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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と凡人体験 その15

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「うぅ……」

「ほら、もう大丈夫だから……兄さん、そろそろ落ち着いたみたい」

「……そうだね。うん、良かったよ」


 無事、『侵蝕』は止めることに成功する。
 シガンの時と違い正攻法ではなく、一度原因を除去することでリセットするという方法だったため……俺は本来の姿に戻った。

 しかしまあ、それが問題だったわけだ。
 通常状態の俺は、顔を見られただけで呪縛によって常時起動するスキル<畏怖嫌厭>により嫌われるわけで……。

 眷属はそれを隠すためのスキルを嫌がるため、通常時はそのままの状態で居る。
 もともとの顔で<畏怖嫌厭>に抵抗できる彼女たちは、そっちの方がいいらしい。

 今回は縛りで顔が変わっていたので、気にせずにいいと油断していた。
 なので──変身を解除したときの顔は素のまま……うん、見られてしまったわけだ。

 現在は元のショタ状態に戻っていて、ニィナが例の暗殺者──少女を慰めている。
 それに適した魔法も使っているようで、わりとすぐに落ち着いた。


「とりあえずお姉さん──チズさんにこれ以上戦う気はないって。それと、最初は犯罪者だけだったんだって」

「うん、それならいいよね。原因は増える数値と明確な目的だった……ってことか」


 暗殺者らしい恰好をかなぐり捨てて、祈念者である彼女は死に戻りたいと呟いていた。
 意識があったので、自分がこれまで何をしていたのかを反省してしまったからだ。

 ニィナによると、目的は【暗殺神】だったのだが……その途中で報酬として得た固有スキルの影響で、少しずつ条件達成よりも殺戮に注視するようになっていたらしい。


「────」

「えっ? ……えっと、『ごめんなさい』って言ってるよ」

「普通だったらこういうとき、ニィナに通訳させるのが普通かもしれない。けどさ、お姉さん……ニィナはお姉さんの通訳係でもなんでもないんだよ。魔法で補助してあげる、だからちゃんと自分の言葉で謝って」


 無属性の魔法なら使えるので、“念話テル”を施して会話をできるようにしておく。
 祈念者は[ウィスパー]を使う感覚で発動させれば、それらしい会話が可能だ。


《……このたびは、ごめいわくをおかけしました。おわびならば、なんでもします》

「僕は別に気にしていないよ。気にしているのは、ニィナを傷つけたことだけ。あと、他の人を殺したことはどうでもいいよ。どうせ死に戻るんだし、覚悟なんて無かったんだから構う必要も無い」

《……きょくたんなすたんすですね》


 見た目以上に語彙力があるようだな。
 ただ、妙に言えていないというか……もしかして、[ウィスパー]や念話に慣れていないのだろうか?


「まあ、そんな他人の話はともかく。僕は、ニィナを傷つけたことを許さない。けど、僕が許さないことをニィナは許さないから、とりあえず許す」

《ありがとうございます》
「────」

「ううん、気にしないで。あっ、兄さん。今のはぼくにもありがとうって言ってくれたんだよ」

「ニィナに謝ってくれるなら、それでいい。そろそろ話を余談に移るよ──お姉さんのスキルとその代償について」


 俺にとってはおまけなので、ちゃんとそう伝えておく。
 だが彼女にとっては重要だからか、それを聞くと体をビクッと揺らす。


「【罪貨可居】、面白いスキルだね。罪とお金が力になるなんて……しかもこれ、業値を変換しているからあの『極光の断罪者』からも逃れているんだ」

《はい。ただ、かるまをもどすならそれなりのやーんがひつようになるので……いつもおかねがないんです》

「そうなの? うーん、じゃあ……僕たちに雇われない?」

《やとう?》


 先ほど説明した通り、彼女は【暗殺神】を目指していた。
 では、そんな彼女の現在の職業はいったい何なのか──その答えをすでに聞いている。


「【暗殺姫】のお姉さん、僕は優秀な人材を求めている……なんてカッコイイことを言ってみたかったんだけどね。要するに、敵対してほしくないんだよ。あとは、知り得たことがあったら教えてほしいだけ」

《なにかをしろ、とくにあんさつをしろとかそういうことをいうつもりはない……と?》

「お姉さんに頼らずとも、それができる子が居るからね。暗殺の依頼を受けたとき、それが僕に関わる人なら教えてくれる……とか、それぐらいだよ。守秘義務に反するなら、何かの合図をしてくれればいいだけだしね」

《それぐらいなら……》


 お金を支払うため、今回は“収納財布マジックウォレット”という魔道具を持ち込んでいた。
 現金主義者がギルドカードに頼らず、安全に金銭を持ち歩くための物だ。


「じゃあ──これが前払いね。何か必要な物があったら言ってくれればいいし、あとで正式な契約をしたときにはこれ以上の額を出すと約束するよ」

《き、きんかのやま……あなたは、いったいなにものなの?》

「言ってなかったね。けど、今の僕はただのニィナの兄だよ。知りたかったら契約して、それからだね。確約できることはただ一つ、絶対に損はさせないってことだけだけど」

《……くわしくおしえてください》


 眷属と共に生きる中で、少しずつ変わっていくスタンス。
 偽善をやるなら独りで、というのにも活動範囲が増えれば増えるほど限界が生じる。

 いずれこの世界で広く活動する時、使える駒や情報は多い方がいい。
 敵対しない者も、また然り……雇えるだけ雇っておこうってわけだ。


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