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偽善者と試されし練度 二十二月目
偽善者と凡人体験 その06
しおりを挟むニィナは『野生犬』を倒すと、すぐに俺の下へ駆け寄ってきた。
元は俺を殺しに来た相手なのに……なんだか、ずいぶんと懐いてくれたよな。
「だ、大丈夫だった、兄さん?」
「う、うん……ありがとう、ニィナ」
「よかった、どこにも傷は無いね……」
「心配してくれて、ありがとう。僕は大丈夫だから……とりあえず、姿を隠そう」
外に出る前にちゃんと隠蔽スキルは獲得していたので、身を隠すことができる。
そのうえで、ニィナに何かしらの魔法を行使してもらおうと思ったのだが──
「兄さん、どの魔法を使う? 光魔法や闇魔法で身を隠す? それとも、空間魔法で町に戻った方がいいかな?」
「……えっ、もう使えるの?」
「えっ? う、うん……ぼくと兄さんだけなら、ちゃんと運べるよ」
空間魔法の才能もあるんだ、ニィナ。
まあ、成長速度に調整を入れただけで、器そのものには何も手を加えていないもんな。
一方の俺は、ようやく生活魔法と無魔法を会得したばかりだというのに……惨めとか通り越して、もう哀れなほどの格差だよ。
「魔力は大丈夫なの?」
「……ちょっと厳しいかもしれないけど、兄さんのためなら──」
「ダメ。ニィナが僕のためだって言うなら、僕もニィナのためにそれは止めてほしい。今は……太陽が昇っているし、光魔法で姿を隠していこう。それなら隠れやすいし、僕の魔力をそのまま使っていいからさ」
「わ、分かったよ──“隠光”」
ニィナが魔法を使うと、隠蔽スキルで認識されにくくなっていた体が、さらに光を纏い姿を薄れさせる。
空から注ぐリソースがあるので、ニィナの負担も空間魔法と比べれば圧倒的に楽になるはずだ。
「ありがとう……兄さん」
「僕はニィナの兄さんだもんね、頼ってばかりじゃいられないよ。もちろん、ニィナにしかできないことがあったら、心苦しいけど頼むことにするよ。けど、兄さんだからってすべてを押し付けるのはダメだからね」
「ぼくは……兄さんの言うことなら、なんでも訊いてもいいけど」
「本当に? ダメだよ、ニィナ。自分で考えて、自分で行動するんだ。そして、それが僕や家族のためになる、そういう結果を生めるようにしてほしい」
俺が指示を出すよりも、眷属たちが自律的に動く方がいい結果を生むからである。
仮に指示した場合も、眷属がカバーをするからこそ良い結果となっているわけだし。
初心者たちがニィナを捜索しているようだが、そんなの無視して俺たちは移動する。
その間、俺は武技の“息衝”で、ニィナは回復系のスキルで身力値を回復させておく。
「もう、空間魔法を使っても大丈夫なぐらい回復したよ」
「いちおう温存しておこう。実を言うと……ニィナの魔法を受けている間に、光魔法できるか試してみたいんだ」
「うん、そういうことなら。それなら、もっと他の属性魔法も試してみる?」
「一つずつの方がいいと思うし、魔法の場合は体の適性もあるから……一つずつ、できるかどうか試していこう」
究極的な話、魔法は属性魔法と無属性魔法の二種類に分類される。
魔力が使えれば適性がある無属性魔法とは異なり、属性魔法には才能が必要だ。
具体的には、ただの属性魔力の発露に消費魔力が一定数字以下なら習得できる……という可能性を持つ。
そりゃあ魔力のゴリ押しをして、当人にごく僅かでも目的の属性の魔力を変換する能力があれば、いずれ習得できるだろうが……才能が皆無だと、本当に難しくなる。
「じゃあ、やってみるよ。ニィナ、もしダメだったら、次に別の属性魔法も試したいから頼めるかな?」
「うん、任せて!」
なんてことをしながら、町へ戻る俺たち。
俺の体は祈念者としての肉体ではなく、別に用意された[不明]としてのモノと、現実世界の俺のデータが混ざったものだ。
そして、そのチートスペックな方を今は抑制しているので……俺がもし本当に異世界転移していた場合の、魔法適性が分かるな。
◆ □ ◆ □ ◆
「…………」
「……に、兄さん。げ、元気出してよ! ほら、ぼく実はお菓子を持ってきたんだ! 空間魔法も使えるようになったし、それを取りだして──ねっ、食べよう!」
「……そう、だね。うん、食べよっか」
この反応で分かるように、少なくとも実用レベルで使える属性魔法は皆無だった。
地味な属性に適性があるとか、レアな適性がある……ということもなく、皆無である。
ニィナが取りだしてくれたお菓子は、もちろん俺が作った眷属用の特別なモノだ。
今の俺では作れない、その事実がさらに自分を苛めるが……どうにか忘れる。
「たぶん、兄さんは特殊な固有スキルに適性があるんだと思うよ。祈念者の中にも居たんだけど、兄さんはそれを受ける前にぼくを倒しちゃったから知らなかっただろうけど」
「……そんなものが、あるの?」
「うん、【色彩付化】ってスキルだけど、何かに色を付けるとその色に合った効果を発揮するんだ。しかも、魔法や魔具に色を付けると元の効果と別にその色の効果も加えて」
「それは……面白そうだね!」
面白そうなスキルの効果、そしてそれに似たスキルを自分もいつかは得られるかもという可能性に再び立ち上がる。
アルカのように努力の果てに得られるかもしれないし、クラーレのように覚醒して得られるかもしれない。
……と思うだけなら自由だろう。
分かっているさ、そもそも珍しいからこその『固有』なんだからさ。
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