさそうな表情をする06。
「ありがとうございます、ゼロツーおねえさま。では、メルスおにいさま。いっしょにおはなしをしましょう」
「ああ、そうしよう」
用意するのは椅子と机。
そこにさまざまなお菓子を並べておく。
もちろん02の分も用意したのだが……俺と06が座ってもなかなか座ろうとしない。
「おねえさま……」
「わ、分かったよ、座ればいいんだろう?」
「はい、さすがはおねえさまです」
「ふ、ふふふっ、そうだろうそうだろう!」
本当に妹に弱いんだな02って……。
すでにレイたちから聞いていたとはいえ、ここまでとは想像もしていなかった。
だが、とりあえずこれで話を邪魔するモノは何も無いわけだ。
何から話そうか……とりあえず、あのエピソードからかな?
◆ □ ◆ □ ◆
「まあ、それでどうなったのですか?」
「ああ、今はそこの情報収集に徹しているところだ。思いのほか資料が豊富にあったみたいで、纏めるのも一苦労らしい」
「ふむふむ、そのせかいにもそれだけのれきしがつみかさなっているというわけですね。それも、しょもつとしてちしきをのこしておけるだけのぶんめいをもって」
「……そういう考え方をしたことが無かったよ。なるほど、眷属たちは普段そんな風に物事を考えているのか」
06との会話はとても弾み、今は橙色の世界の話をしていた。
二つ目の華都、森人たちが過ごすあの場所には大図書館があったからな。
アンが籠もって読んでくれていたが、終わるまでにかなりの日数を要した。
なので要点や事実だけを抽出するために、それ以上の時間を掛けているんだとか。
とりあえず、話すことも無くなった。
その間に思考を重ねることで、ある程度名前の候補も挙げている。
そして、二人に提案する名前も──
「『莉烏』」
「リウ……ですか?」
「急で悪いな。ちょうど思いついた、君の新しい名前だ。字はこんな感じだ」
「リウ、リウ、リウ……ふしぎななまえですが、とてもしっくりきます。ありがとうございます、メルスおにいさま! わたし、これからはリウとなのっていくことにします!」
とても嬉しそうな06改めリウ。
だが喜べば喜ぶほど、反比例するように機嫌が悪くなっていく02。
「……それで、ぼくにもさぞ素晴らしい名前が見つかっているんだろうね?」
「ああ、もちろん──『地奈』。それが考えていた名前だ。意味も訊くか?」
「…………聞くだけだ」
ちらりとリウの方を見てみたが、ニコニコとしているので問題ないだろう。
あっ、リウの方は定番の『莉』に、濡羽色の彼女の色をイメージして付けたものだ。
「『地』は大地、まあたとえは下手かもしれないけど姉妹たちを広い心で支えている──『縁の下な力持ち』みたいな感じと、土属性の担当だからってのが理由だな」
「…………」
「『奈』はベニリンゴ、らしい。もともとこの字は上と下の部分で違う意味を表して、上が大地を覆う大木、下が神事──つまり神事に用いる大樹って意味だ。その二つを合わせて『地奈』、それが新しい名前候補だ」
それなりに張り切って考えてみた。
昔取った杵柄で、そういう単語に籠められた意味とかを調べたことがあったので。
02はそれを……うん、悪くは思っていないようだ。
小さく『チナ、チナ』と呟いてくれているみたいなので。
「あとは……あちらをなっとくしていただければいいのですね?」
「俺はそれでもいいんだが……いいのか?」
「おねえさまはいじをはっているのです。ですので、わたしにできるのはけつだんをおしすすめることだけです」
「そこまでして、なりたいものなのか?」
ここでの出来事はアンが他の眷属たちに伝えてくれる。
……つまり、しばらくここにいても、問題にはならないわけだな。
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