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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦中篇 その17

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《メルス様、ご機嫌麗しゅう?》

「アン……いや、急にどうしたんだ?」

《偶発的レイドの防衛、お疲れ様でした。暇そうでしたので、そちらをお伝えしたく》

「まあ、うん、嬉しいけど……ありがとう」


 アンからの念話にそう応え、会話を行う。
 現時刻は現実世界で言うところの二十三時ぐらい、ギリギリに行われた偶発的レイドを退けたばかりである。


「それで、わざわざどうしたんだ?」

《祈念者が侵入してきました》

「…………どうしたんだ?」


 先ほどとは違う抑揚で、問いかけた。
 アンは思考を読んでいるので、意図を察して返答を行う。


《光学迷彩で姿を隠した状態で襲撃、魔物を誘導して死に戻りさせました》

「MPKか……けど、どうしてわざわざここに来ようとしたんだ?」

《一パーティーでしたので、あくまで高難易度と傭兵契約が狙いかと。自分たちから乗り込むことで、アピールを行ったように思われますね》

「そんな理由でか……まあ、来る者拒んで去る者追わずって決めているからな」


 もちろん、関係者は除くわけだが。
 それでもまあ、よくぞここまで辿り着いたものだ……嫌がらせの魔法を道中に何個か設置したはずなんだけどな。


「これからも増えると思うか?」

《アルカ様たちも偶発的レイドを経れば、最高難易度に達するでしょう。知れている情報が多い分、向かう祈念者の数はあちらの方が多いでしょうが……》

「それまでの実績があるうえ、人が少ないから山分けされるポイントの量が多い。命を賭けられるヤツはこっちに来るのか……眷属と守りたいから、別に要らないけど」

《まったくです。メルス様が築いた愛の居城である以上、わたしたちは全力で死守すると誓っているというのに……》


 アンの言動の大半は、俺の深層心理で叫びたがっていることだ。
 俺もまた、眷属と共に居られるこの場所を守りたいと想っているということだろう。


「それじゃあどうするか……ネロなら喜んで実験材料にしたがるだろうし、次来たら引き渡すって方向にするか?」

《常駐ですか? となると、スケジュールに調整が入ることになりますね》

「……誰の?」

《メルス様に呼ばれたく、召喚に細工を……いえ、なんでもありません》


 ランダムだと思っていた眷属の召喚だったが……どうやら裏があったみたいだ。
 今後は修正を行わせ、完全なランダムかどうかを選択できるようにしてもらおう。


「まあ、祈念者は次に来たときに考えることにして……暗殺者に狩らせるか」

《よろしいのですか?》

「自由を与えちゃったもんな。今さら覆す気にもならないし、何かいい方法は……いや、それはダメだな」

《そのお考えで良いと思いますが。どなたであろうと、経験をすることが必要かと》


 まあ、うちの眷属は誰でも優秀だしな。
 それに……今回頼む内容を、すでに経験しているのだ、多少は荒事でも受け入れてくれるのだろう。


「だからこそって思うが……あぁああ! もう悩んでても仕方ない、とりあえずやってやろうじゃないか!」

《ふっふっふ、すべては計画通り……このようにやるのがメルス様の御望みでしたか? では、さっそく召喚いたしましょう──メルス様の右腕である、このわたしを!》

「えっ、違うけど──“召喚サモン眷属ファミリア”!」


 これもきっとボケなんだろう、アンの優しさに感謝しながら魔法を発動する。
 展開される魔法陣、そこからゆっくりと現れる……小さな点。

 あまりに小さすぎるが故に、その存在は本来視認することが極めて難しい。


『パパー!』


 だが、俺がその声を逃すわけにはいかないのだ……身体系スキルの中でも聴覚に関するスキルを全力で行使して、微かに聞こえた共通語を聞き取る。


「ミント……そっちの姿がいいのか?」

「──ううん、やっぱりこっちの方がパパも喜んでくれるもん!」

「どっちもミントだ、俺は構わないけどな。うん、よく来てくれたよミント」


 一瞬発光したのち、現れたのは幾重にも重ねられた着物を羽織る小さな少女だ。
 ただし、背中から透明な虫の翅が生えてはいるが。

 光の加減によって色の変わる特殊な目でこちらを見てくる……文字通り小さな少女。
 俺はそんな我が娘を掌に載せて、話を進めることにした。


「ミント、君に指令を与えよう」

「指令?」

「ああ、ここを狙う侵入者。君にはその暗殺任務に就いてもらう。相手は魔物ではなく、祈念者たちだ」

「うん、了解!」


 ミントは『天魔迷宮』の内部で、何度も侵入者たちを狩り殺している。
 それは仮初の死であるが、血も出るし死の実感があるもの。

 過去のことを除き、俺と出会ってからもっとも人を殺した者となると……他の誰でもなくミントがもっとも殺害数を誇っている。

 よくもまあ、歪まず育ったものだ。
 お父さん、我ながら自分の教育方針に問題が有ったと思います。


「頑張ったらご褒美をあげよう。眷属といっしょにいられるこの場所を守るため、証を出せない人は全員始末するんだ」

「はーい!」

「良い返事だ。それじゃあ──始め!」


 俺の指示を受け、自身の隠形能力を全開にしてこの場から去る。
 それは【暗殺王】の少女以上、天性の才能が成す超絶技巧。

 ……生まれながらの暗殺者、虫サイズの彼女にはピッタリなんだよな。


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