1,502 / 2,518
偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦前篇 その14
しおりを挟む「…………ん……?」
「起きたか。気分はどうだ?」
「……何時……?」
「だいたい夜の十一時、そろそろ次の日になるぞ。何か食べるか?」
コクリと首を縦に傾けたので、寝起きのリラに消化の良い食べ物を渡す。
エネルギー補給ならゼリーでもよかったのだが、そこは……なぜかうどんだ。
俺がうどん好きとか、リラがうどん好きだからというわけではない。
単純に自分も食いたかったので、ついでに用意しただけだ。
「ちゅるちゅる……リラ、この後戦うことになったらやってみるか?」
「それは望み……?」
「いや、自由にしていいぞ。見ていてくれているだけでもいいし、手伝ってくれても構わない。自分がやりたいって思ったことなら、好きにやってくれ……ずずずっ」
「……なら、やる……」
音を立てずにうどんを食べ終えたリラは、すぐに戦闘準備を始める。
前に俺が渡した装備を身に着け、いつでも戦えるようにと。
「すぐに始まるわけじゃない。あと、リラはどっちがやりたい──攻めるか守るか」
「どっちでもできる……」
「そこまで選ばせるのは、さすがに野暮か。じゃあ、俺といっしょに攻めてほしい。侵入してくる魔物とかを先に潰しておく」
「どっちも守りだった……?」
攻城戦なのだから、すでに占有している側がやるのは守りしかないだろう。
ただし、『攻撃は最大の防御』という意味の防御も含まれているだけで。
◆ □ ◆ □ ◆
≪れいじとなりましたので──にかいめのこうじょうせんかいしです≫
予想通り、正午だけでなく同じくアナログ時計の針が真上を指すこの時間にも、攻城戦は行われるらしい。
正午だけでは参加できない人のため、一日に二回なんだろうな。
現実基準で攻城戦は行われるので、仕事がある人などは正午には参加しづらいし。
……正午も正午で微妙だが、もしかしたら長期休暇に入っているのかもしれない。
ずっとこっちにいると、時間の感覚が狂うので困ってしまう点だ。
「ガー、準備はいいか?」
《はい、問題ありません》
「リラ、一度俺とガーで攻撃をしてから始める予定だ。その間、警戒できなくなるからそれを頼みたい」
「任せて……」
俺たちは都市の壁にスタンバイ。
ここからなら、どちらに魔物が突然現れようと対処することができる。
ガーには現在、『終焉の喇叭』の中から補助してもらえるように頼んであった。
俺だけでは制御しきれないスキルを使うので、内側からサポートしてもらうためだ。
「──来たぞ、魔物が。しかもやっぱり、偶発じゃないレイドにも影響してたし」
わざわざアナウンスが『レイド』と表現していたので、まさかとは思った。
しかしその予想は当たり、これまでとは比べものにならない強さの魔物が出てくる。
「行くぞ、ガー」
《ええ、どうぞ》
「──“最終審判”!」
《──“確率操作”!》
握り締めたラッパを吹き鳴らし、高々とその音色をフィールド中に響かせる。
すると、フィールド中に罅が入って……そこからナニカが飛びだしていく。
「《──『殲滅死徒』!!》」
それは黒い羽を生やした天使、ただし顔などが存在しない不気味な存在。
彼らを大量に呼びだすと、いっせいに魔物へ向けて解き放つ。
手からビームを放ち、羽が鋭くなって魔物たちに突き刺さる。
空から一方的に蹂躙するさまは、まさに殲滅の使徒そのものだった。
「これ、必要……?」
「まあ、魔力が持たないからそのうち尽きるだろう。先に召喚とか蘇生で、個体数を増やすヤツを殺すように指示はしてある。残った分だけを俺たちで倒すことになるだろう」
「うん……分かった……」
「ただ……だいぶ待つことにはなりそうだ」
ガーと二人で張り切ったので、審判が終わるのはだいぶ先だ。
それでも一時間は掛からないので、前半三十分ぐらいは暇になるかもしれない。
「なんかごめんな、リラ」
「ううん、けど新鮮……頼まれたのに、やらなくてもいいなんて……」
「ずいぶんとブラックだったんだな……とりあえず、今度からは『NO』と言っていいからな。それと、自分が良くても他の眷属が止めた方がいいと言うようなことも、止めておいた方がいいと思う」
「? ……分かった」
リラの常識は少しずつ眷属基準のものに変わっているが、かつての在り方──人のために尽くそうとする考え方は、まだまだ変わらないでいる。
彼女はそれが当然だと考え、その結果が先ほどまでの疲労感だ。
解消させるには、そもそも考え方を変えさせるしかないんだよなー。
さて、そういう話をしていると、何やら深刻そうな思いが『終焉の喇叭』越しに伝わってくる。
《メルス様……その、申し訳ありません》
「いや、ガーは悪くないぞ。やってくれって言ったのは俺だし、張り切って魔力を籠めたのも俺だし」
《ですが……メルス様に働けると、私も力んでしまいました》
「それは……うん、嬉しいだけだ。何も悪いことはしないぞ」
裏表なく、眷属たちへ【慈愛】を以って接するガーだからこそ……今回のことを自分の失敗と考えていたのだろう。
だが俺からすれば、自分の想定以上に物事ができたのは成功だと思えた。
これが創作物における──主人公補正による威力アップというヤツなのではないか?
もちろん、それは俺ではなくガーの功績。
モブは変わらずモブなので、そこは決して間違えてはいけない。
「ありがとう、ガー。俺に一時の夢を魅せてくれて……嗚呼、そうだな。ガーは熾天使様だから、儚くはならないのか」
《……何がどうなっているか分かりません。ですが、メルス様のためになったというのであれば良かったです!》
本当、この娘マジ天使!
……二つの意味で思ったことを心の中で叫び、時間を潰していくのだった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる