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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦前篇 その12

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『これで終わりよ──“氷結世界グラシエイト”』


 魔法の合成を使っていたアルカだが、それには法則性があるように思えた。
 それは時折普通の聞き覚えのある魔法を、使っていたからこそ気づけたことだ。

 アルカが発動させた“氷結世界”は、氷河魔法に属する最上位の水系統魔法。
 一定範囲をすべて凍らせる、そこには火や風といった概念すら含まれていた。

 そんな魔法を使い、合成魔法を使っていなかったのは……できなかったからだろう。
 その答え合わせをしたかったのだが、別のことに気づいてアルカへ声を掛けた。


「お疲れ様。今、二十九分とちょっとだ」

『そう……三十分が経ったら、何か変化はあるかしら?』

「どうだろうな。三、二、一──ゼロ」


 時間を把握している俺が、カウントダウンで三十分が経ったことを伝える。
 これまでは特に何も無かったのだが……今回は違ったようで──


≪──占有領域『都市トレモロ』、偶発的レイドが終了しました≫
≪討伐数──評価:S≫

≪次回以降のレイドのレベルが上昇します、失敗した場合は通常レベルへ戻ります≫


 といったアナウンスが伝えられた。
 クリスタルの方にも、レイドの難易度に関する情報が表示され……うん、出てくる魔物の位階ランクについて書かれているな。

 評価が『S』というのも妥当だろう。
 アルカが殲滅させた魔物の数は、百……いや千でも収まらないほどに膨大な数だったのだから。


「なあ、アルカ」

『……何かしら?』

「お前ってさ、いつまで居るんだっけ?」

『……もう帰るわよ』


 俺が何を言いたいのか、そしてこれまでに自分が何をしたのかを理解しているアルカ。
 残念ながら、縛りの身でこれから起き得る事態に対処することは……ほぼ不可能。


「次からな、出てくるのは全部位階が7を超えるらしいんだ。それを身体スキルだけで乗り切れるほど、俺って強くは無いんだわ」

『……そ、そんなこと、私には関係ないじゃないの!』

「アルカ……」

『うぐっ。で、でもダメよ! あんたにはまだできることが多いじゃない! できることがあるのにやらないのに、誰かを頼るなんて論外よ!』


 アルカなりの主張だった。
 俺としては、全能の力でやれることを増やすための縛りプレイだったが……こういう場合ってどうするべきなんだろうか?

 困ったらいつでもチートな力が手に入るわけではない、それは初期にこの世界と現実での力のギャップを痛感したときに嫌というほど理解しているつもりだ。

 やっている縛りが極端なことは重々承知しているし、他にも気づいたことがある──


「それとアルカが逃げるのって、全然関係ないよな」

『──なんですって? この私が……逃げると言ったのかしら?』

「だってそうだろう? 頼る? 何を言っているんだよ、そもそもそれだけの成績を叩きだしたのはアルカだし、俺の仕掛けって結局一度も発動しなかったんだぞ?」

『そ、それは……』


 彼女は魔法を披露して、そのすべてで俺に制裁を降すとか言っていたのだ……自分が断罪されないためにも、そこら辺を追及してお茶を濁しておかねばなるまい。


「……まあ、アルカの魔法を撃っている姿がカッコイイと思って止めるを忘れていたし、もっと見ていたとも思ったけどさ。それでもやり過ぎたんだろうな……」

『………………』

「おーい、アルカー? 急に無視しないでくれるかー?」

『う、うっさい!』


 癇癪と共に完全無詠唱で魔法を使う。
 そのせいで、クリスタルで映る光景は真っ暗な闇に包まれてしまった。

 こうなることを予想していなかったので、この機会に知れたのは良かったな。
 それについては、あとでアルカにこっそりお礼を言うことにして……どうしたものか。


「もういいや、アルカ。帰るならそれでいいから、決して誰も最終日まで近づかないようにと厳命しておいてくれ」

『……何をする気なの?』

「よくよく考えたら、お前も眷属だからその責任は俺が取る。縛りはだいたい解除して、来るヤツを全部排除すれば良い……条件が無い方が、楽だしな。お前の言う通り、できることをたまにはやってみるさ」

『そう……分かったわ』


 アルカはそのまま空を飛ぶための魔法を使い、ふわりと宙へ浮き立つ。


『……ごめんなさい』

「えっ? 今、もっともアルカらしくない言葉が聞こえたような……」

『ごめんなさいって言ったのよ! ふんっ、悪い?』

「いや、新鮮だったから……アルカも、そういう可愛らしいところがあるんだな」


 今度は眩い閃光が闇の中で突如生みだされた……身体系スキルが使用可能だったので、どうにか防げたが、その一瞬だけアルカの姿が映った。


『もう行くわよ!!』

「ああ……気を付けろよ」

『行きに来たんだから、帰りに危険があるわけないじゃないの……じゃあ、行くから』


 これ以上は何も言わず、ビュンッと風を纏い南へ飛んでいく。
 俺も黙り、ただ先ほど見たモノを脳裏で思い返す。


「……まあ、少しは頑張りますか」


 怒って血液の周りが良くなったからか、やや頬を赤らめていたアルカ。
 ……男ってのは単純で、それだけでやる気が湧いてくる生き物なのだ。


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