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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦中篇 その05
しおりを挟む「……侵入者?」
『──────』
「……うん、ならやって」
『──────』
少年は人ではない──口を持たないその存在と意思を交わし、指示を行う。
それはコクリと首を縦に振り、元居た場所へ移動を開始する。
「いったいどうやって……救援は出しておいたけど、あんな最低限の報酬しかないなら誰も来ないはずだったのに……それとは別口なのかな? でも、タイミングが……」
少年は自分の隣に置いたクリスタルを確認してから、そう呟く。
しなければならない、ゆえに救援を送っただけで、彼は救援など求めていなかった。
「“傀児作製”──“■■■■”」
そして唱える、一つの魔法。
そこに重ねるのは、少年だけに与えられた特別な言葉。
生みだされた傀児たちは、そのすべてが特別な言葉の影響を受ける。
鮮やかな色合いを持つ彼らは、その場から離れて目的の場所へ向かっていく。
「みんなを守るためなんだ、相手が誰でも関係ない。邪魔するなら、排除しないと」
選ばれし者は、杖を振るう。
自身が背負っているのは、とても良くしてくれた人々の住む場所。
たとえここが仮初の地、彼らが居なくなっていてもやることは変わらない。
それがどう反映するのか分からない以上、少年はただ、杖を振るう。
──魔物も祈念者も、誰もこの地へ足を踏み入れさせないために。
◆ □ ◆ □ ◆
空を駆けて『N3W3』まで辿り着いた俺たちは、一度地面に着地する。
遠くに映る景色の中には、ポッカリと開いた大きな穴が一つ。
「リッカよ、魔王がひたすら接近戦しかできないことについてどう思うか?」
「はっ、かなりおかしいと思います!」
「……まあ、バレる可能性を避けるためにはそれでよかろう。近くに居る眷属の能力であれば、使える縛りに書き換わっていた。其方の力を使っても構わぬだろう」
持っていた二振りの剣を仕舞う。
礼装も一度元の状態にして、ノーマル状態で使うことに。
「次はこれだな」
白銀と漆黒の二色で彩られた剣を取りだすと、その使い勝手を確かめる。
あまり使わない武器なのだが、それでも意味のある武器として使うことを決めた品だ。
「始めるぞ、[レヴェラス]」
銘を呼ぶと、呼応するように剣身が輝く。
魔物──大量の傀児たちが洞窟から出てくるのを眺め、一定の領域まで近づいたところで行動を開始する。
「闇魔法──“闇沼”」
剣を触媒にして発動した“闇沼”は、本来の威力を何倍にも膨れ上げさせた状態で傀児たちを襲う。
そのまま直進しようとする傀児たち、だが不思議と前に進むことはない。
なぜならそこは底なし沼、ただ歩くだけの木偶人形には突破できない場所だ。
「あとは魔物への対処だけ……っ!」
──光魔法“閃光”。
光が突如生まれ、この場を照らす。
問題は失明云々などではなく、洞窟の中に発生するはずのなかった光の生成。
その結果、闇は払われ沼は消える。
中に詰められていた傀児が出てくると、再びこちらへ近づいてきた。
「いったいどこから……“暗視”」
「魔王様、いかがなされますか?」
「……可能性は低いが、それを覆すのが選ばれし者たちであったな。特に変わらぬよ、ただ先にある地へ足を踏み入れるのみ」
何者かがこっそりと魔法を使う、魔物が魔法を使った、魔法を仕掛けてあった、魔道具が配置されていた……そういう可能性も無いわけではなかった。
だが、今回傀児以外に何かが居るという気配も彼ら以外の魔力反応も無かったのだ。
つまり、誰が魔法を使ったかということを問えば答えは一つだけ──
「見た目はすべて石から生まれた傀児だ。初見殺しとは、ああいうものを言うのだろう」
ただの傀児に属性を付与する。
それぞれ属性特化の種族でなくとも、魔力運用すら可能な高度な傀児として生みだすことができるのが──今回の絡繰りだ。
「固有能力ですね」
「うむ、間違いなかろう。だが、今の状態で突破はできる。霧魔法──“盲目乃霧”」
たとえ傀児たちに知能が宿ろうと、まだまだ詰めが甘い。
俺が生みだしたのは魔力の霧、本来の効果は視覚を奪うこと……そして、もう一つ。
「貴様らは魔力を追って我らを探しているのだろう? ならば、それを分からなくしてしまえばいい。たとえ風で払われようとするのであれば、延々とできぬことをやっていればよい……魔王の力を舐めるのでないぞ」
風魔法──“風爆撃”。
予想通り魔法を使ってきたのだが、魔力をたっぷり籠めて[レヴェラス]を介して発動した“盲目乃霧”を払うことはできない。
時間が経てば可能になるが、洞窟を進む俺たちを邪魔は確実に無理だ。
「なぜなら、ここで奴らは幕を閉じるのだから。闇魔法“黒牙”」
奴らが光を生んでくれたお蔭で、洞窟内の影がよりはっきりと浮かび上がっている。
地面に突き立てた[レヴェラス]が闇魔法のエフェクトを発生させると、その影から牙が生まれて傀児たちを貫いていった。
「さすがです、魔王様」
「ふっ、当然のこと。リッカよ、先へ向かうとしよう」
「はっ、仰せの通りに」
魔王ごっこ、楽しいな。
予めリッカと決めた役割に沿って、俺たちは目的の人物の下へ向かうのだった。
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