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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦前篇 その02
しおりを挟む同盟はすでに済ませてあるので、クラーレが属する『月の乙女』のメンバーと接する必要はない……が、眷属であり、メルのときの主である彼女に話したいことがあった。
「固有スキルの使い勝手はどうだ? 調子に乗って使っていると、耐えられなくなるぞ」
「言われなくても分かっています。今は、その力に見合う技術を磨いています」
「そっか……なら、安心だ。シガンの二の舞にはならないでくれ」
「……あまりシガンには、訊かせられない忠告ですね。ですが、はい。必要としない限りは、行いません」
逆に言えば必要となれば使う、まあ俺もそうするだろうからそこはいい。
ただ、不安ではある……俺はそれをするだけの力があり、クラーレには欠けている。
少しずつ力を蓄えていけば、必ずそれは彼女が望む力として発揮されるだろう。
だがそこに至るまでに、どれだけの苦痛や絶望が待ち受けているか……。
「イベント中、そっちはフィールドとか迷宮で狩りをするんだろう?」
「わたしたちのクランは少数ですし、攻城戦のように数が物を言う戦いは性に合いませんよ……プーチもいますし」
「男嫌いだもんな……まあ、それはいいや。俺はこれから、城を準備する。何かあったらそっちに逃げてきてもいいぞ」
「……いろいろと意味は分かりませんが、それがメルスですので覚えておきます。何か問題が起きたところに居そうですし、場所をいちいち教えてくれる必要はありませんよ」
ほんのりと黒いことを、ニコリと笑みを浮かべて言うクラーレ。
やらかすつもりはないんだが……まあ、自分でもなんとなくそうなる気がする。
「まっ、もし上に誰か来たら言ってくれ。同盟相手として助けに来るさ」
「頼もしいですね……ですが、そうならないように頑張りますのでお気遣いは不要です」
「ははっ、頑張ってみろよ」
クランハウスは狙われないはずだが、攻城戦イベントにはまだ謎な部分が多い。
本当に相手は祈念者だけなのか、そういう部分を考えると心配はしておくべきだろう。
「……ところでメルスは、どうやってこのクランハウスに辿り着いたのですか?」
「空を蹴って」
「つくづくチートですね、メルスは」
「長時間は無理だとしても、近接戦闘をする奴の中にはできるヤツも結構いるぞ。全部が全部無理ってわけじゃないんだし、できるように励むのもいいかもな」
すでに気闘術を習得しているクラーレなので、できないわけではない。
軽くなった体を風にでも乗せれば……いちおう可能ではある。
「じゃあ、俺はもう行くから。クラーレたちも頑張ってくれよ」
「言われずとも分かっています」
「そりゃあ頼もしい……たぶん何かある、だから任せたい」
「! …………はい」
俺とて真面目なことを言う時はある。
それを察してくれたクラーレは、真剣な顔で頷いてくれた。
探知スキルは使えないが、他の者たちがクランハウスに入ってきたのを知覚する。
クラーレに合図を送って部屋の窓から抜け出すと、そこから浮島の端へ移動した。
「じゃ、よろしく」
「気を付けてくださいね。助ける助けないはともかく、歓迎しますので。できるなら、メルの姿の方がいいですけど」
「縛りが終わったらな」
そう答えて、足を前へ踏み出す。
当然そこに地面は無いため、そのまま空から墜ち……るところで、飛行スキルを起動して空を飛ぶ。
魔力消費は激しいが、自然回復に関わるスキルもすべて使用可能なのでそれらを並列起動させて補っている。
そして、そのままこの世界を巡っていく。
限定的に複製された場所なのだ、すぐに果てへ辿り着くだろう。
◆ □ ◆ □ ◆
「……っと、ここが終わりか」
ぶつかって確認するなんて、原始的な方法で解決するのは嫌だった。
なので自分の前に石ころを飛ばし、それが何かにぶつかるかを確認していたのだ。
というわけで、コツンとナニカに当たって地へ墜ちていく石ころ。
それを眺めながら、ここがどこなのかを調べるために[マップ]を起動させる。
「『N3 カランド平原』か……つまり、三区画分までが今回のイベントエリア」
たしかに地上を見下ろせば、意思を持った魔剣と共に旅した光景が広がっていた。
さすがに祈念者たちはまだ居らず、祈念者と同じく複製された魔物だけが動いている。
ギリギリこの区画に収まる場所、北端──つまり真下には都市の姿が映っていた。
跨いでいるはずなのだが、そこだけはしっかりと複製されているようだ。
「さて、今なら都市は誰も居ないから確実に支配できる。ここを居城にして、イベントを攻略していくことにしようか」
フィールドに居る魔物も殲滅していきたいが、それをするのは時間が掛かる。
魔法を使える縛りならまだしも、個体ずつ処理しなければいけない体術では難しい。
今回はそれをやっている時間ももったいないので、正午になったらすぐにクリスタルとやらを生成して設置するだけにしておく。
「芸術都市で、いったいどういう防衛ができるのかはまったく分からんが……うん、とりあえずやるだけやってみよう」
眷属たちにも[メール]で連絡を行い、防衛ごっこがしたいヤツは来いと伝えておく。
少なくとも、一人は来るだろうと高をくくり……都市へと降り立つのだった。
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