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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦中篇 その09

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 それからというもの、俺は少年──スオーロに鍛冶の技術を叩き込んでいた。
 このために許可を得て指導系のスキルを解放していたので、その成長率は凄まじい。


「とりあえず、山鍛冶術を習得することが目標だ。貴様も異なる技術を学ぶよりは、そちらの方がよかろう?」

「……Wikiで見たけど、それって種族の固有スキルみたいなものだよね?」

「ふっ、この魔王に不可能など存在せぬ。すでに我自身が習得済みのものだ、多少の徒労ではあるが伝授も可能であるわ!」

「し、知らなかった……」


 すでに鍛冶術や槌術を叩き込んでいるからか、初期のような反感は抱いていない。
 良くて先生、それぐらいの認識にはなっていると思う。

 ちなみに俺が持っているのは──因子を打ち込んだ結果、偶然だが発現したからだ。
 習得条件も暴いたので、誰かに教えることもできる。


「心得よ。種族の技術は貴様の言った通り固有のもの。一つの種に染まれば、それを消し去らねば他のモノを取り込むことはできぬ。これは流派と同じ仕組みである」

「……別に、他の種族と交流があるわけじゃないから。それより、本当に取れるの?」

「魔王を信じよ。我にできぬことなどなく、同じように我が与えられぬものもない。これまでの貴様は、我の何を見てきた?」

「地獄の所業」


 ストレートに答えられてしまった。
 俺はただ、スキルの習得条件を満たせるように生産をやらせていただけなんだがな。

 鉱石も用意したし、魔力もポーションで供給してやったんだが……時間が経てば経つほど、青めた顔で見てきたっけ?


「その地獄の中にも糸は垂らしてきた。貴様はそれを掴み、ここまで来た。理解しているだろう? 我らが共に居る時間は少なく、この先共にあることなどありえぬ。故に短いこの瞬間に、すべてを叩き込むしかない」

「…………」

「貴様に協力する、その理由が分からぬようだな。ふっ、特に理由などない。しいて言うのであれば……自己満足であろうな」

「自己、満足?」


 偽善を行う、それが俺の行動原理だ。
 ここに居る理由は模倣をした時点で喪失している……にも関わらず滞在しているのは、スオーロに余計なお世話をしたかったから。


「我が行うのは、貴様に山鍛冶術や鍛冶に関する知識や技術を叩き込むことのみ。それをどう使うのか、はたまた死蔵するのかは貴様次第だ。突如として手に入れるのだ、貴様を里の者はどうするだろうな」

「……僕に固有スキルの使い方を教えてくれたのは、里のみんなだった。プレイヤーにはチートだって言われたりもしたけど、みんなは僕を歓迎してくれたんだ」

「ほぉ、異物を受け入れるか」

「そう、僕は異物だ。死んでも蘇るんだからしょうがないよね。けど、だからこそできることを全部やりたい。いっしょに居て、ずっといられるように!」


 スオーロは前向きになった。
 まあ、セットした導士のどれかが補助してくれたんだと思うが、最後の一歩を踏み出したのは彼自身によるものだ。

 お蔭で、固有スキルにも少々の変化が起きたらしい……うむ、ありがたやありがたや。
 よりお礼をして、その分を返していかないとならないな。


「っ……!」

「どうかしたか?」

「なんだか、寒気が……」

「気のせいであろう。さっ、く作業を始めるぞ。条件の大半は満たしておる。山人流の鍛冶術、その極意を学んでもらうぞ」


 なぜだろうか……何かに納得したような、そしてどうしようもない現実に諦めたかのようなため息を漏らすスオーロ。

 山人ならすぐに取れるスキルも、多種族であれば難易度が跳ね上がる。
 すべての技術を使いこなせば、間違いなくできるはずだ……さぁ、やってみせろ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


≪──ななかいめのこうじょうせんはしゅうりょうとなります。みなさん、おつかれさまでした。こんかいのこうじょうせんで、ついにすべてのちいきがせんりょうされました≫

≪よっかめいこう、しんシステムがどうにゅうされることになります。みなさん、こうごきたいください≫


 スオーロの下で定時レイドも済ませていたのだが、すでに七回目となっていた。
 どうやら祈念者たちがすべての区画を占領したことで、何かが起きるようだ。


「……ふむ、ちょうどいいか。スオーロ、貴様に教えることは……まだあったが、これにて終了とする。我はこの地を去るが、しばらくは精進を続けるのだぞ」

「あ、ありがとう、ござい……ました」

「うむ、伝えるべきことはすべて伝えた。まだ知りたいことがあるのであれば、イベント中はクリスタル越しに答えよう」


 同盟を結ばせたので、連絡をできるようになったのだ。
 間違えてアイツらと繋いだら……うん、ロクなことにならないな。


「では、行こうか──リッカ」

「はい、魔王様」

「転移の準備を頼む」

「喜んで」


 メイドとは謎の存在、本来禁止されているはずの転移すら可能にする。
 条件は主の命、そして主の居住地への帰還限定……イベント中はそれが限界らしい。

 魔法陣なども必要とせず、ふわっと体から重さが取り除かれる感覚が発生する。
 本当は一瞬で移動できるが、いちおうの演出を頼んでおいたのだ。


「──これ、プレゼントだ。里の奴らにもよろしく言っておいてくれ。偽善者には優しくと、伝言をな」


 返事は聞かず、リッカの転移に身を任せて帰還する。
 ……さて、状況を確認しないとな。


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