上 下
1,514 / 2,518
偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦中篇 その06

しおりを挟む


「──[ドラゴンレイ]」


 先ほどまで使っていた[レヴェラス]を鞘に納め、移動時に使っていたモノとは異なる双剣を取りだす。

 竜を模した二振りの剣、それはある眷属といっしょに倒した魔物がドロップした思い出の品だ(当時はまだなっていなかったが)。

 それを地面に突き刺すと、これまでに使用した身力値がぐんぐん回復していく。
 予定よりも性能が高いのだが……たぶん、ここの主が関係しているな。


「──[アルカナ]、“狂乱の錫杖”」


 大悪魔の力は借りず、魔武具の状態で取りだしたのは四種の形状を持ったアイテム。
 地面に石突の部分を接触させると、禍々しい音が洞窟内に木霊する。

 それは無機物にすら届く魔法の音色。
 傀児たちは目の部分の発光を明滅させ、仲間同士でぶつかり合う。


「ついでだ──闇魔法“強制隷属スレイヴギアス”」


 赤色の世界で拾った魔法だが、なんとなく気になったことがあったので使用する。
 黒い靄が周辺の傀児たちを包み、ガシャッという金属音と共に首輪が生成された。

 明滅を繰り返していた彼らは動きを止め、俺に向けて忠誠のポーズらしきものを取る。


「先にやらねば──[夢現の書]」


 一冊の六法全書並みに分厚い本を呼びだすと、傀児に関する内容が記されたページが勝手に開いて彼らを取り込んでいく。

 そうすることで、術者が干渉して解除してこようと無効化できるようになる。
 情報的に彼らは貴重だ、ぜひともサンプルとして回収しておきたかった。


「後ろから魔物か──“失絡の硬貨”」


 杖の形状は変わり、巨大な盾に。
 ただしそこには不気味な絵柄がデザインされており、硬貨のようにも思える。

 魔物たちが洞窟の外から近づいてくる中、魔力を注ぎ込むとその枚数が増えていく。
 突如出現した硬貨にぶつかる魔物たち──その身に迸る凄まじい雷と衝撃。

 雷の衝撃ではなく、雷と衝撃。
 なぜなら硬貨はすべて、ぶつかった魔物たちへ向かって高速で飛んでいっていたから。


「どれだけ足掻こうと、無駄だというのが分からんのか──“天斬る大剣”」


 魔物が居なくなった次に出てくるのは、先ほどとは異なる少し硬めな傀児。
 たぶん、外で働いていたのをここの主が呼び戻してMPKをさせたのだろう。

 サンプルはこれ以上要らないので、大剣を振り回して戦うことに。
 まあ、ティル師匠やら死者の先生方からご鞭撻頂いた大剣の技があれば楽勝だけど。


「はっ、我が剣に傷つけられない物など存在せぬわ!」
《恥ずかしい、クソ恥ずかしいんだけど!》

「さすがです、魔王様!」
《ちょ、ちょっと止めてよね、急に吹き出したくなるようなことを言うのは!》


 なんてリッカと建前と本音をぶつけ合いながら処理を進めていくと、だんだんと出てくる傀児が硬くなったり魔物が強くなる。

 自分で言った通り、『天斬る大剣』モードの時は必ず傷をつけることができる。
 それがダメージとして影響を及ぼせるかどうか、その点は使用者の技量によるらしい。

 かつての使用者である大悪魔は、膂力に頼るだけで霊体に当てるためとかそういう使い方しかしていなかったが……ティルとかが使うと、最凶最悪の絶対切断の剣なんだよな。


「止まれ──“欲望の聖杯”」


 願うのは傀児の一定時間停止。
 膨大な魔力を奪い去り、機能した願いは実現される──俺に代償を与えることで。


「一定時間の武技、魔技、スキルの行使禁止か。その程度であれば造作もない……が、しばらくは任せることにしよう」

「はっ、お任せください魔王様!」


 リッカが前に出て、再び洞窟の奥を目指して移動を開始する。

 スキルには装備も含まれていたので、今回の縛り──特殊な武器のスキル限定という縛りができなくなってしまったのだ。

 デバフの掛かっている時間は十分間。
 暇な時ならすぐに過ぎ去る時間だが、戦闘が起きるような場所だとかなり危うい。

 もし、そこで重体となったら……ここの主がどんな目に遭うのか。
 人々の健やかな暮らしを守るためにも、俺は自分の身を大切にしなければならない!


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──なんで!?」

 少年がクリスタル越しに観た光景は、これまでに観たことの無いようなものだった。

 自分から傀児制御権を奪う黒い靄、そしてそのままそれを封じる不思議な本。
 ならばと送り込んだ魔物は巨大な硬貨に倒され、強化した傀児は剣で斬られる。

 その硬さはダイヤモンド以上の代物であるというのに、大剣が当たった個体はすべてが機能を停止していく。

 最後に、禍々しい杯が光り輝くと──この場に居る個体も含め、すべての傀児が機能を停止したのだ。

「くそっ、くそっ、動け……動いてくれ!」

 どれだけ魔力を注ごうと、傀児たちがそれに応えることはない。
 少年は知らないが、『欲望の聖杯』は願いの代償を支払う限りは絶対にそれを叶える。

 ──ただしそれは、歪な形で。

「なら……“人形作製クリエイト・ドール”──“■■■■”。やった、できた!」

 ふと閃いた新たな策、傀児以外の種族であれば使えるのではという考えを実行する。
 すると思った通り予想は的中し、生みだされた人形は体を動かす。

「一度傀児を解除して、人形を……けど、普通じゃダメだ。【■■■■】を全開にして、最初で決めるべきだ」

 ぶつぶつと呟きながら、侵入者の迎撃を行うために準備を始める。
 そしてそれは、彼らが到着する寸前に完了するのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...