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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と凡人体験 その07

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 魔法に関しては諦めた方がいいだろう。
 属性魔法への才能が皆無なので、地道に無魔法だけ磨いていけばいい……普通は、そういう考えに至るかもしれない。

 しかし、今はそうした地道な修練よりも、異なるを求めてそちらを伸ばすべきだ。
 そして俺は幸いにも、それを知っている。


「……ニィナに協力してほしい。僕が──魔術を習得するために」

「兄さんの頼みなら! けど、僕は魔術を使えないよ? アン姉さんを呼んで、教えてもらうなら分かるけど……すぐに召喚魔法の練習をした方がいいかな?」

「覚えておいて、損は無いだろうけど……今の僕たちには、多くの手札よりも強力な一枚が必要だと思う。だから、魔術が必要になるわけだけど……今はそうじゃなくて、空間魔法で第一世界に飛んでもらいたいんだ」

「うん、それならすぐにできるよ。兄さん、ぼくの手を掴んで……そっちの方が、魔力の消費効率がいいもんね」


 なんだか別の意図がありそうだったが、そこに異論はなかったので大人しく掴む。
 子供の大きさになった俺よりも、小さな手がギュッと握り返してくる。

 ただそれだけのことなのに、心が温まっていくように思えた。
 人との触れ合い、それが足りていないのかなぁ……とかそんなことを思ってしまう。


「ど、どうかな……兄さん?」

「どう、と言われても……温かいな」

「むー、それだけ?」

「そ、そうだな……小さいな」


 むー! と頬を膨らませるニィナに、どう返していいか分からなくなる。
 ずっと握っていたいとか、そういうことを言えばいいんだろうか……?


「……ハァ。兄さんだもんね、みんな兄さんは兄さんだから頑張らないとって言っていっていたし。ぼくも頑張ろう」

「えっと、なんのこと?」

「なんでもないよ。うん、それじゃあ兄さん行くよ──“空間接続リンク”、“空間転位リロケート”!」


 ニィナが使った一つ目の魔法は、隠れている亜空と繋ぐことができる空間魔法だ。
 ただ、全部の隠しスポットが分かるわけではなく、今回は知っているからこそ使える。

 既知の亜空間──第一世界リーンへと、俺たちはその身を移すのであった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 第一世界 工場区 研究地帯


「──これはこれはメルス様! それに、妹君であるニィナ様も!」

「えっと、事情は……」

「ええ、ええ、分かっております! すでにアン様より! ささっ、魔術研究所へ参りましょうか!」


 迎えてくれた鬼人の青年が、白衣を翻して『魔術研究所』と命名された研究所へと俺たちを案内してくれる。

 どうやら観ていたアンが、予めアポを取ってくれていたようで話がサクサク進む。
 中に入ると誰もがこちらに声を掛け、何やら温かい目でこちらを見てくる。


「……ねぇ、ニィナ。いつまで握っていればいいのかな?」

「……もう少し。兄さんが嫌になったら、離すから」

「そっか。じゃあ、そのまま行こうか」

「うん」


 ニィナの機嫌は、先ほどよりも良くなっているので離す気にはならない。
 理由ができるまでは、ニィナの望むままに掴むことにしよう。


「ささっ、お二方。着きましたよ──ここが魔術開発室となります!」


 そうして歩くこと数分、案内されたそこにはいくつかの機材が用意されていた。
 橙色の世界から持ち帰った物や、アンと俺とで創り上げた魔術関連のアイテムだ。


「えっと、僕は魔術を使えるようになりたいけど……できるかな?」

「確認しますが、今のメルス様は無属性以外の魔法を扱ったことはない。そこに間違いはございませんね?」

「うん、適性が無かったからね」

「分かります。ここに居る者たちも、同じく属性魔法には適性がございませんでした。ですが、魔術はそんな我々に新たな希望を与えてくれました! そう、その喜びはメルス様と出会ったあの瞬間を──」


 なんだか目が逝ってしまった研究員。
 仕方ない、と思ってしまうのはそういうヤツがこの国にたくさんいるからだろうか。

 案内役は居なくなったが、やり方はちゃんと自分で分かっているので問題ない。
 他の研究員に許可を取って、とある機材を使わせてもらうことに。


「兄さん、それは?」

「橙色の世界の『装華』、そこから魔術を取り込む機能だけをどうにか解析して別の機械に組み込んだ物だよ。まだ人が直接使う術は見つけていないから、とりあえず外部から術式を取り込める形に落とし込んだんだ」

「凄い……祈念者プレイヤーは誰一人、魔術を使えていなかったのに。兄さんたちは、こうして魔術が使えるようになっている」

「僕たちの場合はアンが基礎魔術を使えていたし、橙色の世界でも出会いがあった……そういう運の問題であって、チャンスがあれば祈念者でもちゃんとできるんだよ」


 機人族は、進化が行える場所で魔術に関する情報が得られると[掲示板]に情報が載せられていたらしい。

 なので、ヒントはあるはずなのだ。
 それを生かして、一部の天才が技術を発展させていけば……いずれは条件を見つけ、魔術を会得することだろう。


「けど、どうやって使うの? それに、魔術は魔法と違って……その、高い魔力操作能力が必要になるんだよね?」

「大丈夫だよ、ニィナ。それをどうにかするために、眷属たちが頑張ってくれたから」


 うん、俺が頑張ったわけじゃない。
 だがいつか誰もが簡単に魔術が使えるようにと、開発だけは進められていたのだ。


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