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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦中篇 その07
しおりを挟む「ここが……山人の隠れ里か」
《てっきり、スチームパンクな工場都市みたいな物を想像していたんだが……》
「そのようですね、魔王様」
《隠れ里、って言ったでしょ。そんな派手な物置かれているわけないじゃない》
辿り着いた場所を一言で例えるなら、土楼のような場所だ。
洞窟の中なのに光が射し、そこを中心に囲うように居住区を形成している。
そして、その真ん中である中央部分には巨大な鍛冶場……まあ、そこは種族柄もっとも使いそうな場所だしな。
そこに、今回の目的地がある。
クリスタルがありそうな広い場所だし、何よりそこにだけ生命力の反応があった。
「人形が配備されているな。傀児共が使えぬ以上、それは当然であるが……何かが違う」
「はい。固有の能力を用いていますが、その密度が違っています。どうやら、性能を調整できるタイプのようですね」
「ふむ、ならば──[窮霰飛鮫]」
配置された人形たち。
ある程度感覚を掴んだここの主が使う固有能力だが、その魔力消費量のようなものが先ほどまでの傀児とは桁違いだった。
それでは、と用意するのは進化した妖刀。
かつて『主人公候補』の一人であるハーレム系主人公相手に、かなり使えた一振りだ。
……あっちは気づいていないみたいだが、もう聖杯の制限時間は終わっている。
ならば、好きなだけ無双しても別に構わぬだろう?
「──喰らい尽くせ、[飛鮫]共」
俺の経験値を吸って、刀の中からその基となった魔物が飛びだす。
それ──『古代鮫・飛刃種』によって、人形たちへの侵攻が始まる。
「これはもう使わぬか……では、あれらはサメどもに任せ、向かおうとしよう」
「はい、魔王様」
属性魔法を放ってサメたちに対応しているようだが、俺が注ぎ込んだ経験値はそれなりに膨大……故に魔物たちのレベルは即席と呼べぬ数値──200に達しており、そう簡単には倒すことなどできない。
「とはいえ、いずれは負ける身。時間を稼げるだけでも上等であろう」
元を断たねば、延々と戦い続けるだけ。
相手はクリスタルを有しているので、侵入者である俺が居るので攻撃ユニットの新配置は無理でも、移動させて対処はできる。
おそらく魔力回復の恩恵にもあやかっているだろうし、底は尽きない。
……これから直接言って、どうにか済ませておかないといけないな。
◆ □ ◆ □ ◆
「ふむ、鍛冶場にしてはややマシと言ったところだろうか。設備があまり良くないが、それでもやりくりができている。そうは思わんか、リッカよ?」
「そのようですね、魔王様」
「そして、最後の守護者でも気取るつもりかもっとも力を注いだ個体が居るわ。ここは一つ、余興と行こうではないか」
取りだす……のではない。
ただ腕に嵌めていた輪に触れて、とある行動を実行するだけ。
「現れよ、我が作品たちよ」
空間の歪みが俺の背後に現れると、そこから大量の武具が出てくる。
さながら某英雄王だが、無駄遣いの極みもたまには楽しい。
「一斉射出──やれ」
近接、中距離、遠距離の武具や魔法を封じ込めた魔道具など、攻撃できる品すべてを収めていた部屋から取りだしたそれらを、いっせいに飛ばしていく。
仮の世界だからこそできる大量破壊行為によって、堅固な人形に集中砲火が放たれる。
「おっと、ついうっかり聖剣なども交えてしまったようだ。これでは跡形も無くなるのは無理もなかろう」
「お見事です、魔王様」
「そして……それで壊れるこここそは、やはり拠点であったか──現れよ、さもなくばこの地すべてを壊す必要が生まれるぞ」
拠点に侵入する方法は、正攻法で侵入するかそれ以外のすべてを壊すこと。
俺は後者を選び、中から出てくることを強要する……そうじゃないと回復されるし。
そのことは相手も理解しているのだろう。
少々の時間を空けた後、鍛冶場の中から何者かが現れる。
茶髪の小柄な少年で、恰好はこれまた祈念者にありがちな魔法使いっぽい服装。
彼を説明する最大の特徴……それは、頭部に載った狐の耳だろう。
「ふむ……狐の獣人か。ここの主なのだ、山人なのだと思ったのだがな。少年よ、しばらく世話になる」
「……何をしに来たの」
「異なことを。貴様が求めた援軍とやらが、我らであるとは思わぬのか?」
「思うわけないだろう! どうしてここを破壊しようとするんだ! ここは……あの人たちの大切な場所なんだぞ!」
見た目は小学生ぐらいなのだが、それ相応の精神の持ち主だったようだ。
その姿はレイドラリーで確認済みなので、間違いなく『主人公候補』だった。
少年の言うことはごもっともだが、今の俺は覚醒を促す魔王様ロールの真っ最中。
すでに一部は目覚めているらしいが、より深く知覚させるためにも頑張らなければ。
「ここは仮初の地、神々の遊技場。貴様の言う『あの人たち』とやらは居らず、貴様が無断で占拠しているだけ。貴様が抵抗したからこそ、我らはそれと戦った。魔物も排除している、何か問題があるのか?」
「だ、だからって破壊をしなくてもいいじゃないか! ここには、本当にみんなが居たんだ……もし壊れたまま戻ったら、ぼくはみんなに謝り切れない」
「はっ、何を言うと思ったら罪からの逃れであったか。それは自己満足──その集団を思うではなく、貴様自身の居場所を守るためだけの詭弁であったか」
「違ッ……うぅ」
後ろに立つリッカは何も言わない。
だが、メイドの才能なのか無表情でありながら的確に伝えるべきことを伝えてくる──あーあ、またやってるよ、と。
俺も小学生をイジメるような性癖は持ち合わせていないので、それなりに心苦しい。
彼がすぐにでも力へ目覚めてくれればいいのだが……そういうタイプでもなさそうだ。
──しばらく厄介になって、それから考えることにしようか。
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