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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦前篇 その13

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 アルカの赤らめ顔(怒り)で、ほんの少しだけ湧いたやる気だが……すぐに尽きた。
 喉元過ぎれば熱さを忘れる、全然関係ないが責任感や罪悪感から解き放たれたわけだ。


「眷属を呼ぶのは……まだ早いか。本当に必要なら、あっちから来てくれるし。とりあえず、必要な物を揃えておこう」


 適当な装備ではなく、ある程度真面目に武装を整え始める。
 ハーレム装備『寵愛礼装』はもちろんのこと、武具っ娘ではない装身具アクセサリーも各種装備していく。


「縛りは……まあ、少し変更で──呼んだ眷属に関わる戦闘法のみ可能! という感じでどうだ?」


 観ているであろう眷属の誰かが認めてくれれば、それは実際に可能となる。
 待つこと数秒、体の中で枷が外れる感覚に気づき認証されたことを実感した。


「じゃあさっそく──“召喚サモン眷属ファミリア”!」


 頼れる眷属をランダムで呼びだせる魔法を使い、再び待つ。
 ちなみに身体系スキルしか使えない縛り中だが、この魔法だけは別である。

 この魔法は個有スキル[眷軍強化]と結びついており、自らに刻まれた主の印を意識すれば発動することが可能だ。

 ……もともとはそうなっていなかったが、主に解析班たちによっていつの間にか使えるようになっていたんだよな。


 閑話休題あるじをまかいぞう


 とにもかくにも、そんな魔法によって魔法陣がこの場に構築される。
 前回はアリィが出てきたので、彼女以外の暇な誰かが出てくるだろう。


「──私を選んでいただき、誠に感謝申し上げますメルス様」

「ガー、来てくれてありがとう。お前のその力、このイベントで使わせてもらいたい」

「はい! メルス様がお望みとあらば、私にできるすべてを捧げさせていただきます」


 今回呼びだされたのは、【慈愛】の武具っ娘であるガー。
 彼女が宿る武具の力を使えば、この状況を打開することも容易かろう。


「……やり過ぎないように、気を付けないとバレそうだな」

「ふふふっ、ご安心を。メルス様のご迷惑にならないよう、加減などもしっかりと身に付けておりますので」

「まあ、最悪リオンが止めてくれるか。次のレイドが来たら、頼らせてもらうぞ」

「はい!」


 ガーの眩しい笑顔に、少々苦い思いが。
 なんかこう、純真な姿に黒い部分が浄化されている感じがな……。


「ただ、次のレイドがいつ起きるか分からないんだよな。それまでは……演奏の練習でもしておこうか」


 ガーが宿るのは、聖武具『終焉の喇叭』。
 魔剣が剣術の腕があればより上手く使えるように、ラッパならば演奏の腕を磨くことが扱いを上手くするために必要なことだ。

 というわけで、芸術の都市で演奏会を始める俺とガーであった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「……どういう状況?」

《吹いているのが俺とガーで、聴いてくれる人が居なくて寂しくなった。相談した結果、とりあえず召喚してみました》

「……納得」


 オーロラのように輝く髪を持つ少女──リラが、椅子に座って訊ねてくる。
 無理もない、俺とガーはそれぞれラッパを吹いて演奏を行っているのだから。

 ちなみに口を付けて吹いているため、二つの意味で『ハナ』せない俺は、念話を用いて彼女と会話を行っている。

 音痴ではないので、それなりに吹けてはいる……が、隣で吹いているガーと比べるとやはり劣っていると思えるクオリティだ。


《リラ、ちなみになんで来てくれた?》

「……そろそろ休めって……することない」

《……あんまり止める立場でもないけど、休むことも大切なんだぞ。働き続けているヤツがいると、他の奴が休めない》

「……意外……てっきり休めって言うと思ってた」


 ガーとアイコンタクトをして、演奏している曲を癒し効果のあるものへ。
 魔力が籠もった演奏であれば、そういうこともできる。


《俺も前は、疲労耐性スキルを試すついでにやっていたんだが……俺が働いているとみんな頑張ろうとしてな、たぶんリラの時も同じだったんじゃないか?》

「……ずっと、いっしょに働いてた」

《うちの国民は特に、働き者が多いから気を付けないといけないぞ。これまではそれでも喰らい付いていたんだろうが……さすがに限界が来たみたいだな》


 リラがバレないように働いているのは、誰もが知っていたことだ。
 俺の世界ならどこでも現れ、人のためにと活動していたわけだし。

 彼女はもともと、そういう在り方で生きていたので……そこを変えることはできない。
 そんなわけで、しばらくはどう生きるのがいいか見つける時間として放置していた。

 だが、どうやらブラック企業も真っ青なレベルで働き続けるとは……。
 眷属が心配していた俺の自己練も、こんな感じだったのだろうか?

 そうこうしていると、演奏が効いてきたのかウトウトとしだすリラ。


「……眠い? 耐性があるのに……」

《緩もうと思えばいつでも緩めたんだろうけど、ずっと頑張ってたからな。その反動が、今来たんだよ。ここには、お前をどうこうする奴もいない……少し休もうぜ》

「……分かった……」


 重い瞼をゆっくりと下げて、彼女はようやく眠りにつく。
 すぐにそれを支え、[アイテムボックス]から布団を取りだしてそこに寝かす。

 ──良い目覚めを迎えられるように、もうしばらく演奏は続けておこうか。


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