上 下
1,499 / 2,518
偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦前篇 その11

しおりを挟む


「まあ、土下座の練習は脳内でやっておくとして……今は観戦だな」


 幸いにして、並列思考や高速思考は身体系のスキルなので使うことができる。
 アルカから許されるために行う土下座するプランは、そちらで練っておくことに。

 クリスタル越しに映る彼女は、燃え盛るような真っ赤な瞳で敵を睨みつけている。
 それは、彼女の溜め込んだ【憤怒】を表すように……グツグツと煮え滾っていた。


『──『炎纏氷塊コールドフレア』』


 そんな彼女が最初に放った魔法は、その心情を表すようなもの。
 杖の先から霧が生まれたかと思えば……魔物たちがいっせいに凍り付いていく。

 ホ°ケモンで見たことあるような名前なのだが、溜めの待ちターンも無く一瞬で発動した魔法、だがたしかな威力を発揮していた。


『……聞こえているかしら? というか、絶対に聞いているわよね? だからそのうえで言っておくわよ──覚えてなさい。あんたには、ここの魔物へ使った魔法全部で制裁を降しに行くんだから』

「止めてぇええ!」

『何か言ってきた気もするけど……まあ、聞こえなかったことにするわね。そこで見ておきなさい、私の今の姿を』


 カッコイイ台詞セリフではある。
 だがそれは、向けられた対象が俺でなければの話なんだよな。

 有言実行なのか、すでにアルカは魔法による殲滅作業を始めている。
 ただし、同じ魔法は使わない……制裁に使う魔法の数を増やしているのかもしれない。


『──言っておくけど、別に見せびらかすために使っているわけじゃないわよ。そういうルールを設けて、火力と発動効率を高めているの。これは【賢者】のスキルの一つね』


 心まで読んでいるのか……いや、俺の思考が単純だからだな。
 アルカは『侵化』をしてもなお、そういう知性的な部分を完全に保っているようだ。

 それと、職業スキルについて。
 そもそも習得条件として、膨大な数の魔法スキルと行使回数が求められている職業。

 同じ魔法を一度も使わない、それが条件の強化スキルが有ってもおかしくはない。
 だがそれを完璧に使いこなせるほど、普通は簡単ではないだろう。


「聞こえているよな? だから訊くけど、それってチェインの条件があるよな?」

『──当然でしょ。魔法を使うだけ、そんなシンプルな条件だからこそ難しい。もちろんあんたじゃ使いこなせないわよ』

「そりゃあそうだな……強引にやればできそうだけど、普通に使うなら相当練習しないと無理だろう。アルカも頑張ったんだな」

『……ハッ? 普段からやっていることなんだから、苦にもならないわよ』


 俺の予想以上に、アルカは努力してチートに勝とうとしているようだ。
 ワンキルが簡単にできる魔法だってあるだろうに……わざわざ組み合わせているのか。


『それに、【賢者】だからこそできることもあるのよ──『凍える白雷』』


 そう言ってアルカが生みだしたのは、白色の雷だ。
 地面に墜ちた途端、そこには真っ白い氷が張っていた。

 俺の記憶の中に、彼女が告げた名を持つ魔法は存在しなかった。
 しかしながら、似たようなことをする方法自体はよく知っている。


「合成か……それも【賢者】の職業スキルでやっているのか?」

『あくまで【賢者】がやっているのは、詠唱の完全省略だけよ。それを並列思考で分裂化した思考で詠唱、合成して撃っているの』

「完全省略って、実在してたのか」

『思考速度を高めてそれとほぼ同等にしていたあんたは、もう人外のレベルよね。まあ、ただの省略の方が魔力消費は軽いんだけど』


 完全無詠唱、それはアルカの固有スキルである【思考詠唱】の極地のような技巧だ。
 ただ念じるだけで、魔法による事象改変が起きる……さながら神じみた振る舞い。

 俺はアルカからパクったそのスキル、そして<千思万考>による思考の超速化と分裂で擬似的にやっている。

 しかしアルカは……本物に辿り着いた。
 偽りばかりの俺と違い、己の力を貫き続けた結果が実っているようだ。

 サクサクと魔法を放ち続け、魔物たちを殲滅していく。
 全然数が減っていないのが気になるが……その分、放つ魔法の数が増えるのが怖い。


『ところでこれ、いつまで続くのかしら?』

「最初の事例だから、よく分からん。ただ、制限時間とかも表示されていない。攻城戦は一時間だったから、そういう割り切りのいい数字だとは思うけどな」

『今は……まだたった十分。全然進みそうにないわね。倒すのは簡単なんだけど、数が多いのよ』

「まだ一日目だしな。いきなりラスボス級の魔物とかが出てきたら、その時点で詰むことになるんじゃないか?」


 常にログインできるわけでもないんだし、そのため自動で防衛できるアイテムだ。
 本来は素材もゆっくり集めるのだから、最初は簡単な罠で対処できる魔物しか出ない。


『そりゃそうよね──『疾き煌閃』』


 また知らない魔法だったが、これも合成した魔法なんだろう。
 白い風が吹き荒れると、魔物たちは浄化されたうえでバラバラに刻まれていく。

 起きた現象から考えて、風属性と光属性のミックスだな。
 威力はあまり無いが、雑魚狩りにはピッタリな魔法。


『どれだけ出てくるか、試してみるのも一考かしら? その分、あんたに使う魔法が増えるわけだし』

「……お、お手柔らかに」


 ようやく十五分。
 さて、どれだけ魔法を使うんだか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...