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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と凡人体験 その04

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「……かひゅー、かひゅー」

「しっかりして──“回復ヒール”!」


 疲労困憊な俺に回復魔法を施しつつも、武術や魔法を用いて魔物へ迎撃を行うニィナ。
 新人特有の先走りで、野犬ドッグを殺してしまう奴らが多く……その処理に回っているのだ。

 途中からは忠告しているのだが、経験値が欲しいと気絶させた個体も殺してしまう。
 たしかに、召喚された雑魚を処理する経験値稼ぎは定番だが……分を弁えてほしい。


「ごほー……ありがとう、ニィナ。せめて、一つでも<大罪>か<美徳>の中にあるスキルが使えれば活躍できるのに。けど、それをするともう俺じゃないんだよ、『偽善者』が活躍することになる」

「に、兄さんの分まで、ぼくが頑張るよ!」


 現在、この状態で使用したらおそらくロクなことにならない。
 間違いなく『蝕化』するだろうし、戻るまでに相当な時間が掛かる。

 そういった事情を分かっているからかだろう、ニィナは突然自分に活を入れた。
 彼女はまったく悪くないのだが、俺を庇うことで発動を止めさせようとしているのだ。

 まあ、それはそれで逆効果だけど。
 ニィナはまだ知らないのだ、どれだけ努力しても成長できない愚者がいることを。

 眷属たちは優秀だし、『メルス』だって眷属たちを下してきた最強の存在。
 戦ったことがあるのも、他にはこの世界では力を手に入れた祈念者ぐらい。

 俺のように全然成長せず、かといって大器晩成でもない奴の扱いを知らないのだ。
 普通だったら、アレだ……闇墜ちとかして逆恨みとかしているパターンだよな。


「けど、頑張らないとな──“早投クイックスロー”」

「うん、頑張ろう兄さん──“竜巻サイクロン”!」


 風魔法が発動し、上空へ巻き上げられて吹き飛んでいく野犬たち。
 威力が調整されているため、墜ちたときのダメージでちょうど死にかけぐらいになる。

 だというのに、懲りない新人たちは平気でそれらを殺していく。
 どうやら俺たちのことを、レベリング用のお助けNPCとでも勘違いしているようだ。


「アイツらのお蔭で最初だってのにどんどんレベルが上がるよな」「ああ、このままならすぐに初期職をカンストできるぜ」「あの隣の奴、アイツを守っておけばずっとやってくれるんだぜ」「雑魚の御守りも仕事なのか」


 なんて会話を聞いたし。
 なぜかそういうことだけは、すぐにスキルとして得られるんだよな……うん、(聞耳)がすぐに手に入ったからな。

 幸いにも、ニィナにはバレてないよう……あっ──


「…………」

「ニ、ニィナ?」

「……風魔法を使っていたから、辺りの声も聞こえてきたんだけど……兄さん。ぼく、どうしたらいいんだろう?」

「ど、どうしたらって?」


 なぜだろう、この感覚。
 アルカとかと会話をしていると感じる、間違えたらヤバいことになる返答を、求められている時のあの感覚に似ている空気が……。


「兄さんのためなら、ぼくはなんでもできるよ……る?」

「ニィナ、僕はそんなこと望んでいない。今の僕は妹に守られる弱者、そう思われた方が好都合なんだ」

「け、けど!」

「僕の凄い……かどうか分からないところ、それをわざわざ見せる必要もないし、あの人たちも見たいなんて思っていない。だから気にしないで、目の前の敵にだけ集中していてほしい……兄からのお願いだよ」


 兄、と言うと、ニィナの怒気は少しだけ鎮まったように感じた。
 本心をそのままぶつけたので、その先を気にしていなかったが……成功したようだ。


「……分かった。だけど、あんなこと言わせたままじゃいけない気がする」

「そうは思わないけど、ニィナがそういうなら……だいぶ学習したし、そろそろボスを倒してみようか。できるか?」

「うん、任せてよ!」

「僕もできるだけ、サポートはしてみるからさ。兄さん、石を投げるのがだんだん楽しくなってきたし」


 腕を使うスキルを頻繁に使っていたから、そういうスキルもいくつか増えた。
 それに、身体強化スキルもようやく獲得できたので使用可能だ。


「じゃあ、行ってこい!」

「うん──“飛行フライ”!」


 魔法スキルを得て使える自動構築される魔法ではなく……補助はあるが、自分たちで構築しせねばならないオリジナルの魔法。

 今回ニィナが使ったのは、飛行スキルを風魔法で再現した改変型の魔法。
 風属性に特化した魔法職でも使えるらしいが、それよりも難易度が高い魔法の行使。

 それによって、ニィナは空を舞う。
 初心者はビックリだろうが、彼らの認識ではニィナは優秀なNPCなので普通に凄いというぐらいで終わっている。


「見ててね、兄さん──“業火爆撃フレアバースト”!」


 もうそこまで、というレベルの行使した。
 業火魔法に属するそれは、強烈な爆発を起こして辺りに被害をもたらす。

 それはボスである『野生犬ワイルドドッグ』も含まれており、爆発によってダメージを受ける。
 これまでの消極的なダメージではなく、相応のダメージを与える強力な一撃。

 祈念者たちは大興奮、可視化されたボスの生命力が一気に減っているからな。
 それを証明するように、一定値まで減少したことでなる発狂状態になったし。

 ……うん、凄いよニィナ。
 魔法をまだ一つも使えない俺と違って、ずいぶんと成長したよな。


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