1,477 / 2,519
偽善者と試されし練度 二十二月目
偽善者と凡人体験 その08
しおりを挟む「それじゃあ、少し試してみようか」
研究所にはそのための部屋があるので、ついでにやってみることに。
被検体としてサンプルデータを取ってもらうので、それを有益に使ってもらいたい。
「──“身体強化”」
身体強化の基礎魔術を使おうとすると、腕に付けていた機材が作動した。
思念を読み取った機材は指定された魔術のプログラムを起動、魔力というエネルギーを得ることで完成する。
「うん、ちゃんと使えるね」
術式は正常に発動し、俺の身体能力が魔力によって高められた。
俊敏な動きでそれをアピールし、観ている者たちにそれを示す。
「じゃあ次──“遊歩ノ靴”」
橙色の世界でも使った、どこでも歩けるという魔術を今度は試してみた。
基礎魔術ではない眷属製の魔術だが……こちらも違和感なく、正常に起動する。
「あはははっ、どうだニィナ! 僕だって、やるときはやれるんだよ!」
「凄い、凄いよ兄さん!」
「そうだろう! ……僕自身の力じゃないけど、それでも力になるならなんでもいい!」
それを言ってしまえば、この世界のシステムそのものが俺の力ではないとか面倒臭い思考に陥りそうなので、ここは──魔術を使える俺Tueee! と認識しておこう。
「──っと、僕自身が使う場合と違って、制限時間が明確なのが難点かな? ともかく、これで戦えるようになった……これ、借りていくけどいいかな?」
「は、はい! 使用した魔術や魔力の情報が記録されますが、よろしいでしょうか?」
「うん、みんなが魔術を使えるようになってもらいたいからね。僕も協力するよ」
「ありがとうございます!」
機材を受け取り、研究所を出る。
その道中で、俺とニィナはこんな会話をしていた。
「兄さんは魔法が使える状態でも、魔術が使えていたんだよね? それなら、ぼくでも魔術が使えるのかな?」
「うん、できるよ。ただ、僕の場合は肉体の方から調整しているからね……ニィナにまでそういうことをしてほしくはないかな? 清い体、いつかのためにその方がいいよ」
「……兄さんは兄さんだね。けど、ぼくだって兄さんの力になりたいんだよ。だから、その方法だけでも教えてほしいな」
機人族が魔術を体内で行使できるのは、体が機械だからというのが主な理由だが……それ以外にも、ちゃんとした理由が存在する。
「魔術は魔法みたいに属性の加わっている魔力を使っちゃダメなんだ。だから、適性の無い人か純粋な魔力を抽出できる人にしか使えない……普段の僕やアンは後者、魔術用の機構を使うことで簡単に魔術が発動できるよ」
アンの擬人化した肉体は『神性機人』、魔法を使えない代わりに魔術が使える。
俺のチートスペックな[不明]ボディは、その機構を再現できるようになっているのだ。
ちなみに橙色の世界の人々は、『装華』が魔力を濾過することでそれを解決している。
ただし、そこで少々魔力を消費してしまうので、手動で濾過した方が性能が上がるぞ。
「要するとね、いっさいの澱みが無い魔力があれば魔術は使えるんだよ。無属性の適性しか無い人は、それが生まれつきあるから魔術が使える……そういうことなんだ」
「普段の兄さんは、その純粋な魔力を魔術にしているんだよね?」
「無意識に、だけどね。スキルを使えばできるんだけど、そうじゃないときに魔術を使うなら『装華』とかがまだ必要なんだ」
「そっか……なら、ぼくもすぐに使えるように頑張るよ」
ニィナに悪気はない。
彼女は俺のためになるならと、あらゆることをできるように努力しているだけだ。
しかしながら、せっかく見つけた自分にしか使えない戦闘法。
それすらも奪われた時、普通はどういう反応をするべきなのだろうか?
もちろん、俺はほっこりするだけだが。
自分だけにできるもの……というものが今の俺には無いが、それでもできることはあると信じているからな。
◆ □ ◆ □ ◆
始まりの町
必要なことは済ませたので、今度は冒険ギルドを訪れることに。
……今の身分を表す偽装カードは、リーン内で作成済みだ。
ギルドでやることと言えば、もちろんまだ見ぬ冒険である。
俺とニィナ、二人でパーティー登録をして何かいい依頼が無いか調べてみることに。
「兄さん、何かいい依頼はあった?」
「うーん……もう少し、ランクは高い方がよかったかな?」
「……あんまり、そういう危ないことは言わない方がいいと思うよ」
「おっと、気を付けないと」
見た目が子供な俺たちなので、最低ランクである『F-』のカードにしておいた。
こういうとき、からかわれるのがテンプレなのだが……それはありえない。
この町は祈念者が多くいるので、アバターが小さかったり子供だったりする場合が多くなるため、そこだけでからかえないのだ。
前にオブリが絡まれて、ティンスがお仕置きした……なんて話もあったっけ?
そういうわけで、ギルドでは絡まないのが暗黙の了解に──
「ガキ二人が……邪魔なんだよ!」
「痛ッ!」
「兄さん!」
張られた依頼を見ていると、イラつきが態度で分かるような男が俺の後ろに立ち──退かすために蹴ってきた。
ニィナはすぐに俺の下に駆け寄り、魔法を掛けてくれるが……ああ、嗚呼、なんだか嫌な予感がするよ。
「なんだ、お前ら兄妹か? 全然に似てねぇからイチャついてんのかと思ったぜ……なんだその顔、俺に文句でもあんのかよ!」
「…………」
そんなニィナの表情だが、感情というモノがすべて削ぎ落されていた。
無、そして中に溜め込まれたどす黒いナニカ……本気で怒ってくれているみたいだ。
──けど、死ななきゃいいけど。
もちろん、相手がな。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる