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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦前篇 その11
しおりを挟む「まあ、土下座の練習は脳内でやっておくとして……今は観戦だな」
幸いにして、並列思考や高速思考は身体系のスキルなので使うことができる。
アルカから許されるために行う土下座するプランは、そちらで練っておくことに。
クリスタル越しに映る彼女は、燃え盛るような真っ赤な瞳で敵を睨みつけている。
それは、彼女の溜め込んだ【憤怒】を表すように……グツグツと煮え滾っていた。
『──『炎纏氷塊』』
そんな彼女が最初に放った魔法は、その心情を表すようなもの。
杖の先から霧が生まれたかと思えば……魔物たちがいっせいに凍り付いていく。
ホ°ケモンで見たことあるような名前なのだが、溜めの待ちターンも無く一瞬で発動した魔法、だがたしかな威力を発揮していた。
『……聞こえているかしら? というか、絶対に聞いているわよね? だからそのうえで言っておくわよ──覚えてなさい。あんたには、ここの魔物へ使った魔法全部で制裁を降しに行くんだから』
「止めてぇええ!」
『何か言ってきた気もするけど……まあ、聞こえなかったことにするわね。そこで見ておきなさい、私の今の姿を』
カッコイイ台詞ではある。
だがそれは、向けられた対象が俺でなければの話なんだよな。
有言実行なのか、すでにアルカは魔法による殲滅作業を始めている。
ただし、同じ魔法は使わない……制裁に使う魔法の数を増やしているのかもしれない。
『──言っておくけど、別に見せびらかすために使っているわけじゃないわよ。そういうルールを設けて、火力と発動効率を高めているの。これは【賢者】のスキルの一つね』
心まで読んでいるのか……いや、俺の思考が単純だからだな。
アルカは『侵化』をしてもなお、そういう知性的な部分を完全に保っているようだ。
それと、職業スキルについて。
そもそも習得条件として、膨大な数の魔法スキルと行使回数が求められている職業。
同じ魔法を一度も使わない、それが条件の強化スキルが有ってもおかしくはない。
だがそれを完璧に使いこなせるほど、普通は簡単ではないだろう。
「聞こえているよな? だから訊くけど、それってチェインの条件があるよな?」
『──当然でしょ。魔法を使うだけ、そんなシンプルな条件だからこそ難しい。もちろんあんたじゃ使いこなせないわよ』
「そりゃあそうだな……強引にやればできそうだけど、普通に使うなら相当練習しないと無理だろう。アルカも頑張ったんだな」
『……ハッ? 普段からやっていることなんだから、苦にもならないわよ』
俺の予想以上に、アルカは努力して俺に勝とうとしているようだ。
ワンキルが簡単にできる魔法だってあるだろうに……わざわざ組み合わせているのか。
『それに、【賢者】だからこそできることもあるのよ──『凍える白雷』』
そう言ってアルカが生みだしたのは、白色の雷だ。
地面に墜ちた途端、そこには真っ白い氷が張っていた。
俺の記憶の中に、彼女が告げた名を持つ魔法は存在しなかった。
しかしながら、似たようなことをする方法自体はよく知っている。
「合成か……それも【賢者】の職業スキルでやっているのか?」
『あくまで【賢者】がやっているのは、詠唱の完全省略だけよ。それを並列思考で分裂化した思考で詠唱、合成して撃っているの』
「完全省略って、実在してたのか」
『思考速度を高めてそれとほぼ同等にしていたあんたは、もう人外のレベルよね。まあ、ただの省略の方が魔力消費は軽いんだけど』
完全無詠唱、それはアルカの固有スキルである【思考詠唱】の極地のような技巧だ。
ただ念じるだけで、魔法による事象改変が起きる……さながら神じみた振る舞い。
俺はアルカからパクったそのスキル、そして<千思万考>による思考の超速化と分裂で擬似的にやっている。
しかしアルカは……本物に辿り着いた。
偽りばかりの俺と違い、己の力を貫き続けた結果が実っているようだ。
サクサクと魔法を放ち続け、魔物たちを殲滅していく。
全然数が減っていないのが気になるが……その分、放つ魔法の数が増えるのが怖い。
『ところでこれ、いつまで続くのかしら?』
「最初の事例だから、よく分からん。ただ、制限時間とかも表示されていない。攻城戦は一時間だったから、そういう割り切りのいい数字だとは思うけどな」
『今は……まだたった十分。全然進みそうにないわね。倒すのは簡単なんだけど、数が多いのよ』
「まだ一日目だしな。いきなりラスボス級の魔物とかが出てきたら、その時点で詰むことになるんじゃないか?」
常にログインできるわけでもないんだし、そのため自動で防衛できるアイテムだ。
本来は素材もゆっくり集めるのだから、最初は簡単な罠で対処できる魔物しか出ない。
『そりゃそうよね──『疾き煌閃』』
また知らない魔法だったが、これも合成した魔法なんだろう。
白い風が吹き荒れると、魔物たちは浄化されたうえでバラバラに刻まれていく。
起きた現象から考えて、風属性と光属性のミックスだな。
威力はあまり無いが、雑魚狩りにはピッタリな魔法。
『どれだけ出てくるか、試してみるのも一考かしら? その分、あんたに使う魔法が増えるわけだし』
「……お、お手柔らかに」
ようやく十五分。
さて、どれだけ魔法を使うんだか。
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