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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦中篇 その04

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「まずは冒険ギルドに行こうか」

「自由民は誰も居ないんじゃないの?」

「今じゃギルド員になった祈念者も居るかもしれない……が、たぶん機能するように何かしらの細工をしてあると思う」

「そう。あんな人混みの中に魔王様を入れるのは嫌なんだけど……仕方ないわね」


 身体スキルは使用可能なので、壁歩きでも認識偽装でも人混みの中に巻き込まれない方法は存在する。
 
 リッカもリッカで『メイド』なうえ、種族的な性質で隠れることが上手い。
 なので、少しだけ気配を消してもらって付いてきてもらうことに。


《会話は念話ですればいいしな……うん、予想通り人だかりができるぐらいにはバッチリやっているみたいだな》

《受付台の所にあるのは……クリスタルね》

《まあ、占有したら使えるんだから、他にもあるとは思っていたよ。ギルドカードがそういう便利系なアイテムなんだから、無人運営だってできるはずだ》


 ちなみに、俺は魔力MP精気力APを織り交ぜて足に注ぎ、壁と平行に歩いている。
 そしてその後ろにリッカが立ち、入り口からだいぶ遠くにあるクリスタルを見つけた。

 ……ロングスカートを穿いているのだが、なぜか重力に逆らってまったく垂れ下がっていないんだよな。


《メイドの嗜みよ》

《嗜み……ですか》

《ええ、嗜みよ》


 これ以上は聞いてはいけない気がする。
 ……まあ、それについてはまた別の時間にゆっくりと訊ねるとして、ギルド内で何が行われているのかを調べていく。


《クリスタルの機能には、援軍を要請する機能があったんだ。けど、どこに要請するかという情報は欠けていた。その答えが今、ここに在ったわけだ……》

《報酬は功績の一部ってことね。魔王様、彼らに頼んでみたい?》

《……いや、全然。信頼できない人に依頼するほど、切羽詰まってないし。それより、ここから依頼を探すことにしよう》


 依頼はボードに並べられており、そこにギルドカードを重ねるとデータをダウンロードし、そのうえでクリスタルに当てると受注したことになる。

 実際の世界で使われていないのは、ギルド側で受注者を制限するためだな。
 勝手に受ける奴とか、不正に受ける奴とかが居ると困るからだろう。

 強化した視覚でボードを観察し、難易度の高そうな依頼を探す。
 ちなみに偶発的レイドで上げた難易度、そして依頼者の手腕で報酬は決まるぞ。


《奮発すれば人は集まるが、その分占有をしている意義が無くなる。依頼を受けている間は反乱を防止するシステムが働くから、あんまりないとは思うけど……可能性はある》

《安ければそもそも人が集まらなくて、占領ができなくなる。まあ、魔王様以上に難易度が上がっている場所を占有している人なんていないでしょうけど》

《……たしかにいないな。けど、どうやら同格なら現れたみたいだ》


 一枚の依頼書、そこにはとある場所から送られてきた救援内容が記されていた。
 具体的には、位階が12級の魔物がゴロゴロ蔓延る中に来てほしい……そんな内容の。

 報酬はそれなりにいい、しかしそれ以上にそこへ至るまでが苛酷だ。
 おそらく条件次第では、俺の占領する北よりも厳しくなる。


《N3W3、一番遠い山の奥。その先にある洞窟の中にある……隠れ里》

山人族の里ドワーフだったかしら? わざわざそんな場所まで行った人も居るのね》

《そこまで行けたのも、信頼されたのもソイツだからだろうな──『主人公候補』、やっぱり凄いよ》

《ようやく次に当たるのかしら? 魔王様、縛りは変えないの?》


 ……眷属の力を使えるというのはとんでもなく破格な条件解放であるものの、身体スキルしか使えないというのは『主人公候補』が相手では分が悪い。


「プリーズ、チェーンジ」


 ギルドから出ると肉声で伝え、使用できるスキルを入れ替えてもらう。
 内容は……うん、どうやら身体スキルすら使えなくなったようだ。


「自分の体が弱くなったって意味では、一番縛られているかもしれないな。武具っ娘を頼れないのも縛りみたいだし」

「……ああ、なるほど。魔王様、それでどうやっていくのかしら?」

「魔王……そうだな、今回はリヴェルやアイツと同じようなロールで行こうか」


 せっかくなので、礼装も今回呼んでいる眷属の物にしてみようか。
 魔王っぽい色合いの礼装だし、ちょうどいいだろう。


「二騎当千の双姉妹。其は存在せぬ過去の英雄。求めるは黒、不変貫きしその意志を以って、理を覆せ──“英雄魂魄ソウルヒーロー”」


 礼装はリラを頼った星銀を模したデザインから塗り替わり、今度は黒金色の色に染まっていく。

 ただし、完全にその色に染まったわけではなく、所々に白金色の部分が存在する。
 ──英雄たちしまいの魂魄が、力を貸してくれた姿だ。


「で、これを使わせてもらう。身体スキルが無くとも、これならすぐに向かえる」


 長剣よりも短く、短剣よりも少し長い。
 そんな武器をリッカに見せると、魔力を籠めて──宙に足を載せる。


「単純な魔力と気功での強化しかできない状態だけど、普通に地面を走るよりは速度も出るだろう。じゃあ、いっしょに来てくれ」

「ええ、魔王様」

「……っと、ロールっぽさも移動中に考えておかないとな」


 一本の剣が生みだす足場で、軽やかに舞って北西へ移動していく。
 前回の魔王プレイとは、また異なる形で演じてみたいな。


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