1,483 / 2,518
偽善者と試されし練度 二十二月目
偽善者と凡人体験 その14
しおりを挟む魔導解放によって、能力値がモブスペックになっているにも関わらず、暗殺者から立ち込める禍々しいオーラは増大している。
思い浮かぶのは、【強欲】の能力を用いたときに発生する金色のオーラ。
あれは発動時に消費したものによって、一時的なブーストを行えるというものだ。
能力値を抑制していても、一部の強化魔法やスキルなどは今も使用することができる。
暗殺者の固有スキルもまた、それらに該当する能力を秘めているのかもしれない。
「あっ、壊れた──“構成解析”」
「時間を稼いでくるね!」
展開していた“偽円隔壁”が破壊された。
遠距離から、一瞬で距離を詰められるかもしれないという予測をしてからか、ニィナが即座に動いて時間稼ぎをしてくれる。
魔術を切り替え、使っているものは二つ。
細胞活性を促す“癒療”と、ステータスを時間経過で開示していく“構成解析”。
鑑定と違い、暴くことができるのは数値的な部分のみ。
そこに加えこれまでの研究データに基づいた情報が、分かった部分だけ表示される。
「暗殺術、影魔法、それに超級隠蔽……まさか、適性がある祈念者が居たなんて」
「暗殺者に向いている子なんだね、っと」
「固有スキルに関しては……えっと、殺した数がスキルの性能そのものに関わっているみたい。スキルの効果は能力の補正で、それが能力値に間接的な補正を掛けているのかも。完全無詠唱もそれが原因の可能性が高いよ」
「兄さん、どうすればいい?」
投擲の速度も上がっているようで、会話中に黒塗りの短剣を高速で放ってきた。
能力値をそういう動作から割り出してみるが……明らかに、1の限界を超えている。
「魔術の中には、相手を気絶させるものがある。それを使って止めたら、一度縛りを終わらせよう。あとは……まあ、そのときに考えることにして」
「ぼくの魔法じゃ、抑え込むことはできないだろうし……うん、兄さんの活路を開けばいいんだね。その魔術の有効距離は?」
「直接触れないと……しかも、心臓に」
「…………うん、了解。なんとかやってみるから、兄さんは後ろから付いてきて」
ニィナは前に、ゆっくりと進む。
暗殺者はその場から動かず、ひたすら投擲だけを繰り返している。
……天魔眼は、それらの暗器にくっついている糸を捉えていた。
ニィナも何かのスキルで分かっているようで、時折その糸を目で見ている。
「“過程演算”……ニィナ、来るよ! それと──“幻ノ君”!」
発動していた魔術は一度解除し、改めて攻撃の流れを読み取る魔術を起動。
その情報から適切な場所に虚像を配置すると、攪乱役として動かしておく。
「────」
冷酷無慈悲、そんな言葉が似合うほど的確に俺の生みだした虚像は次々と消される。
その分糸はさらに張り巡らされ、いつの間にか俺たちは糸の籠に閉じ込められていた。
「燃やせ……ない、よね?」
「さっき“構成解析”で調べておいたけど、硬いし燃えないし、持ち主の魔力でいかようにも変質するみたい」
「兄さん……お願いできる?」
「うん、任せて──“斬ノ理”!」
燃費は悪いが大半の物は斬れる、そんな魔術を瞬間的に発動させて至る所へ飛ばす。
糸を木端微塵に切り刻み、慌てて放ってきた武器も切断する。
ニィナはその隙に暗殺者へ近づくと、肉弾戦を始めた。
俺は魔法と魔術で補助を行い、準備ができるその瞬間を待つ。
「────」
「──“落穴”!」
突如生みだされた穴の中へ、暗殺者は落ちていく。
しかし、暗殺者の気配は落ちた穴から少しずつ上を目指している。
その間にニィナは統属魔法“七宝之珠”を発動し、黒と透明色の珠を合わせた。
そして、次の魔法を発動する。
「──“空間開扉”、“空間接続”!」
空間魔法を引き出し、生みだしたのは穴のサイズとピッタリ合った空間を繋ぐ扉。
その穴は俺の前にも用意されており……暗殺者は武器を構え、そこを潜る。
「兄さん!」
「────」
「問題ないよ──“水鏡反響”」
振るわれた暗器が、暗殺者の姿が……俺の魔術で生みだされた水鏡に映しだされる。
すると、中に映った鏡像が動きだし、本体の攻撃を相殺した。
まったく同じ速度、同じ威力で振るわれたそれは動きを一瞬だけ止める。
あとは簡単、水鏡の後ろから近づいて……魔術を発動するだけ。
「これで終わりだよ──“封力落意”」
胸に……いや、これ以上は意識しないで、心臓に掌を載せて魔術を行使する。
電気ショックのように一度、激しい衝撃を心臓へ叩き込んだ。
その効果は医療行為とは逆に、暗殺者のように命を止めるために使われる。
生命力を、魔力を、精気力を強制的に停止させることで固有スキルの発動も止まった。
そして、暗殺者はそのまま気絶する。
後遺症が残らないよう、そのまま意識を失わせる配慮までされた魔術であった。
「……ふぅ、これで終わりってことで。ニィナ、少しだけ縛りを解除するよ。この状態であのスキルだけ使用可能にしたら、間違いなく暴走するだろうし」
「うん……気を付けてね」
「大丈夫だよ。僕は──いや、俺は偽善者だからな。自分にできる範囲でしか、善行なんてやらないさ」
一時的に戻った能力値、身体、そしてとあるスキル。
それらを組み合わせ、『侵蝕』に侵された暗殺者を救う。
報酬は、暗殺者自身から……な?
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる