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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と凡人体験 その03

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 魔物に雑魚扱いされ、狙われていた俺は新たなスキルを手に入れていた。

 その名も──(扇誘体質)。
 なぜそうなったのか、さっぱりだし特殊スキルって目覚めるの高難易度なはずなのに、どうして今のなのか……疑問でいっぱいだ。


「もしかして、兄さんが祈念者としてじゃなくて普通に来てたら……大変なことになっていたんじゃないのかな?」

「えっと、うん。それはそうだね。わりと心当たりがある性質だったんだけど、こっちだとこういう形で発露するんだ」


 俺の(自称)才能の一つは、無意識で人を怒らせる発言をチョイスすることである。
 ただ、これはコミュニケーションの経験が足りないがために生まれた、悲しい才能。

 そしてもう一つ、集団で行うゲームとかであったのだが……やけに狙われるのだ。
 現実では雑魚でも、ゲームでは一定の強さが出せる……そういうときは狙われる。

 要するに──狙われる対象が複数いて、それらの条件がほぼ同じだった場合、優先的に狙われる場合が多かったわけ。

 AFOの場合、最初に一気にレベリングをしたため無縁だったが……再び雑魚と化した俺に、魔物たちは容赦なく牙を剥いたのだ。


「まあ、僕のことはいいんだよ。ニィナ、分かっていると思うけど、この後はもっと強い魔物が出てくる……戦える?」

「うん、大丈夫だよ。再生スキルとか、肉体の力を高めるスキルも手に入ったし」

「やっぱり凄いな、ニィナは。僕はどうにか魔力付与スキルをようやく取れたけど、それにばっかり集中していたから全然なのに」


 魔力付与とは、直接魔力を何かに籠めることで威力や硬度を高めるスキルだ。
 全然スキルが手に入らなくて、威力を出せないためどうにかできないかと工夫した結果習得できたスキルである。

 ニィナは大量にスキルを使い、気を練ったり詠唱を高速化できるようになっていた。
 改めて、才能の差を思い知っているが……そこはもう諦め、自分にできることをやる。


「──フィールドで一定の数の魔物を倒されると、ボスが出てくる。奥に行くためのボスは猪なんだけど……こっちだと、また別の魔物が出てくるんだ」

「あっ、反応が有ったよ兄さん。大きな反応が一つ、取り巻きが十体居るみたい」

「情報通りだね。あれは『野生犬ワイルドドッグ』──ここに出てくる『野犬ドッグ』の上位種で、咆えると好きなだけ野犬を呼びだす能力を持っている個体。だから、ただ雑魚を処理しているだけだと決して終わらない敵なんだって」

「さすが兄さん、覚えているんだね」


 ここまでとは思ってもいなかったが、役に立てないことは予想していたのでボスの情報は覚えていた。

 祈念者が[掲示板]を使って情報交換をするものだから、再配置に一定時間を要するボスも今日ならちょうどいいと分かったし。

 会話をしていると、遠くから犬の遠吠えが聞こえてくる。
 祈念者たちは武器を構え、これから襲いかかってくる魔物に備え始めた。

 ──なお、一定レベルの祈念者が居たり、全祈念者の合計レベルが一定以上に達すると出てこない仕掛けがあるらしい。

 なのでこの場には初心者ばかり、一年以上が過ぎてもAFOは、人気ゲームとして新人たちを世界に招き入れている。


「本当はパーティーとかを組んだ方がいいかもしれないけど、僕たちはあまり知られない方がいいからね。二人だけで、頑張るよ」

「分かったよ、兄さん──“魔力線マジックライン”」


 無魔法に属する魔法を使い、俺とニィナは一時的に体内の回路を接続した。
 経絡のようなものだが、共有すれば俺のほぼ使えない魔力をニィナが行使可能となる。

 俺はまだ無魔法も取れていないので、集めていた石ころを掴み魔力を籠めていく。
 投擲術もあれから獲得できたので、ニィナのサポートぐらいならできるだろう。


「──“土球ソイルボール”」


 文字通りの火力が高い火魔法ではなく、土魔法を選んだニィナ。
 魔法を上手く操れる者ならば、火魔法よりも土魔法の方が威力を出すことができる。

 魔法を、魔力を極限まで圧縮することで途轍もない堅さとなり……物理エネルギーにより対象を打ち砕く。

 そんな魔法をいくつも展開し、近づいてくるその瞬間を待つ。
 そして、射程距離に魔物たちが入ると──いっせいに解き放った。


「兄さん!」

「──“早投クイックスロー”!」

 
 剛筋という投擲に補正を掛けてくれるスキルも得ていたので、発動した武技はニィナの飛ばした魔法の球よりも速く野犬の一匹に命中し、そのまま気絶状態に追い込む。

 なお、ボスが仲間を呼ぶのは配下が一定数まで減ったときのみ。
 なので、気絶など戦闘不能にすることで、そのままの数で戦闘ができる。

 ……自分が弱いことを証明しているな。
 ニィナの魔法は普通に野犬を倒し、光と化しているわけだし。


「強すぎちゃった。兄さんみたいに、次こそは気絶だけに留めるよ!」

「……あー、それなら水魔法の方がいいかもしれない。威力で気絶させられるかは分からないけど、相手の顔で留めて気絶させられるかもしれないし」

「うん、やってみる──“水球ウォーターボール”!」


 意気揚々と水魔法を使うと、先ほどと同じ要領で魔法を飛ばす。
 そして的確な魔力操作能力で、野犬の前に水を配置し……そのまま気絶させていく。

 言っただけでこれ、やっぱりニィナは才能の塊みたいだ。
 一度は祈念者たちのすべてを学んだ彼女なので、いろんな戦い方を知っている。

 ただただチートスキルに振り回され、力に使われている俺とは違う……『成超』にして『覚成』、『ザ・グロウス』の本質はその尋常ではない学習能力にあるのだから。


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