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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦前篇 その01
しおりを挟むイベント当日、俺は始まりの町──を複製したという自由民が誰も居ない場所へと転送されていた。
同様に祈念者たちも移され……『独裁のスイッチ』だの、『そして誰も居なくなった』などと呟いている。
≪──てんいかんりょう。きねんしゃのみなさん、ゲームマスターゼロシックスです。こうじょうせんいべんとにさんかしていただいて、まことにありがとうございます≫
そして、俺たちをこの場所へ導いたGMのアナウンスが、どこからともなく聞こえた。
彼女こそが──俺の知らないGM姉妹、その六番目……GM06ちゃんだ。
レイ曰く、06はずいぶんと幼い姿らしいので、発音もそれに似合う舌足らずなもの。
顔を見たことが無いはずだが、周りに祈念者はそこに『萌え』を感じているようだ。
一部の単語は言えているのだが……うん、カタカナが上手く言えている辺り、そこは彼の【暗殺王】の上位互換かもしれない。
≪こうじょうせんでは、みなさんがまずじんちをえるひつようがございます。すでにかくとくしているクランホーム、ダンジョン、ほかにもいくつかのじょうけんをみたしたところが、りょういきとしてみとめられます≫
いくつかの、と言葉を濁している辺りやれることは多そうだ。
だがそれは、イベントが始まる前にやっておかなければならないこと。
誰に認めてもらわなければならないのか、それは間違いなくその土地の主──つまり大半の場合、自由民が該当するだろう。
予め場所を確保できる、それはかなりのアドバンテージのはず。
ならば、祈念者たちは何をするのか……つまりはそういうことだ。
≪こうじょうせんはいちにちいっかい、しょうごのじこくにおこないます。それからいちじかんにかぎり、りょういきのはかいやごうだつがみとめられます≫
≪いっていのひろさ──おしろやダンジョンは、どこかにかくされたクリスタルをこわして、そこにじぶんたちのクリスタルをせっちすることでりょういきをえられます。これは[クリスタルせいせい]をつかいます≫
逆に言えば、それ以外の狭い場所は奪うことができないわけだ。
クランハウスなどは安全地帯として、今回使用することができる。
ただ、城が取られた場合ある意味国の機能が持っていかれる可能性が高い。
城とその外縁部までは全部セット、なんて考え方もできるわけだし。
≪これをなのかかんおこない、どれだけりょういきをもっていたかでせいせきがけっていします。べつのクランと[どうめい]をくむもよし、さいごのさいごでぎゃくてんをねらうのもよし……なにをしてもかまいません≫
≪ただし、くうかんまほうなどのちょうきょりいどうでズルができるほうほうは、イベントちゅうはしようにせいげんがかかります。りょういきのかくほは、じぶんたちのちからだけでおこなうようにしましょう≫
《ぶたいはこのたいりくのいちぶをもしたイベントエリアぜんいき、これまではかくほできなかったりょういきもいまならばかくほできます。つまりはそういうことです──ではまたみなさん、つぎのこうじょうせんで》
GM06のアナウンスはここで終わる。
いちおう空間魔法を試してみるが、なぜか移動系の魔法だけが使用できなかった。
同じく時空魔法も発動できず、次元魔法を行使した所で……発動できる感覚が。
うん、俺以外誰も習得できていない魔法ともなれば、制限を忘れていたようだ。
「まあ、今回の縛りじゃそもそも使えないから諦めるんだけど。筋肉の魔法とか、そういうのもできないし」
筋肉、という単語で察することもできると思うが……今回の縛りは身体スキル縛り。
割とできることが多いので、瞬間移動でなければそれなりの速度で活動可能だ。
「さて、クランごとにできる選択肢はいくつもある──城を奪う準備、未開拓の場所を確保する、誰かとの同盟を結ぶ。弱小クランは二つ目を選んだうえで、隙を突けるように一つ目の準備ぐらいはしているのかな?」
迷宮も領域化できるみたいだし、小さな場所を確保していくだけでも成績に影響させることができるだろう。
クラン『ユニーク』や『月の乙女』も、聞いたところによると攻城戦が行える正午までは、迷宮攻略をするようだし。
「どこまでが再現されているのか、それも問題だよな……それを把握しないと」
すでに動き出していた祈念者たちと共に、まずは町の外へ。
それから可能な限り気配を抑え、人目の付かない場所へ移動する。
「──“空歩”、“浮遊”、“身体強化”」
空に足の踏み場を生みだし、体を軽くして上へ上へと昇っていく。
身体強化で一歩で進める距離を伸ばし、可能な限り短い時間で上へ。
本来、空の上には何も存在しない。
ただ登った果てに力が枯渇し、再び地へ墜ちて死ぬだけの運命。
しかし、人以外のだいたいの物が複製されたこのイベントエリアならば、しっかりと辿り着く場所がある。
「──っと、到着到着。他の奴らは……居ないみたいだな」
空を飛ぶ小島、そこに足を踏み入れた俺は建てられた大きな和洋折衷なお城へ向かう。
あとは部屋の一室に用意された装置を操作し、とある仕掛けを作動させる。
「……よし、これで他のみんなも入ることができるよね。移動の魔法は禁止されても、魔法陣が作動しているってことはちゃんと使えるみたいだし」
「──メル! ……ス」
「変身魔法が使えないから、このままの姿で居させてもらうぞ。久しぶり、クラーレ」
「ええ、お久しぶりです」
つい先日まで集まっていた祈念者の眷属。
そこに呼ばれなかった最後の眷属が今……俺の前に姿を現した。
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