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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と輪魂穢廻 その03

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 もともと何もなかった修練場。
 だが、現在そこには巨大な穴や石の破片が飛び散っている。

 他にあるのはただ二つ。
 俺と『輪魂穢廻』、互いに無傷の状態でそこに立っている。


「なあ、少し話そうぜ。ただ殺そうとするだけじゃ殺せない、それは今ので理解してくれたはずだ」

「…………」

「反応を示してくれて、直接攻撃をしてこないなら何をしても構わない。だから、とりあえず対話をしよう」


 グーの本体を嵌めた腕、とは逆の腕に嵌めた冠のような形をした純白の腕輪。
 それを軽く一撫でし、冷静な状態で一方的な会話を始める。


「俺はメルスだ。お前は……俺たちの認識では『輪魂穢廻』の本体という形なんだが、それで合っているか?」

「…………肯定」

「そうか。まあ、やったのは俺だから分かっていたんだけどさ。もしかしたら、みたいなこともあるからな。ああ、訊きたいことがあるならいつでも訊いてくれよ。これは対話だからな」


 小さく呟いた声、それを聞き取って返事を行っていく。
 たった四文字ではあったが、悪徳関係以外の単語を発してくれたな。


「じゃあ、俺から一つ質問。どうして俺を殺そうとするのか……だと、少し答えづらくなりそうだな。俺を絶対に殺さなければならないのか、でどうだ?」

「肯定」

「それはなぜ、理由があるのか?」

「否定」


 あれ? なぜ、このタイミングで否定が出てくるのだろうか。
 だがしかし、なんとなくではあるが経験から察してしまう……違うならいいけど。


「つまりお前は、俺を……というかあの道を通った奴をなんとなくで殺してたのか?」

「否定」

「……じゃあ、俺はなんとなく殺す」

「肯定」


 これまでは何かしらの強制力が有ったから実行していた、そういうことだな。
 しかし俺に限って、本人の意思で殺そうとしていると……なんとなくで、だが。


「殺す以外の選択肢はないのか?」

「絶無」

「じゃあ……勝負しないか? その結果で、俺を殺すかどうかを決めよう。それなら、あのときとか今みたいに抗わないからさ」

「…………要求、情報開示」


 腕輪のスキル(直観認識)や(直感認識)が導き出した話し方で、(法則演算)を行いながら交渉を始める。

 すると、視えていた未来通りの反応を示してくれた。
 なのですぐに(誓約正規)を用い、これから行うゲームを絶対のものにする。


「『俺とお前、お互いに場所を指定する』。『そこへ先に触れられた方が、敗北だぞ』。『ただし、触れる時は魔力を籠めない。相手が魔力を籠めていたら無効になる』……こんな感じでどうだ?」

「…………理解、了承」

「そっか、じゃあ『勝った方が負けた方に、一つ指示を出す。敗者はそれを実行する』。お前なら、俺を殺すからそのまま死ねと言えばいいわけだ」

「…………即行」


 早く始めたい、それは言葉だけでなく体でも示していた。
 瘴気がどんどん湧きだしており、わらわらとこちらへ近づいている。


「まあ、そう焦るなって……今から魔法を一発放つから、それが合図だ。先にどこが触る場所なのか決めよう──俺は足の裏だ」

「……左目」

「了解、じゃあ始めるぞ──“花火スターマイン”」


 互いに難易度が高い場所を伝え、俺は空に魔法を打ち上げ──炸裂させた。
 その瞬間、いっせいに生みだされていた複製体(?)たちは俺に向かってくる。

 さながらロリータハーレム、とか思う暇はないんだからな。
 うん、決して油断して体が動かなくなっているとかそういうこともないんだぞ。


「いきなり王手はダメだぞ──ニー!」


 能力ではない、それはとある名前。
 名前を与えられた存在──『不退の天靴』は伸びた手に対し、激しい抵抗を示した。

 そう、唯一完全に覆われた体の部位。
 そこを指定すれば、こうなるだろうと理解しての選択だった。


「ありがとうな……起きたか?」

《──いえ、すでに。やはり、求められ答えることこそが私たちの存在意義であり定義。故に、ずっと待ち続けていました》


 開花した新たな武具っ娘。
 どうやら俺が必要とすれば、いつでも起きてくれるようになったみたいだ。

 まあ、創造してからだいぶ時間が経っているし……このままだと根腐れするとか言われても仕方ないんだよな。


「そりゃあ悪いことを……って、言っている暇もないのか。じゃあ、もう一人も起きてもらおうか──チー」

《了解しましたわ、わが君》


 ニーとも、知っている眷属とも違う、しかしながら安心できる声が脳裏に響く。
 続いて浮かんだイメージに従い、すぐさま桜色の大弓を取りだすと名を叫ぶ。


「──“迎撃反矢”」

《わたくしがサポートを行います。わが君はただ、天に弓を引いてください!》

「ずいぶんとカッコいい演出だな!」

《ええ、当然です。わたくしはわが君より生まれし者なのですから》


 魔力の矢が生成され、俺が弓を引くのと同時に自動装填されて飛んでいく。
 その間、数が増殖……速度も加速し、それぞれが複製体たちと衝突する。

 どうやらこのスキル、自分に向けられた攻撃とまったく同じ威力で矢がぶつかって相殺していくというものらしい。

 魔力が続く限りチーがサポートするため、遠距離攻撃をことごとく潰していく。
 遠距離から接近する、というのもその中に含めてしまっているのが素晴らしい点だ。

 つまり、『輪魂穢廻』は直接俺を叩かなければならないわけだ。
 協力してくれている眷属がいるのだ、絶対に負けるわけにはいかないのさ。


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