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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者と攻城戦前篇 その03

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「──“召喚サモン眷属ファミリア”」

「……あれ、呼ばないんじゃなかったの?」

「誰も……誰も来ないんだ」

「あー、そういうこと」


 逆にどういうことだと訊ねたい心情ではあるが、そうも言ってられないので、今やっていることを続ける。

 しかし、やはり寂しい物は寂しい……そんな心情で眷属は呼びだされた。
 話相手としては問題ないが、今回のイベントで頼もしいかと訊かれると……微妙だ。

 ストロベリーブロンドの髪を伸ばした、トランプ柄のワンピースに身を包む少女。
 その青色の瞳をパチパチとさせると、俺の方をジト目で見てくる。


「……あれ? なんだかアリィ、バカにされた気がするんだけど」

「いや、集団戦には向いてないなって」

「ふっふーん、いつまでも弱点を残しておくほどアリィはマヌケじゃないんだよ。ちゃんと特訓はしているんだから……ふぅ、すぐに習得しちゃう辺り、やっぱりアリィは天才かもしれないね!」

「まあ、敵が来たらな。とりあえず今は、俺の暇潰しに付きあってくれ」


 俺は今、都市の中でもっとも広い領主の屋敷を陣取っていた。
 趣味なのかなんなのか、はたまた芸術都市だからか……そこはなぜか美術館なのだが。


「防衛にはここの作品が使えるみたいだ。ただ、そこまで強くないみたいでな……先に強化しておくか、これを使ってもっと強い奴を用意しておく必要があるんだ。アリィ、何か面白いスキルとかないか?」

「急に言われると困るんだけど……うん、できるよ──“形無き兵軍トランプソルジャー”!」


 札を使うゲームを概念化し、強者であろうとルールに従わせる……それが彼女の固有スキル【加留多札】の能力。

 そして今回、より成長した彼女はそれを発展させているようだ。

 四十枚の札が彼女の手から飛ばされ、それらが人間サイズまで大きくなっていく。
 そこに手や足が生え、武器が握られ……童話で見たことがあるような兵士だった。

 そういえば、とある姉弟の迷宮ダンジョンで使ってたいたっけ?
 あのときは突っ込めなかったけど──


「なあ、これって……」

「うん、メルスの本を参考にしました」

「まあ、いっか。誰も困らないし、便利なのはたしかだ。ちなみにどれくらい強い?」

「この中だとエースが一番強くて、あとは無難に数字がデカいほど強いよ。本当は大富豪と同じにして、革命したら引っくり返る……なんて風にしたかったんだけど、さすがに限界があったみたいで」


 限界……まあ、詰め込みすぎだからな。
 後天的に生みだされる能力とは、それを運用するために使うスキルが、可能とするキャパ内で収める必要がある。

 例えるなら──高性能なソフトを入れようとしても、スペックが足りないCPUでは使えない……みたいな感じだな。


「うーん……じゃあ、とりあえず都市の至る所に撒いておいてくれ。ここだけに集中させていたら、怪しいのがバレバレだ。俺も偽物のクリスタルをそれっぽい場所に置いてくるから、そこにも配置を頼む」

「はーい、じゃあ行ってきてー」


 兵士たちはサッとポーズを取り、美術館から退出していく。
 俺とアリィはそれを見送り、さらに作業を続けていく。


「ねぇねぇ、ちょっとゲームしない?」

「さっきのアレをやっても、できるのか?」

「そりゃあもちろん! メルスのくれた……こ、この指輪があれば、どんなゲームでもできるって言ってたじゃん」

「あっ、使っててくれたのか」


 眷属全員へ、それぞれに合った指輪を渡している……というか要求された俺。
 アリィに渡したのは、どこでもゲームができるという『遊戯の指輪』。

 彼女の【加留多札】の補助具として働き、できることを増やせる仕様となっている。
 ……その機能はほとんど使われず、ただのゲーム機代わりになっているんだけどな。


「そりゃあ便利だしね──“遊戯構築”!」

「これは……スロット台?」

「さぁ、当ててみて……って、あれぇ!?」

「今の俺は身体スキルだけは完全使用が可能だからな。動体視力も反射速度もバッチリ」


 用意されたスロット台に座り、レバーを引いてボタンを押していく。
 ズルではないがそこで視力と指の力を強化し、大当たりの数字だけを出してみた。

 三連でその絵柄が続くと、ファンファーレがスロット台から鳴り響く。
 すると、スロット台は消滅して再び辺りに静寂が戻る。


「……さて、作業に戻るか」

「ズルじゃん、チートじゃん! ズルい、セコいぞメルス!」

「真面目にやってたら、終わらないからな。自分にできることをやって、作業に戻っておきたかったんだよ」

「ぶー、つまんなーい……だから、面白いものを見せてあげる──“一人の二人ダブル”!」


 先ほどのトランプ兵を出す能力同様、聞いたことのない能力だったが……起きた現象に関しては、とても見覚えのあるものだった。

 生みだされたのは、アリィと寸分狂わず同じ姿をした少女。
 ただし、その目だけはアリィよりも知性を宿している。


「アリィ、自分でできるようになったのか」

「そりゃあね。前にメルスがやったときに、完全にコツを掴んだんだ。使えなくなるカードができちゃうけど、それでもこうしてアリスといっしょに居られる!」

「そうねぇ……アリスも嬉しいわ」


 俺が居なくとも、二人が同じ時間を共有できるようになったか。
 少しずつ成長していく眷属に、いずれ俺は追いつかなくなるのかもな……。

 そうならないためにも、俺は俺にできることをとことん追求していかなければ。


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