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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と凡人体験 その05

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「──“早投げクイックスロー”、“早投げ”……!」


 精気力をひたすら消費して武技を行使することで、『野犬ドッグ』たちを次々と倒していく。
 今はニィナが他の初心者たちとボスに挑んでいるため、仲間を呼ばれる心配はない。

 俺のようなモブにできるのは、メインの舞台に邪魔者が入らないようにすること。
 ……なお、ここには俺という存在も含まれているわけだ。


「“早投げ”、“早投げ”……!」

『ワンッ!』

「うぉっ──こ、このぉ!」


 ニィナがこれまでは守ってくれていたが、自分で戦わなければならないときがきた。
 少ない魔力を振り絞り、身体強化系のスキルを重ねて勢いよく野犬を殴りつける。

 物凄く生々しい感触を経て、堅い物まで届いた拳をそのまま振り抜く。
 ギャインッ! という甲高い声が遠くの方で聞こえた。


「……お、思いのほか威力が出たな。スポーツ選手が、別のスポーツに転属してもいい結果が出るようなものかな?」


 投擲のために鍛えられたスキルの補正が、殴るためにも使われていたからだ。
 一瞬で格闘術を得られるようなことはないが、それでもただの拳に補正は入る。


「まあ、あくまでギリギリの場合だけだし、多様はしないけど──“早投げ”……!」


 石はニィナに作ってもらっていたので、それなりに蓄えが有った。
 あと、お助けNPCに必要だと勘違いした奴らが時々くれたので無駄に溜まっている。


「──“早投げ”、“早投げ”……!」


 俺が石を投げている間、ニィナはボス相手に絶賛無双中だ。
 武器に魔法を纏わせたり、紙一重の回避で相手の攻撃を避けたりと……カッコイイ。

 そういう戦い方をする祈念者が居たのだろうが、それを視ただけで学び使えるようになる方が凄いだろう。

 パクリかどうかなんて、戦場において関係ない──最後に立っていた奴が本物で、負けた奴が偽者になるのだから。


「というか、ここまで差が出るのは……やっぱり、覚悟の差なのかな? 兄として、なんだか情けないな」


 スキルレベルの上げ方に、強く意識するという方法があると言った。
 つまり、集中して物事に挑めば成長しやすいということだ。

 俺とニィナのスキルへの適性がほぼ同じだとしたら、そういう意志を強さが関係しているのかもしれない。

 となれば、モブだと当たり前の認識をしている俺の意志を弱さが逆補正でも掛けている可能性が生まれる。


「まっ、兄らしく頑張りたいのは本当だからやるけど──“早投げ”、“早投げ”……」


 投げれば投げるほど、遠くへ強力なエネルギーを籠めることができてきた。
 おそらく、戦闘が終わったら疲労感に苛まれるだろうが……それでも投げ続ける。


「そんなことを気にするぐらいなら、少しでもニィナの役に立てるように頑張らないと。だって、僕は兄だからな……“早投げ”!」


 魔力付与、剛力、怪力、体幹、身体強化など……無数のスキルを重ね、石が破裂しそうなほど魔力を供給してから投げていった。

 一球一球に全力を籠める、これぐらいの気概が無ければダメだと気づいたからだ。
 その結果だろうか、スキルのレベルはぐんぐん上がるし新たなスキルも得ていく。


「……何も考えるな。すべてはニィナのためだと、それだけを意識するんだ。だからこそ僕は……もっと強くなれる」


 時々野犬が来るようになっていたのだが、どうやら最前線でトラブルが起きたようだ。

 ニィナ……というか初心者が足を引っ張ったせいで、再び雑魚たちが召喚される。
 しかも、その召喚場所はニィナたちよりも俺の方が近い。

 スキル(扇誘体質)の影響か、それらは数でも質でも劣る俺の方に迫ってくるわけだ。
 ニィナはそれに気づいたようだが……それよりも、俺の不敵な顔に気づいてくれた。


「──“鉄体テッタイ”!」


 意志の力かご都合主義か、格闘術スキルを得られた俺は手動で武技を行使する。
 全身に魔力を張り巡らせ、皮膚が頑丈になるイメージを強く行う。

 すると、野犬たちの牙や爪が俺を傷つけることはなくなり、逆に俺の攻撃はこれまで以上に野犬たちにダメージを与えていく。

 とはいえ、体内魔力操作だけしかまだ使えないので、体外から魔力を取り込む速度が遅く制限時間が設けられている。

 ニィナから“魔力線マジックライン”を通じて徴収することも可能だが……兄として、それはNOだ。
 となれば、そこは自前でなんとかするしかない──大きく息を吸い、武技を使う。


「──“息衝ソクショウ”」


 やっていることはシンプル、深呼吸して取り込む量を増やすということ。
 武技かといえば微妙だが、独特の呼吸法はたしかに魔力や気力の回復量を増大させる。


「──“籠纏オーラ”」


 そして、溜まったエネルギーを体に纏わせて再び拳を振るっていく。
 格闘術スキルの補正もあるので、当てようと思って殴ればだいたいは当たる。


「ふっ、はっ、はぁあああ!」


 いつもと違い、声で力を振り絞らなければ倒せないのが少々新鮮だったが、それでも自分の下に来た奴らは独りで処理できた。

 そして、戦闘中でもこちらの様子を窺ってくれていたニィナに向けてグッと親指を上にあげて安心させる。

 そうすれば、こちらに意識を回す必要が無くなったニィナはもう無敵……しばらくすれば、『野生犬ワイルドドッグ』は彼女たちによって生命力をゼロにされるのであった。


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