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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目

偽善者とクラン設立 前篇

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 始まりの町 クランハウス『ユニーク』


「──イベント? なんか、早くないか?」

「従来のオンゲーからすれば、少ない方だと思うぞ。それよりだ、イベントの大まかな概要はすでに分かっているから、そのことについて先に話しておきたい」

「……それはいいんだけどさ」


 ナックルに呼ばれ、訪れたクランハウス。
 この場には俺とナックル、あとは秘書ポジションのアヤメさん──それに加え、二人の少女たちが居た。


「ねぇねぇ師匠、次のイベント楽しみだね」
「……ふんっ」

「お前らさ、なんで隣に座るの?」

「ぷぷっ、師匠が自意識過剰だよ」
「あんた、変なこと考えてないでしょうね」

「嫌なら退けよ……というか、俺が退くぞ」


 体をソファから離そうとしたが……アルカが魔法を使ったのか、動かせない。
 そんな俺をナックルがニヤニヤと……ウザいな、どうしようか。


「──“衝撃球ショックボール”」

「~~~~~ッ! おいそれ、無属性の初期の方で取れる魔法だろ! なんでそんなに威力が高いんだよ!?」

「これぐらい普通だろ。ほら、アルカも何も言ってこないし」

「……それぐらい、私にだって」


 威力の弱い魔法であろうと、1の魔力が秘めた密度を高めることで、強引に性能を底上げすることができる。

 ただの魔法使いと魔王が同じ魔法を使っても火力が違うように、×ラで×ラゾーマ……いや、×ラガイアを出すことも可能なのだ。


「は、話を戻すぞ。今回のイベント、それはずばり──『攻城戦』だ!」

「……迷宮イベントと被ってないか?」

「ばっ、あれからどれだけ時間が経っていると思ってやがる! もう別だ、別! それに今回は、既存の建物を使うんだよ!」

「……へー、そりゃあ面白そうだ」


 詳しく質問してみれば、建物だけを複製したフィールドに飛ばされるらしい。

 そこで各々クランごとに領土を奪い合い、最後に所持していた領土が広いクランが多くの報酬を得られるそうだ。


「人数差が問題にならないか?」

「占拠している奴らとのレベル差で補正が入るようになるらしい。防衛の場合も、侵入者の合計値との差で補正が入る。あと、ギミックとかを用意しているらしいぞ」

「まあ、それならどうにかなるのか。俺はもしかして、戦力にでもされるのか?」

「まさか! 今回呼んだのは、先に同盟を組みたいと思ったからだ!」


 何やら[メニュー]の画面を操作しだしたので、俺も『挑む者の指輪』から祈念者らしいシステムを使えるようにしておく。


「……あっ、[アップデート]を忘れてた。すぐに始めるから、ちょっと待っててくれ」

「じゃあ、今の間に何をするか言っておく。[同盟]って言ってな、別クランといくつか条約を結べるんだ。それで俺は、緊急時の救援をやってもらいたい」

「……俺に得が無いよな。あと、正式に所属しているクランが無いぞ」

「そのための二人だ。ユウとアルカには、お前の関係者を集めてもらっている。先にユウが作っておいた仮名のクランと同盟を結び、そこに後でリーダーになったお前が再提携をしてもらいたい」


 ティンスとオブリにクラン作りを任せたことがあったが、結局無くても問題は無いということで放置されていたんだよな。

 俺としても、眷属が集まる場所を用意しておくことに異論はない。
 もしものときの、セーフティーハウスとしても使える建物が欲しいな。


「──って、呼んでる?」

「さぁさぁ師匠、早く行くよ!」
「気づかなかったの? そのために、わざわざあんたを捕まえてたんだから」

「……やられたな、これは」

「それじゃあ行くわよ!」


 彼女の固有スキルで無詠唱化された転移魔法が俺とユウ、そしてアルカを包み込んでどこかへ飛ばす。

 ……ナックルのニヤケがウザかったので、もう一発“衝撃球”を叩き込み、一瞬聞こえた苦痛に満ちた声で溜飲しておくことに。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 場所は分からなかったが、とりあえず俺の世界ではないことだけは確実だろう。
 それならば報告があるだろうし、自動的に発動する転移妨害が起動するはずだ。


「──ここ、どこだ?」

「仮拠点よ。あんたの所には置けないみたいだったし、みんなで話せる場所を確保しておいたの」

「……あー、なるほど。たしかにここなら、問題な──おっと!」

「お兄ちゃーん!」


 会話の途中で突っ込んできた妖精の少女を受け止め、優しく手を握り締めてグルグルと回転する。

 意味なんてない、が案外気に入ってもらえたようで……キャーキャー言ってくれた。


「全員、久しぶりと言うほどではないよな。前のイベントで会っているわけだし……とりあえず、よくもまあ嵌めてくれたな」

「日頃の行いが悪いからじゃないの?」

「ティンス……日々善行に勤しむ俺の、どこがいったい悪行していると言うんだよ」

「──存在ね」


 即答された……そっか、存在かー。
 途中で回転を止めたので、オロオロとオブリは心配してくれるが……おっと、一人止めないと。


「ストップ、シャイン」

「ハッ! で、ですが……」

「ただの雑談だ。というか、お前には自分のクランがあるよな?」

「最初の同盟相手になりたかったので!」


 TS勇者のシャインは、すでに自身のハーレムメンバーと作ったクランに所属しているので、関係ないと思ったのだが……たしかにまだナックルとやっていなかったな。


「……まあいいや。それじゃあ、最初に決めておかないとならないことがある。話を進めるのは、その後だな」

「師匠、それって何?」

「決まっているだろう──名目上のリーダーとサブリーダーだ」

『…………』


 えっ、それ? みたいな目が痛い。
 ちゃんと理由があるんだから、しっかりと聞いてもらいたいものだ。


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