上 下
1,473 / 2,518
偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と凡人体験 その04

しおりを挟む


「……かひゅー、かひゅー」

「しっかりして──“回復ヒール”!」


 疲労困憊な俺に回復魔法を施しつつも、武術や魔法を用いて魔物へ迎撃を行うニィナ。
 新人特有の先走りで、野犬ドッグを殺してしまう奴らが多く……その処理に回っているのだ。

 途中からは忠告しているのだが、経験値が欲しいと気絶させた個体も殺してしまう。
 たしかに、召喚された雑魚を処理する経験値稼ぎは定番だが……分を弁えてほしい。


「ごほー……ありがとう、ニィナ。せめて、一つでも<大罪>か<美徳>の中にあるスキルが使えれば活躍できるのに。けど、それをするともう俺じゃないんだよ、『偽善者』が活躍することになる」

「に、兄さんの分まで、ぼくが頑張るよ!」


 現在、この状態で使用したらおそらくロクなことにならない。
 間違いなく『蝕化』するだろうし、戻るまでに相当な時間が掛かる。

 そういった事情を分かっているからかだろう、ニィナは突然自分に活を入れた。
 彼女はまったく悪くないのだが、俺を庇うことで発動を止めさせようとしているのだ。

 まあ、それはそれで逆効果だけど。
 ニィナはまだ知らないのだ、どれだけ努力しても成長できない愚者がいることを。

 眷属たちは優秀だし、『メルス』だって眷属たちを下してきた最強の存在。
 戦ったことがあるのも、他にはこの世界では力を手に入れた祈念者ぐらい。

 俺のように全然成長せず、かといって大器晩成でもない奴の扱いを知らないのだ。
 普通だったら、アレだ……闇墜ちとかして逆恨みとかしているパターンだよな。


「けど、頑張らないとな──“早投クイックスロー”」

「うん、頑張ろう兄さん──“竜巻サイクロン”!」


 風魔法が発動し、上空へ巻き上げられて吹き飛んでいく野犬たち。
 威力が調整されているため、墜ちたときのダメージでちょうど死にかけぐらいになる。

 だというのに、懲りない新人たちは平気でそれらを殺していく。
 どうやら俺たちのことを、レベリング用のお助けNPCとでも勘違いしているようだ。


「アイツらのお蔭で最初だってのにどんどんレベルが上がるよな」「ああ、このままならすぐに初期職をカンストできるぜ」「あの隣の奴、アイツを守っておけばずっとやってくれるんだぜ」「雑魚の御守りも仕事なのか」


 なんて会話を聞いたし。
 なぜかそういうことだけは、すぐにスキルとして得られるんだよな……うん、(聞耳)がすぐに手に入ったからな。

 幸いにも、ニィナにはバレてないよう……あっ──


「…………」

「ニ、ニィナ?」

「……風魔法を使っていたから、辺りの声も聞こえてきたんだけど……兄さん。ぼく、どうしたらいいんだろう?」

「ど、どうしたらって?」


 なぜだろう、この感覚。
 アルカとかと会話をしていると感じる、間違えたらヤバいことになる返答を、求められている時のあの感覚に似ている空気が……。


「兄さんのためなら、ぼくはなんでもできるよ……る?」

「ニィナ、僕はそんなこと望んでいない。今の僕は妹に守られる弱者、そう思われた方が好都合なんだ」

「け、けど!」

「僕の凄い……かどうか分からないところ、それをわざわざ見せる必要もないし、あの人たちも見たいなんて思っていない。だから気にしないで、目の前の敵にだけ集中していてほしい……兄からのお願いだよ」


 兄、と言うと、ニィナの怒気は少しだけ鎮まったように感じた。
 本心をそのままぶつけたので、その先を気にしていなかったが……成功したようだ。


「……分かった。だけど、あんなこと言わせたままじゃいけない気がする」

「そうは思わないけど、ニィナがそういうなら……だいぶ学習したし、そろそろボスを倒してみようか。できるか?」

「うん、任せてよ!」

「僕もできるだけ、サポートはしてみるからさ。兄さん、石を投げるのがだんだん楽しくなってきたし」


 腕を使うスキルを頻繁に使っていたから、そういうスキルもいくつか増えた。
 それに、身体強化スキルもようやく獲得できたので使用可能だ。


「じゃあ、行ってこい!」

「うん──“飛行フライ”!」


 魔法スキルを得て使える自動構築される魔法ではなく……補助はあるが、自分たちで構築しせねばならないオリジナルの魔法。

 今回ニィナが使ったのは、飛行スキルを風魔法で再現した改変型の魔法。
 風属性に特化した魔法職でも使えるらしいが、それよりも難易度が高い魔法の行使。

 それによって、ニィナは空を舞う。
 初心者はビックリだろうが、彼らの認識ではニィナは優秀なNPCなので普通に凄いというぐらいで終わっている。


「見ててね、兄さん──“業火爆撃フレアバースト”!」


 もうそこまで、というレベルの行使した。
 業火魔法に属するそれは、強烈な爆発を起こして辺りに被害をもたらす。

 それはボスである『野生犬ワイルドドッグ』も含まれており、爆発によってダメージを受ける。
 これまでの消極的なダメージではなく、相応のダメージを与える強力な一撃。

 祈念者たちは大興奮、可視化されたボスの生命力が一気に減っているからな。
 それを証明するように、一定値まで減少したことでなる発狂状態になったし。

 ……うん、凄いよニィナ。
 魔法をまだ一つも使えない俺と違って、ずいぶんと成長したよな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...