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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦前篇 その08
しおりを挟むそもそも、武術が無くとも闘えるというのは当然と言えば当然だ。
知性の無い獣だって、牙や爪を振るうだけで敵を倒せる……この世界だと武術だけど。
それに、武術スキルを獲得していなくとも武器は使えるし、能力値は効果を発揮する。
理に適わない非合理的な戦い方でも、この世界でならば力を発揮できるのだから。
「……なんて言っても、結局武術の動きをある程度ならなぞれるから、まんま獣ってわけでもないんだけどさ」
人は爪や牙ではなく、その知性で生みだした道具を使って戦っている。
力をより上手く扱うため、合理的に作られたのが武器。
話がまた戻ってしまうが、武術が無くとも武器さえあれば人らしく戦える。
……ただその使い方が、最適なものかそうでないかの違いだ。
「なんちゃって武技──『拳打』」
たまにやっているが、体に叩き込んだ武技の最適な動きを再現して魔物に打ち込む。
生々しい感触が狼型の魔物から感じられると、すぐにそれは失われて吹っ飛んでいく。
「──“縮地”、『風迅拳』、『雷迅拳』」
身体系の縮地スキル、そして移動速度を上げられる二つの武技……モドキ。
属質強化という属性適正を高めることができるスキルで、風・雷属性の適正を引き上げたうえで強引に発動させる。
体内で生みだされるエネルギーが、その二つの属性に偏った状態になった。
精気力はその影響でそれらの属性を帯び、攻撃を受けた魔物たちは吹っ飛び麻痺する。
「……痛ッ。やっぱり強引だからな、そこだけは問題か──“超回復”」
体内で半ば狂ったエネルギーが血管などを傷つけていくので、受動スキルを能動的に行使することですぐに塞ぐ。
完全に治すのはあとにしても、戦闘に支障が出ない程度には損傷を抑えられる。
やっぱり属性系の武技は難しいな……と思いつつ、戦闘を続けていくのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
カランド高原に集められた大量の魔物。
狩り場に他の祈念者の姿が無く、俺が彼らの不評を買うような体質になっているからこそできた芸当だ。
それらはすべて、糧となっていく。
凡人は天才に追いつくため、彼らの何十何百倍も努力しなければならない。
眷属という天才たちと修練を繰り返し、僅かながらの成長を遂げている。
それでもまったく足りない、高め合っているのだから成長率で劣るのは必然。
「だからこうして、たまには真面目にやらなきゃいけないんだよな……さて、栄養補給しないと──“悪食”、“胃酸強化”」
魔物の肉を喰らい、それらを分解してエネルギーに変換していく。
人の身で食べれば命を害する魔物の生肉でも、これらのスキルを使えば安全に喰える。
あれから魔物と戦い続け、縛りの中でさらに縛っていた一般スキルのみでの戦闘もだいぶ厳しくなっていた。
特に身力関係、補給が間に合わない。
なので食事という至極真っ当な方法を用いて、足りない分を補っていた。
「って、やっぱり不味い……“内臓強化”。でも、喰える物は喰っておかないと」
胃だけでなく、体内の臓器すべてを強化できるスキルも重ねて使っておく。
消化速度も向上するので、どんどん食べて身力を回復していった。
その間も、感覚強化スキルで五感の内──聴覚と触覚を強化して辺りを探る。
魔物の数は有限、そして一定数を下回ればヤツが現れるはず。
「ッ! もう来たか……『双黒狼』」
『UWOOOOOOOOON!!』
「となると──“精密動作”、“光装”」
始まりの草原における『野良犬』、この高原では頭が二つ生えた黒い狼がボスとなる。
咆哮を挙げて仲間を呼びだすと、いっせいにこちらへ駆け寄ってきた。
俺は動きに補正を掛ける精密動作スキル、光を身に纏わせる光装スキルを使用する。
光と同化するのではなく、光を纏うだけだが……その分、できることもあった。
「あっ、これならできる──『波導弾』」
かめは……みたいな構えを取り、体内のエネルギーを掌の間で球体状に押し込める。
精密動作スキルの効果で比較的簡単だし、光装スキルによってそれは輝いていた。
「ほーへーふーひーーー波ー!!」
放たれたそれは、真っ直ぐ双黒狼に向けて飛んでいく。
配下である黒狼も庇おうとするのだが、光装スキルの纏う光がそれを許さない。
──奪ったスキルである光装は、破邪の光で魔物たちを弱体化させることができる。
元の持ち主が機械とはいえ天使だったし、すでに進化済みなのだが……異様に魔物殺すマンなスキルなんだよな。
「そんな力が籠もった『波導弾』なので、避けた方がいいんだよな……まあ、これって必中だから逃げられないんだけど」
今回放ったのは武技モドキなのでそんな効果は無いが、精密動作スキルで巧みに操れば追尾することもできる。
黒狼たちを器用に躱し、後ろで棒立ちしていた双黒狼に『波導弾』をぶつけた。
一撃必殺……には遠く及ばないものの、頭の片方を気絶させることに成功する。
「さて、今の内に片付けよう──“瞬脚”」
『GUWOO!?』
「遅い──“鉄壁”、『石体』、“加重”」
体を硬くしたうえで、体重を重くした。
残っていた頭の真上に移動した状態で、前回りして尻から着地。
──マンマミーア、彼らはボスを失ってしまった。
ここからは……掃討戦である。
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