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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦前篇 その10
しおりを挟む時間が生まれ、暇になった俺たち。
そうして行った会話の中身は……これまた殺伐とした戦闘関連の事柄だった。
「──ってなわけでな。魔法職でも、格闘戦ができないわけでもないんだぞ」
「だからって、やる必要が無いじゃない。そもそも、そうならないように近接戦闘用の魔法を開発したんじゃないの」
「何でもできるように。そう考えると、できて損は無いんじゃないか? たとえば魔拳術には、低燃費で魔法を一発拳にストックできる武技がある。それを使えば、強烈な一撃を魔力消費を抑えて撃てるんだぞ」
「……。それだって、消費する以上に魔力を用意しておけばいいじゃない」
脳筋みたいな発言をするアルカ。
実際、最初に渡した成長するチート武具は魔力消費を抑えているようだし、回復速度も上げているみたいだから間違ってはいない。
ただ、彼女は純粋な魔法職。
近接戦に持ち込まれた時の対策はしているようだが、それでも魔法が封じられた時の戦い方はまだ完成していない。
「魔法禁止とか、そういうことを強いる場所もあるだろう? アルカって、そこだと無力にならないか?」
「宝石に魔法を封じてあるわ。それを使えば魔法を使うこともできる。魔法禁止って、理論的には体外へ放出できないようにしているだけだから」
「ふーん……魔法を封じるか。なあアルカ、それってどうやるんだ?」
「途中までは職人がやっているから知らないわよ。最後の段階で魔法陣の上で魔法を籠めると、宝石に魔法が付与されるわ」
今はできないが、いずれやってみようか。
国民の中には宝石を集めている者も居たので、きっと何かしらの情報をくれるだろう。
魔導を付与……はほぼ確実に無理なんだろうが、魔術ぐらいならできる可能性が高い。
むしろ、魔法よりも付与しやすいかもしれないし……うん、考えが膨らむ。
「ちなみに、あんたはどうすんのよ?」
「何もしないで時間が経てば、体が勝手になれて無効化を無効化するだろうな。それが本気の戦いなら、俺が封じられても武具っ娘の方が使えるのを利用すると思う。アルカとやり合うときなら……武術で時間を稼ぐか?」
「舐められている……って言いたいところだけど、たしかにあの娘たちもいっしょに相手にするのは面倒よね。それはあんたを倒してから、改めて挑戦させてもらうわ」
「……勘弁してくれよ」
何でも模倣して自動相殺してくれるギー。
喰らって魔力を糧に、弾丸を飛ばすことができるセイとグラ。
他にも俺自身すらまだすべてを知らない武具っ娘たちの力は、一人使うだけで俺の力を何十倍にも何百倍にも高めてくれる。
なのでアルカと闘うのは、そんな彼女たちと共に戦う『偽善者』としてではなく、凡人が偶然から力を得た『俺』としてだ。
──だけど、敗北した時はそれを覆さねばなるまい。
つまりは、『偽善者』の出番である。
◆ □ ◆ □ ◆
≪──占有領域『都市トレモロ』にて、偶発的レイドが発生します≫
会話をしながらも、アルカにしか作れないアイテムの配置場所などを吟味していた……のだが、どうやら中止せざるを得ない。
GM06の声ではなくいつものアナウンスで伝えられたのは、この都市だけに先ほどと同じように魔物が現れるという警告。
「アルカ……出るか?」
「あんたはどうすんのよ」
「今はここの主だからな。ここで情勢を見ながら、クリスタルを操作して的確な処理でもしておくさ」
「ふーん、退屈そうね」
眷属が会話に付きあってくれるならともかく……作業ゲー染みているからな、これ。
そんな顔を察したのか、アルカは俺にそう言ってきた。
「クリスタルの操作はここでしかできないのかしら?」
「持ち出し不可能だしな、一定距離まで近づかれなければ再配置とかもできる。的確な采配をするためにも、ここでやるしかないんだよな……アルカはどうする? 設定を変えたから、帰還は無理だが転移はできるぞ」
「転移ができるの?」
「クリスタルのある場所に戻るのがダメ、ということなんだろうな。攻城戦中は禁止になるけど、ここから出るための転移なら自分とクラン、それに同盟関係にあるクランの占領した場所なら転移可能だぞ」
今のアルカですら、禁止の法則には逆らえず飛ぶことでここまでやって来たのだ。
転移は貴重な戦略要素、相手への不意打ちや味方への援軍にも使えるだろう。
「どこまで行けるのかしら?」
「横の範囲はこの都市を覆う壁から半径五十メートル、縦は均一で百メートルだな」
「なら……壁より手前、上空の辺りに飛ばしてちょうだい」
「あいよ、すぐに座標を設定する」
設定は簡単にできる。
誰を飛ばすか、どこに飛ばすかをクリスタルに表示されたパネルで決めるだけ。
アルカをこの都市の上空へ、そう設定するのに数十秒も掛からない。
「──よし、できたぞ。ただ、戻ってくるときは自分で飛んで戻ってきてくれよ。あと、魔物が周囲に居たり触れられたら無理だ」
「分かったわ……とはいえ、そんなの必要ないんだけど。私が全部、魔法で根絶やしにするんだ──!」
台詞の途中だったが、残念なことに時限式の転移だったため送還されてしまう。
どうなるか心配だったが……画面越しでアルカが凄まじい魔法を放っているようだ。
「……土下座の練習でも、しておいた方がいいかもしれないな」
瞳が紅に染まるくらい、【憤怒】している彼女の姿にそんなことを思うのだった。
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