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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦前篇 その20

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「──や、やり過ぎた……かな?」


 リラの魂魄で礼装のモードを切り替え、魔法が使えるようになって張り切っていた。
 いちおう、彼女が目を覚ますまでと制限は掛けていたが……だいぶ時が経過している。

 解除されたことで縛りが再起動し、そのことに気づいた。
 リラはどうやら、これまでの分も含めてかなりぐっすり眠れていたようだ。

 さて、冒頭の俺の一言ではあるが……視覚強化を行い、魔力を視れるようにした網膜が捉えた光景に異常性を感じてのことである。


「いやいや、嵌りすぎたな。生産で中毒症状とかを患った覚えはないんだが……正確には魔法だけど、そこはどうでもいいや」


 至る所に罠が張り巡らされた都市内部、そして外のフィールドであるカランド平原。
 生温いものなら体が痺れる程度、不味いものなら地底に叩き込む落とし穴などがある。

 魔法なのでクリスタルと違って素材を使う必要は無く、消費する魔力に関しては身体スキルが使えるのでほぼ無尽蔵に回復できた。

 お蔭で俺のやることを阻む障害はなく、やりたい放題ができたわけだが……改めて確認しなければ、どこに何を仕掛けたかをまったく思いだせない。

 先ほど魔法を挙げられたのは、どこにあるかは分からなくとも、何をやったかぐらいはギリギリ思いだせたからだ。


「幸いだったのは、ここに魔導が入って無いことだったな。魔術は機人族が居るから対象に含まれていたけど、魔導は祈念者の中には誰も使える奴がいないし。当然と言えば当然だが……それに救われたか」


 アルカを見てそう判断したが、そもそも自分より先へ進んだ者を彼女が見逃がすはずもないので、たぶん合っている。

 魔術と魔法、アルカが用意したのは魔法をセットできる仕掛けだけだが、魔法のみか魔法or魔術なのかを選べる仕様の物と、二種存在していた。

 設置個数に制限があるので、多く使えるようにとどちらも最大限まで配置済みだ。
 都市という巨大な場所なので、それでも数が多く……この時間まで配置できた。


「……ん? 動き出したか」


 気配探知は使えずとも、力場支配で治めた範囲内であれば人の反応を掴める。
 どうやら自分が眠りから覚めた実感をし、こちらへ向かってくるようだ。

 クリスタルが廊下の映像を映し出すと、部屋から出てきた彼女の姿が。
 ……部屋の中からじゃないのは、プライバシー的なものを守ったからだ。


「──おはよう……」

「ああ、よく眠れたみたいだな。朝食はどうする、和洋スペシャルどれがいい?」

「スペシャル……?」

「俺の手抜き料理」


 少々悩んだ末、スペシャルを要求してくれたリラ。
 彼女も食堂の使用経験があるので、飯が美味しいことは理解している。


「となると、料理スキルが使えるようにならないと──“召喚サモン眷属ファミリア”」

「──はいはーい! こんなときにはアタシの出番だよね! みんなのヤンちゃん、ただいま参上でござる!」


 そんなわけで、呼びだしたのは【嫉妬】の武具っ娘にして『無限蛇』の獣人としての肉体を持つヤンデレ(仮)のヤン。

 俺の理想的なヤンデレ、というジャンルに属しているので、あんまり真性のヤンデレではないが……そこはまあ、置いておこう。


「……なんで、ござる?」

「なんとなくー! おっと、今はリラのお料理を作らないと……“武具化”!」


 そんなヤンが発光し、視界を奪うと──その姿は包丁と化す。
 魔武具『狂愛包丁』、彼女の自我が宿る武具を握り締めてさっそく調理を始める。

 ヤンデレ愛用の包丁をイメージした魔武具ではあるが、やはり包丁っぽい能力も無いとなー……と考えて付いたのが(料理:家庭)スキルだ。

 家庭料理と俺が定義する料理に限り、料理スキルが機能する。
 レベルは魔武具の成長に応じ、今ならば熟練主婦並みのテクニックを振るえた。


「現実の俺、実際にはまったく料理上手くないけどな……さて、こんな感じか」


 美術館に調理器具は無かったが、自前のアイテムを取りだして調理していく。
 使うのはライ麦で作ったパン、そこに魔物の肉を載せて炙るだけ。

 ただし、肉を『狂愛包丁』で捌かなければならなかった。
 鎮座するそれは、かつて俺が大量に仕入れた逸品だ。


「……何、それ……」

「『星鯨』の肉だ。背中とかお腹の脂肪が少ない部分なんだが、カツとか竜田揚げにすると旨いんだぞ。それをパンで挟むんだが……先に上手に切り分けないとな」


 縛り中なので、生産に関しては万能な生産神の加護は機能しない。
 なのですべては俺の腕、そしてそれ以上にヤンの協力によって成し得ることだ。

 巨大な肉の塊を一口大に捌くと、漬けダレに浸して丁寧に揉み込む。
 それを時間を飛ばし、冷やし、粉を塗した後にカラッと揚げていく。


「──で、なんやかんやしてからパンに挟んで炙ったら完成だ。おっと、仕上げにタレを掛けて……これで完璧。リラ、それにヤンも食べようか」

「「──いただきます」……」

「いただきますっと」


 再び人の姿に戻ったヤン、そしてお腹を可愛らしく鳴らして待ってくれていたリラと共にご飯を食べ始める。

 時間的には……朝なんだろうか?
 まあ、零時と正午だけは分かっているし、間違いはないんだろうけど。

 ──今日も今日とで、城を守る戦いが始まるのだった。


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