上 下
1,481 / 2,518
偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と凡人体験 その12

しおりを挟む


 ニィナがそれでも戦うのは、ひとえに時間稼ぎのためである。
 さすがに彼女が不利すぎるというか、いずれ敗北することが確定しているのだ。

 この世界ではレベルという数値は強さに深く関わり、圧倒的弱者の干渉あがきを無効化する。
 攻撃ダメージをゼロにし、相手を一撃で死へ導くこともできるようになるのだから。

 なので、俺は一発逆転のチャンスを生みだすためにひたすら隠れて準備を行っている。
 攻撃無効スキルで死から免れ、陽光魔法で自らを光化して死を偽装してな。


「──“光衣装甲ライトベール”、“護光ライトアミュレット”!」


 俺が生きていることに気づかず数字を数えていたみたいなので、ニィナは自らに光を纏わせて存在をアピールしている。

 使うのは防御魔法、あくまで死なないことがこの時間稼ぎの大前提だ。
 そのため、攻撃魔法で挑発するような真似はしない。

 光による多重装甲、破邪のお守り……ちなみに後者は致命傷を一度だけ弱める効果がある便利な魔法だな。


「──“矢避風アローアヴォイド”、“水尾ウォーターテール”!」


 一度バレれば割と律儀なのか、ニィナが準備を整えていても妨害をしてこない。

 ある程度の威力の投擲を無効化する風魔法に、補助用の尻尾を作る水魔法。
 暗殺者が死角から放つかもしれない攻撃に対し、さらなる備えを拵えている。



 ここで準備を終えたと思ったのだろう、ついに暗殺者が動きだす。
 再び俺とニィナの感知や探知を掻い潜り、どこからともなく出現した。


「! ──そこっ!」


 だが、ニィナもすぐに学んだようだ。
 何かの方法でそれを察知し、構えていた剣で暗殺者の攻撃を防ぐ。

 すると、ほんの少しだけ暗殺者の姿を見ることができる。
 小柄な体を真っ黒な外套で頭まで包み、黒塗りの短剣をニィナに突きつけていた。

 すぐにその状態から脱し、暗殺者は再び存在をその場から消す。
 しかし、ニィナは凄まじい速度で成長していき──隠れた暗殺者を見つけだした。


「見つけた──“闇薙ダークモウ”!」


 闇を払う武技を使うと、暗殺者の隠蔽が強制的に解除される。

 再び姿を現した暗殺者に、そのまま武技を使った斬撃が放たれる……が、それはあっさりと黒塗りの短剣に防がれた。


「────」

「うぅ……“貫通槍ペネトレイトランス”!」

「────」


 水で構成された尻尾が槍のように鋭く尖ると、意思を持っているような動きで暗殺者に向けて飛んでいく。

 しかし、これもあっさりと手を振った際に甲へ当たるだけで、弾けて無効化された。
 絶体絶命の危機……だからこそ、確実にトドメを刺すために意識はニィナへ向かう。


「魔導解放──」

「──ッ!」

「──“普遍在りし凡人領域”」


 確実に殺せたと思った雑魚が、まだ生きていて何かとんでもな魔力を出した……なんて状況だからか、驚いていると見て分かるような気配を放ってしまう暗殺者。

 だがもう、すべてが覆る。
 発動した魔導の効果によって、この場に居る者全員が平等となった。


「ニィナ、頑張ってー」

「兄さん、もう出てきて良かったの?」

「僕が死んでいないのに隠れて、何かしようとしているってよく分かったね」

「兄さんのことだからね」


 暗殺者は自分に起きた違和感を、ステータスでも確認して気づいただろう。
 自身の能力値がすべて1となり、固定されている異常事態に。


「あっ、ちなみに脱出不可能だよ。出たいなら僕を倒す必要があるから。999……じゃなくて、998人殺しさん」

「ああ、兄さん……また挑発して」

「ただの事実なんだけど、たしかにそうなのかも。事実は時に、嘘よりも人を傷つけるって言うしね」

「もう……けど、これで勝ち目が見えてきたよ。ありがとう、兄さん」


 俺の言葉に反応したのか、わなわなと震えている暗殺者……さっき予想したことの続きだが、それを殺したと思った張本人から言われては、矜持がズタボロになってしまう。

 ちなみに、前回の反省を生かして職業も抑え込むことに成功している。
 残っているのはスキルだけだが、能力値が低すぎて使えなくなるモノも多い。

 スキルを上位のモノへ進化させていればいるほど、その感覚は増大する。
 ニィナは現在、だいたい下位のスキルしか持っていないので……有利に戦えるだろう。


「────」

「あれ、僕を先に狙うんだ。そりゃあ雑魚だし、仕方ないけど……可愛い妹から目を離すなんて、暗殺者失格だよ」

「────ッ!?」

「あなたの気配の隠し方は、もう覚えた。取らせてもらうよ──“雷鳴斬ライトニングスラッシュ”!」


 うちの妹がチートすぎる件について。
 俺に接近していた暗殺者の隙を見事掻い潜り、雷が迸る剣で暗殺者を切り裂く。

 その途中でどうにか気づき、暗殺者は首の皮一枚レベルの回避を行う。
 もしかしたら武技や魔法、装備の効果かもしれないが……発声は無かった。


「あっ、フードが取れた……ふーん、そういうことだったんだ」

「──ッ!?」

「兄さん、どうするの?」

「相手が誰でも、元の方針は変えないよ。これはニィナのレベルアップに繋がるし、暗殺術を学ぶ絶好の機会だよ──お姉さんにも、手伝ってもらうよ。あっ、せっかくだし撮っておこうっと……[スクリーンショット]」


 視界を切り取り、画像として溜めておくことができる祈念者の権能。
 本来、一方的な撮影は難しいのだが……相手がPKの場合は、無条件で撮影可能だ。

 暗殺者の正体は女の子。
 そんな創作物にありそうな展開だが、いずれにせよ俺では勝てない。

 投擲と格闘だけで勝てるほど、暗殺者プレイって簡単に攻略できないし。
 ニィナが勝てなかったら考えるが……魔導が発動した時点で、それは心配していない。

 ──むしろ、彼女が強くなるため糧となってもらおうか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...