上 下
1,494 / 2,518
偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦前篇 その06

しおりを挟む


「──ん? 誰か来たみたいだな」


 クリスタルが警告するのは、都市から離れた場所に祈念者の反応があったということ。
 最低でも中に入れば分かるシステムだったので、強化したら外でも分かるように。

 同じく強化したことで遠隔操作でも分かるようになった警告を受け、とりあえず高い建物の上へ登る。

 そこから視覚を強化して、曲者がどの辺りに居るかをクリスタルの情報を基に探す……と、すぐに見つけることに成功した。


「あれは……飛んでいるな」


 翼を生やしたその物体は、勢いよくこちらへと向かっている。
 真っ黒な鎧、そして背中から生えた白と黒の羽……知っている祈念者であった。


「おーい、ペルソナー」

《あっ、メルスさん!》

「速度を落とせ! 防衛機構が働いて、面倒なことに……あっ」

《どうして……って、きゃ──》


 どうやら俺の忠告は間に合わなかったみたいで、勝手に発射されたナニカと繋がっていた念話から響く悲鳴。

 うん、魔改造の結果一定速度で突っ込んできた場合に結界が生成されるように。
 そんな自分の速度が仇となる罠によって、彼女──ペルソナはダメージを受けた。


「同じギルドだから、とりあえず解除できるみたいだ……よし、できた」

《うぅ……申し訳ありません》

「ああ、そのままにしていた俺も悪いんだ。ただなあ、最初から解除しておくと……アルカが来た時が怖いんだよ」

《ああ……》


 彼女でも、アルカがどれだけ本気で攻めて来そうなのかを予想できるようだ。
 翼を背中から消し去り、俺の隣に着地したペルソナと会話を行う。


「ほい、ポーションだぞ。今の俺は縛りで回復魔法ができないからな、これで我慢しておいてくれ」

《いえ、貰えるだけで充分です》

「しかしまあ、正直アルカが突っ込んでくると思っていたよ。ペルソナはいったい、なぜここに来たんだ?」

《えっと……伝言です?》


 なぜ疑問形なんだろう、と思うけど。
 転移が使えない今、飛行魔法を使うアルカよりも翼を生成して移動できるペルソナの方が伝言役に向いているのはたしかだ。


「伝言、誰からなんだ?」

《アルカさんはすぐに行くと、首を洗ってそこで待っているとのことです。ユウさんはどうにか粘るから逃げて、みたいなことをこっそり言っていました》

「……アイツら、本当変わらないな」


 ナックルが二人を攻城戦に巻き込んでいただろうし、ユウが抑えている。
 アルカが来るのは最低でも翌日、そこはとりあえず確定だ。

 ……しかしながら、真の敵は味方っていうのは本当なんだなー。


《ティンスさんとオブリさん、イアさんは自由に行動すると。ノロジーさんとセイラさんは『ユニーク』を手伝うそうです。そして、シャインさんは……あの……》

「訊きたくない気もするけど、仕方ないんだよな……言ってくれ」

《お呼びになってくだされば、ギルドの全軍で援軍に向かうそうです》

「一生無さそうだな。眷属からの伝言はこれで全部か?」


 クラーレとは自分で話したし、伝えたいことはすべて話しただろう。
 シャインの妄言はさておき、ペルソナは目的を果たしたわけだ。


《眷属の皆さんからの伝言は、これで全部となります。ただ……不思議な三人組から、メルスさんに伝えてほしいことがあると》

「黒い奴らか? なら、言ってくれ」

《はい、そうです。えっと……Cの3? と仰っていました》

「Cの3……了解した。なるほど、事は思った以上に面倒だってわけか」


 黒い三人組とは、もちろん彼らのこと。
 予め情報収集をするように言っておいたので、ペルソナのことも知っていて伝言をさせたのだろう。

 ちなみに『Cの3』とは、始まりの町がどのように複製されたかの報告である。
 ギルドハウスなど、祈念者の介入で創りだされた物をどう反映したか……調べたのだ。


「ちなみに一悶着とかあったのか? いちおう戦わないようにって、目印としてギルドのマークは渡してあったけど」

《はい、だから気づけました。双剣使いの方が出しました》

「アイツ、本当苦労しているな……任せているの俺だけど」

《いろいろと罵っていました。たぶん、シャインさんが相手だったら、面倒事になっていたかもしれません》


 立場の問題なので、どうにもならないな。
 雇われたヤツと(自称)下僕、そりゃあ俺への態度に差があって当然だ。

 ギルドってのは本来、そういうのも纏め上げる必要があるのかもしれない。
 俺はギルドマスターじゃないし、まったく気にしないけどな!


「そういえば忘れてた、サブリーダー就任おめでとう。やっぱりリーダーとサブリーダーには、ご褒美とかあげた方がいいのかな?」

《……あんまり強すぎる武器はちょっと》

「あははっ、そんなことを言われるなんてまだまだだったな。悪い悪い、じゃあ便利な魔道具……ぐらいならどうだ?」

《それぐらいなら……》


 魔道具であれば直接戦闘に関わらないし、ペルソナに欠けている部分を補える。

 特にそれが何というわけでもないが、あればあるで便利なモノというのはあっても損はしないだろう。


「──というわけで、これをやろう」

《……腕輪?》


 俺が渡したのは──ビーズサイズの色付き魔石が七つ付いた腕輪であった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...