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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦中篇 その11
しおりを挟むリンカ、そして呼びだした眷属たちにやってもらいたいことを伝えておいた。
そしてその後、空いている部屋に入り──そこで来客を迎える。
《──おくれてもうしわけありません。まものからのがれるのにくせんしてしまって》
「いや、気にするな。むしろ、お前でも外部からは入れないようにした俺にも問題があった。二人よりも、ここに来る難易度が高い状態だったわけだし」
《ですが……》
「細かいことを言いっこしない。まずは情報共有をしよう」
三人の裏部隊に命じたのは、それぞれ異なる分野での調査。
一人には祈念者たちの行動を、一人には特定の場所の調査を命じていた。
そして、最後の一人である彼女には……一番時間の掛かりそうな調査が割り振られていたのだ。
具体的に言うなら、とある場所がどこにあるかの調査をしてもらっていた。
うんまあ、普通に明かすのであれば──レイたちの管理する場所へ繋がる扉の位置だ。
イベント時に行かなくなったのは、行かないのではなく行けないからだった。
……理由はたぶん、開けてくれていた者と同じ権限を持つ者が閉じたからだな。
《わたされたまどうぐでしらべてみたのですが、どうやらつうじょうふぃーるどにはそんざいしていないようです。かのうなかぎり、とくしゅふぃーるどにもせんにゅうしてみたのですが……いまだはっけんできず》
「発見できないって情報が手に入った。それ以上そこを探さなくて良いってことは、充分に価値ある情報だろう? そろそろ動かないとな……おっと、先に報酬だな」
《ありがとうございます》
用意した報酬は、シンプルに金だ。
ただし、それは一枚の硬貨……虹色の鉱石で作られたコインを渡す。
「一枚で一千万ヤーンの特製硬貨だ。今回の報酬はそれにしておく」
《こ、こんなに……いいのですか?》
「死蔵した金だ。その気になれば──これぐらいは用意できる」
《……お、おかね、いっぱい》
彼女の才を生かすには、相応の金銭を費やすのが一番手っ取り早い。
先行投資、ではないが調査に少々金を使わせてしまったのだ……その分でもある。
彼女が目指す【暗殺神】の就職条件を満たすためにも、能力は使えるようにしておいた方がいいからな。
「まっ、仕事の話はこれで終わりだ。私情を交えて話をしたいが……少しいいか?」
《すこしだけでしたら》
「ありがとう。話をするんだ、お茶菓子を出そうか……マカロンでいいか?」
《うわー、ありがとう! ……い、いえ、ありがとうございます》
子供らしい一面を見せる彼女。
顔にはあまり変化がないのだが、それは職業能力の一種だと知っている。
もともと就いていたので分かるのだが、暗殺者系の職業は精神の変化や動揺が表に出ないようにする能力があるのだ。
今回はマカロンが精神を揺さぶれたようだが、表情筋を動かすまではいかなかった……ということだな。
「【暗殺神】の条件は満たせたか?」
《せんかいはたっせいしました。ですが、それだけではたりないようです》
「まあ、当然だよな。それでいいなら赤子を殺すだけでいい……なんてクソな達成でも満たせるだろうし。ここから考察するなら、合計レベルも関係するんだろうな。カウントはしていたか?」
《いえ、さすがにそこまでは……かんぱできないひとやするまえにあんさつしてしまったひともいましたので》
こちらも当然と言えば当然。
わざわざ調べてから殺そうとして、その時点で気づかれてしまえば詰んでしまう。
気づかれないで殺すからこそ、少なくとも犯罪者として指名手配されない。
……そうせずとも、犯罪(祈念)者として業値は加算されるけどな。
「普通の最大レベルは250だし、その千人分ぐらいは必要なんじゃないか? 職業レベルで問われるなら、また別の判定方法があるかもしれないけど」
《なるほど……じぶんひとりではわからないことでしたが、あなたのおかげでつけるかのうせいがあがったきがします》
「急いだ方がいいかもな。俺も前は【神】系の職業に就いていたんだが、人数制限が設けられていた……って、どうした?」
《なんで、なんでそういうことをもっとはやくおしえてくれないの!?》
そういえば、と【鍛冶神】の詳細を調べたときのことを思いだして言ってみる。
便利すぎる職業だったので、就ける人数はたった一人だった。
今度はマカロンよりも揺さぶられたみたいで、表情もかなり子供らしい反応だ。
あと、胸をポカポカ叩いてくる……こっちはステータス的にかなり力強いけど。
「悪い、悪かったって。別に隠す気は無かったんだが、忘れていたんだ。なんせ……今は就いていないし、それを調べたのは一年も前の話だからな」
《じぶんからりせっとしたのですか? あっでも、それならどうしてあのおんなのことふたりで、しょしんしゃのようなことを?》
「そこら辺は企業秘密だ。もっと深い忠誠を誓ってくれるなら、面白おかしく笑えるように説明してやろう。まっ、【暗殺神】に就くまでは誰にも靡かないと思うが」
《……はい、ごりかいしていただけてさいわいです。いまはこようのかんけいですので、あるていどしたがいます。ですが、もしじょうけんにあなたをころすことがあるなら──ほんきでいかせてもらいますよ》
彼女には言っていないが、俺は制限された状態であれば【暗殺神】に就けた。
すでに過ぎ去ったことだし、就きたいとも思わなかった……だからこそ、だよな。
「そのときは叩き潰して、それ以外の方法を見つけてやる。そして、正式に配下になってもらおうかな? それぐらいの気概があるなら、きっとやっていけるさ」
《か、かんがえさせてもらいます》
「ああ、今はそれでよし。さっ、まだまだマカロンはある。好きなだけ食べてくれ」
《いっぱいありますね……おおすぎです》
偽善のためにも、それがいい。
暗殺の依頼をする気はないが、情報収集にはやはり隠れる技術が必須だし。
ぜひとも、俺を殺さないうえで【暗殺神】に就いてもらいたいものだ。
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