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偽善者と試されし練度 二十二月目
偽善者と凡人体験 その08
しおりを挟む「それじゃあ、少し試してみようか」
研究所にはそのための部屋があるので、ついでにやってみることに。
被検体としてサンプルデータを取ってもらうので、それを有益に使ってもらいたい。
「──“身体強化”」
身体強化の基礎魔術を使おうとすると、腕に付けていた機材が作動した。
思念を読み取った機材は指定された魔術のプログラムを起動、魔力というエネルギーを得ることで完成する。
「うん、ちゃんと使えるね」
術式は正常に発動し、俺の身体能力が魔力によって高められた。
俊敏な動きでそれをアピールし、観ている者たちにそれを示す。
「じゃあ次──“遊歩ノ靴”」
橙色の世界でも使った、どこでも歩けるという魔術を今度は試してみた。
基礎魔術ではない眷属製の魔術だが……こちらも違和感なく、正常に起動する。
「あはははっ、どうだニィナ! 僕だって、やるときはやれるんだよ!」
「凄い、凄いよ兄さん!」
「そうだろう! ……僕自身の力じゃないけど、それでも力になるならなんでもいい!」
それを言ってしまえば、この世界のシステムそのものが俺の力ではないとか面倒臭い思考に陥りそうなので、ここは──魔術を使える俺Tueee! と認識しておこう。
「──っと、僕自身が使う場合と違って、制限時間が明確なのが難点かな? ともかく、これで戦えるようになった……これ、借りていくけどいいかな?」
「は、はい! 使用した魔術や魔力の情報が記録されますが、よろしいでしょうか?」
「うん、みんなが魔術を使えるようになってもらいたいからね。僕も協力するよ」
「ありがとうございます!」
機材を受け取り、研究所を出る。
その道中で、俺とニィナはこんな会話をしていた。
「兄さんは魔法が使える状態でも、魔術が使えていたんだよね? それなら、ぼくでも魔術が使えるのかな?」
「うん、できるよ。ただ、僕の場合は肉体の方から調整しているからね……ニィナにまでそういうことをしてほしくはないかな? 清い体、いつかのためにその方がいいよ」
「……兄さんは兄さんだね。けど、ぼくだって兄さんの力になりたいんだよ。だから、その方法だけでも教えてほしいな」
機人族が魔術を体内で行使できるのは、体が機械だからというのが主な理由だが……それ以外にも、ちゃんとした理由が存在する。
「魔術は魔法みたいに属性の加わっている魔力を使っちゃダメなんだ。だから、適性の無い人か純粋な魔力を抽出できる人にしか使えない……普段の僕やアンは後者、魔術用の機構を使うことで簡単に魔術が発動できるよ」
アンの擬人化した肉体は『神性機人』、魔法を使えない代わりに魔術が使える。
俺のチートスペックな[不明]ボディは、その機構を再現できるようになっているのだ。
ちなみに橙色の世界の人々は、『装華』が魔力を濾過することでそれを解決している。
ただし、そこで少々魔力を消費してしまうので、手動で濾過した方が性能が上がるぞ。
「要するとね、いっさいの澱みが無い魔力があれば魔術は使えるんだよ。無属性の適性しか無い人は、それが生まれつきあるから魔術が使える……そういうことなんだ」
「普段の兄さんは、その純粋な魔力を魔術にしているんだよね?」
「無意識に、だけどね。スキルを使えばできるんだけど、そうじゃないときに魔術を使うなら『装華』とかがまだ必要なんだ」
「そっか……なら、ぼくもすぐに使えるように頑張るよ」
ニィナに悪気はない。
彼女は俺のためになるならと、あらゆることをできるように努力しているだけだ。
しかしながら、せっかく見つけた自分にしか使えない戦闘法。
それすらも奪われた時、普通はどういう反応をするべきなのだろうか?
もちろん、俺はほっこりするだけだが。
自分だけにできるもの……というものが今の俺には無いが、それでもできることはあると信じているからな。
◆ □ ◆ □ ◆
始まりの町
必要なことは済ませたので、今度は冒険ギルドを訪れることに。
……今の身分を表す偽装カードは、リーン内で作成済みだ。
ギルドでやることと言えば、もちろんまだ見ぬ冒険である。
俺とニィナ、二人でパーティー登録をして何かいい依頼が無いか調べてみることに。
「兄さん、何かいい依頼はあった?」
「うーん……もう少し、ランクは高い方がよかったかな?」
「……あんまり、そういう危ないことは言わない方がいいと思うよ」
「おっと、気を付けないと」
見た目が子供な俺たちなので、最低ランクである『F-』のカードにしておいた。
こういうとき、からかわれるのがテンプレなのだが……それはありえない。
この町は祈念者が多くいるので、アバターが小さかったり子供だったりする場合が多くなるため、そこだけでからかえないのだ。
前にオブリが絡まれて、ティンスがお仕置きした……なんて話もあったっけ?
そういうわけで、ギルドでは絡まないのが暗黙の了解に──
「ガキ二人が……邪魔なんだよ!」
「痛ッ!」
「兄さん!」
張られた依頼を見ていると、イラつきが態度で分かるような男が俺の後ろに立ち──退かすために蹴ってきた。
ニィナはすぐに俺の下に駆け寄り、魔法を掛けてくれるが……ああ、嗚呼、なんだか嫌な予感がするよ。
「なんだ、お前ら兄妹か? 全然に似てねぇからイチャついてんのかと思ったぜ……なんだその顔、俺に文句でもあんのかよ!」
「…………」
そんなニィナの表情だが、感情というモノがすべて削ぎ落されていた。
無、そして中に溜め込まれたどす黒いナニカ……本気で怒ってくれているみたいだ。
──けど、死ななきゃいいけど。
もちろん、相手がな。
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