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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦前篇 その14

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「…………ん……?」

「起きたか。気分はどうだ?」

「……何時……?」

「だいたい夜の十一時、そろそろ次の日になるぞ。何か食べるか?」


 コクリと首を縦に傾けたので、寝起きのリラに消化の良い食べ物を渡す。
 エネルギー補給ならゼリーでもよかったのだが、そこは……なぜかうどんだ。

 俺がうどん好きとか、リラがうどん好きだからというわけではない。
 単純に自分も食いたかったので、ついでに用意しただけだ。


「ちゅるちゅる……リラ、この後戦うことになったらやってみるか?」

「それは望み……?」

「いや、自由にしていいぞ。見ていてくれているだけでもいいし、手伝ってくれても構わない。自分がやりたいって思ったことなら、好きにやってくれ……ずずずっ」

「……なら、やる……」


 音を立てずにうどんを食べ終えたリラは、すぐに戦闘準備を始める。
 前に俺が渡した装備を身に着け、いつでも戦えるようにと。 


「すぐに始まるわけじゃない。あと、リラはどっちがやりたい──攻めるか守るか」

「どっちでもできる……」

「そこまで選ばせるのは、さすがに野暮か。じゃあ、俺といっしょに攻めてほしい。侵入してくる魔物とかを先に潰しておく」

「どっちも守りだった……?」


 攻城戦なのだから、すでに占有している側がやるのは守りしかないだろう。
 ただし、『攻撃は最大の防御』という意味の防御も含まれているだけで。


  ◆   □   ◆   □   ◆


≪れいじとなりましたので──にかいめのこうじょうせんかいしです≫


 予想通り、正午だけでなく同じくアナログ時計の針が真上を指すこの時間にも、攻城戦は行われるらしい。

 正午だけでは参加できない人のため、一日に二回なんだろうな。
 現実基準で攻城戦は行われるので、仕事がある人などは正午には参加しづらいし。

 ……正午も正午で微妙だが、もしかしたら長期休暇に入っているのかもしれない。
 ずっとこっちにいると、時間の感覚が狂うので困ってしまう点だ。


「ガー、準備はいいか?」

《はい、問題ありません》

「リラ、一度俺とガーで攻撃をしてから始める予定だ。その間、警戒できなくなるからそれを頼みたい」

「任せて……」


 俺たちは都市の壁にスタンバイ。
 ここからなら、どちらに魔物が突然現れようと対処することができる。

 ガーには現在、『終焉の喇叭』の中から補助してもらえるように頼んであった。
 俺だけでは制御しきれないスキルを使うので、内側からサポートしてもらうためだ。


「──来たぞ、魔物が。しかもやっぱり、偶発じゃないレイドにも影響してたし」


 わざわざアナウンスが『レイド』と表現していたので、まさかとは思った。
 しかしその予想は当たり、これまでとは比べものにならない強さの魔物が出てくる。


「行くぞ、ガー」

《ええ、どうぞ》

「──“最終審判”!」
《──“確率操作”!》


 握り締めたラッパを吹き鳴らし、高々とその音色をフィールド中に響かせる。
 すると、フィールド中に罅が入って……そこからナニカが飛びだしていく。


「《──『殲滅死徒』!!》」


 それは黒い羽を生やした天使、ただし顔などが存在しない不気味な存在。
 彼らを大量に呼びだすと、いっせいに魔物へ向けて解き放つ。

 手からビームを放ち、羽が鋭くなって魔物たちに突き刺さる。
 空から一方的に蹂躙するさまは、まさに殲滅の使徒そのものだった。


「これ、必要……?」

「まあ、魔力が持たないからそのうち尽きるだろう。先に召喚とか蘇生で、個体数を増やすヤツを殺すように指示はしてある。残った分だけを俺たちで倒すことになるだろう」

「うん……分かった……」

「ただ……だいぶ待つことにはなりそうだ」


 ガーと二人で張り切ったので、審判が終わるのはだいぶ先だ。
 それでも一時間は掛からないので、前半三十分ぐらいは暇になるかもしれない。


「なんかごめんな、リラ」

「ううん、けど新鮮……頼まれたのに、やらなくてもいいなんて……」

「ずいぶんとブラックだったんだな……とりあえず、今度からは『NO』と言っていいからな。それと、自分が良くても他の眷属が止めた方がいいと言うようなことも、止めておいた方がいいと思う」

「? ……分かった」


 リラの常識は少しずつ眷属基準のものに変わっているが、かつての在り方──人のために尽くそうとする考え方は、まだまだ変わらないでいる。

 彼女はそれが当然だと考え、その結果が先ほどまでの疲労感だ。
 解消させるには、そもそも考え方を変えさせるしかないんだよなー。

 さて、そういう話をしていると、何やら深刻そうな思いが『終焉の喇叭』越しに伝わってくる。

《メルス様……その、申し訳ありません》

「いや、ガーは悪くないぞ。やってくれって言ったのは俺だし、張り切って魔力を籠めたのも俺だし」

《ですが……メルス様に働けると、私も力んでしまいました》

「それは……うん、嬉しいだけだ。何も悪いことはしないぞ」


 裏表なく、眷属たちへ【慈愛】を以って接するガーだからこそ……今回のことを自分の失敗と考えていたのだろう。

 だが俺からすれば、自分の想定以上に物事ができたのは成功だと思えた。
 これが創作物における──主人公補正による威力アップというヤツなのではないか?

 もちろん、それは俺ではなくガーの功績。
 モブは変わらずモブなので、そこは決して間違えてはいけない。


「ありがとう、ガー。俺に一時の夢を魅せてくれて……嗚呼、そうだな。ガーは熾天使様だから、儚くはならないのか」

《……何がどうなっているか分かりません。ですが、メルス様のためになったというのであれば良かったです!》


 本当、この娘マジ天使!
 ……二つの意味で思ったことを心の中で叫び、時間を潰していくのだった。


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