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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦前篇 その04
しおりを挟む≪しょうごとなりましたので──いっかいめのこうじょうせんかいしです≫
結局誰も来ず、攻城戦の時間となった。
俺とアリィ、そしてアリスは美術館の中にあった領主の部屋で椅子に座り、用意したクリスタルを操っている。
「ふーん、いろいろとできるんだね」
「[クリスタル生成]で用意できる、運営神謹製の品だからな。普通の祈念者が不便に思わないように、配慮がされているんだ」
「けど、何も面白味が無いわね。アリスたちのトランプ兵しか映らないじゃないの」
「……誰も来ないからな」
クリスタルの機能に魔力供給も登録されていたので、トランプ兵や都市中に用意された傀児などは勝手に動いていた。
後者は罠みたいな物なので動かしていないため、クリスタルが映す都市の中で動いている物は、アリィがスキルで生みだしたトランプの形をした兵士たちだけ。
……それが本当につまらないのだ。
「アリィのトランプ兵を外に出してもいいんじゃないかしら?」
「別にいいと思うが……外に出た時点で、供給は切れるからな。遠くなって消費する魔力が増えるのに、わざわざ外へ送る理由が何かあるのか?」
「もちろん──暇なんだよ!」
「……好きになさいな」
幸い、クリスタルが映せる映像はギリギリ外のフィールドまで届く。
アリィたちがそれぞれ一体ずつ、『A』の兵士たちを操り外へ出すのを見届ける。
門は閉まっているのだが、元がカードなのであっさりと通過していた。
……こういう部分も対策しなきゃいけないのが、ファンタジーな世界の面倒な点だ。
「よくよく考えたら、こんな広い場所を一人で守ろうとする方がおかしかったな」
「今さらじゃなーい?」
「それができるから、異常って言うのよね」
「限界まで引き伸ばして[内外掌握]して、魔力を[永劫回路]で無限に生成、それで仕掛け全部に魔力を供給……なんてことをすれば、もっと簡単な気もするけど。クリスタルが有るお蔭で、運用できているのが幸いだ」
魔力を糸でも介して通せばできるだろう。
糸術は武術なので使えないが、別に無くとも糸そのものは使えるのでなんとかなる。
距離や本数が問題になりそうだが……そちらも補えるだろうし、人材に関する問題も特に無いので実行可能だ。
それをやれば周りからどう見られるのか、しっかり分かっているのでやらないけど。
偽善者はやるときはやるが、そうじゃないときは身を潜められる存在なのだ。
「アリィ、何か面白いものはあったか?」
「ぜーんぜん。魔物はいるけど、『A』を出したからあんまり相手にならないし」
「これ越しじゃ探知できないんだから、警戒しないとダメよ」
「そうだぞ、アリィ。魔物を狩るのはいいにしても、その隙を突かれて……なんてオチはつまらないだろう?」
「むぅ……それもそっか」
「分かっていても、飽きが来るのよね」
攻城戦は仕掛ける方が有利なゲーム。
なので、守っている俺は不利なはずだ。
しかし対戦相手がいないのだから、勝利も敗北も無く暇な時間が続くだけ。
きっと他の人々は、まず始まりの町を統べる者が誰なのかを決めているのだろう。
なんてことを考えていたからか、もっともその座に相応しい男から連絡が届く。
【──おい、聞こえているか!?】
《……ナックルか。わざわざどうした、そんな急に声を荒げて。こっちは攻城戦が始まってからやることがいっぱいなんだが?》
【そ、そうなのか? だが、いちおう訊いておくぞ──お前の居る場所は、エレモロ都市なんだよな?】
《なんだ、機能で分かるのか。そうだぞ》
同盟中なのだ、それぐらいのことはできるのかもしれない。
しかし、それをこのタイミングで訊いてくるとは……これは何かあったな。
【機能を使えば、どれだけの場所がクリスタルの設置可能な場所なのか。それとどれだけ占有されているのかが分かるんだ。その中で一つだけ、すでに占有されていると分かったとき、普通はどういう反応をすると思う?】
《うーん、手の速い奴もいるな……か?》
【もう始まりの町を誰かが占拠したのか、だよ! そして、一番有名なクランは俺たちのクラン『ユニーク』! もう、物凄く疑われているんだよ!】
《ふーん……まあ、がんば》
どうしようもできない、そんな問題を言われても困ってしまう。
それに、迷宮とかフィールドを占拠してもいいのだから文句を言わないでもらいたい。
【同盟相手だろう!?】
《……ユウとか、そっちにいるだろ。それだけで充分じゃないか?》
【……眷属の皆さん、派遣できないか?】
《無理。というか、そんな目立つタイミングで呼ぶわけないだろう。あと、例の機能とやらを見たけど、もう俺以外にも占有した奴がいるみたいじゃん。これで問題も無くなるんだろう? それでいいだろ》
クリスタルを媒介とした操作を止めて、今度は『挑む者の指輪』から何かそれらしい機能が無いか探したら……[攻城戦]、とまんまな機能が登録されていた。
それを調べてみたら、ナックルの言っていた部分の数字は『1』から『2』へ。
事例が一つではなく二つである以上、それは誰でもできることになる。
《というわけで、俺は手伝わん。俺が云々という眷属を捕まえられたら、そいつとは好きに交渉してくれていいからさ》
【クッ、本当に好きにさせてもらうぞ!】
《はいはい、お好きにしてください》
そう伝えると、[ウィスパー]も途切れて再び静かになった。
……しかし、二つ目か。
いったい、どこの誰がやったんだろうな。
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