上 下
1,513 / 2,518
偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦中篇 その05

しおりを挟む


「……侵入者?」

『──────』

「……うん、ならやって」

『──────』

 少年は人ではない──口を持たないその存在と意思を交わし、指示を行う。
 それはコクリと首を縦に振り、元居た場所へ移動を開始する。

「いったいどうやって……救援は出しておいたけど、あんな最低限の報酬しかないなら誰も来ないはずだったのに……それとは別口なのかな? でも、タイミングが……」

 少年は自分の隣に置いたクリスタルを確認してから、そう呟く。
 しなければならない、ゆえに救援を送っただけで、彼は救援など求めていなかった。

「“傀児作製クリエイト・ゴーレム”──“■■■■”」

 そして唱える、一つの魔法。
 そこに重ねるのは、少年だけに与えられた特別な言葉。

 生みだされた傀児たちは、そのすべてが特別な言葉の影響を受ける。
 鮮やかな色合いを持つ彼らは、その場から離れて目的の場所へ向かっていく。

「みんなを守るためなんだ、相手が誰でも関係ない。邪魔するなら、排除しないと」

 選ばれし者・・・・・は、杖を振るう。
 自身が背負っているのは、とても良くしてくれた人々の住む場所。

 たとえここが仮初の地、彼らが居なくなっていてもやることは変わらない。
 それがどう反映するのか分からない以上、少年はただ、杖を振るう。

 ──魔物も祈念者も、誰もこの地へ足を踏み入れさせないために。

  ◆   □   ◆   □   ◆


 空を駆けて『N3W3』まで辿り着いた俺たちは、一度地面に着地する。
 遠くに映る景色の中には、ポッカリと開いた大きな穴が一つ。


「リッカよ、魔王がひたすら接近戦しかできないことについてどう思うか?」

「はっ、かなりおかしいと思います!」

「……まあ、バレる可能性を避けるためにはそれでよかろう。近くに居る眷属の能力であれば、使える縛りに書き換わっていた。其方の力を使っても構わぬだろう」


 持っていた二振りの剣を仕舞う。
 礼装も一度元の状態にして、ノーマル状態で使うことに。


「次はこれだな」


 白銀と漆黒の二色で彩られた剣を取りだすと、その使い勝手を確かめる。
 あまり使わない武器なのだが、それでも意味のある武器として使うことを決めた品だ。


「始めるぞ、[レヴェラス]」


 銘を呼ぶと、呼応するように剣身が輝く。
 魔物──大量の傀児たちが洞窟から出てくるのを眺め、一定の領域まで近づいたところで行動を開始する。


「闇魔法──“闇沼ダークスワンプ”」


 剣を触媒にして発動した“闇沼”は、本来の威力を何倍にも膨れ上げさせた状態で傀児たちを襲う。

 そのまま直進しようとする傀児たち、だが不思議と前に進むことはない。
 なぜならそこは底なし沼、ただ歩くだけの木偶人形には突破できない場所だ。


「あとは魔物への対処だけ……っ!」


 ──光魔法“閃光フラッシュ”。

 光が突如生まれ、この場を照らす。
 問題は失明云々などではなく、洞窟の中に発生するはずのなかった光の生成。

 その結果、闇は払われ沼は消える。
 中に詰められていた傀児が出てくると、再びこちらへ近づいてきた。


「いったいどこから……“暗視ナイトビジョン”」

「魔王様、いかがなされますか?」

「……可能性は低いが、それを覆すのが選ばれし者たちであったな。特に変わらぬよ、ただ先にある地へ足を踏み入れるのみ」


 何者かがこっそりと魔法を使う、魔物が魔法を使った、魔法を仕掛けてあった、魔道具が配置されていた……そういう可能性も無いわけではなかった。

 だが、今回傀児以外に何かが居るという気配も彼ら以外の魔力反応も無かったのだ。
 つまり、誰が魔法を使ったかということを問えば答えは一つだけ──


「見た目はすべて石から生まれた傀児だ。初見殺しとは、ああいうものを言うのだろう」


 ただの傀児に属性を付与する。
 それぞれ属性特化の種族でなくとも、魔力運用すら可能な高度な傀児として生みだすことができるのが──今回の絡繰りだ。


「固有能力ですね」

「うむ、間違いなかろう。だが、今の状態で突破はできる。霧魔法──“盲目乃霧ブラインドミスト”」


 たとえ傀児たちに知能が宿ろうと、まだまだ詰めが甘い。
 俺が生みだしたのは魔力の霧、本来の効果は視覚を奪うこと……そして、もう一つ。


「貴様らは魔力を追って我らを探しているのだろう? ならば、それを分からなくしてしまえばいい。たとえ風で払われようとするのであれば、延々とできぬことをやっていればよい……魔王の力を舐めるのでないぞ」


 風魔法──“風爆撃エアロバースト”。

 予想通り魔法を使ってきたのだが、魔力をたっぷり籠めて[レヴェラス]を介して発動した“盲目乃霧”を払うことはできない。

 時間が経てば可能になるが、洞窟を進む俺たちを邪魔は確実に無理だ。


「なぜなら、ここで奴らは幕を閉じるのだから。闇魔法“黒牙ブラックファング”」


 奴らが光を生んでくれたお蔭で、洞窟内の影がよりはっきりと浮かび上がっている。

 地面に突き立てた[レヴェラス]が闇魔法のエフェクトを発生させると、その影から牙が生まれて傀児たちを貫いていった。


「さすがです、魔王様」

「ふっ、当然のこと。リッカよ、先へ向かうとしよう」

「はっ、仰せの通りに」


 魔王ごっこ、楽しいな。
 予めリッカと決めた役割に沿って、俺たちは目的の人物の下へ向かうのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...