1,467 / 2,519
偽善者と試されし練度 二十二月目
偽善者と輪魂穢廻 その03
しおりを挟むもともと何もなかった修練場。
だが、現在そこには巨大な穴や石の破片が飛び散っている。
他にあるのはただ二つ。
俺と『輪魂穢廻』、互いに無傷の状態でそこに立っている。
「なあ、少し話そうぜ。ただ殺そうとするだけじゃ殺せない、それは今ので理解してくれたはずだ」
「…………」
「反応を示してくれて、直接攻撃をしてこないなら何をしても構わない。だから、とりあえず対話をしよう」
グーの本体を嵌めた腕、とは逆の腕に嵌めた冠のような形をした純白の腕輪。
それを軽く一撫でし、冷静な状態で一方的な会話を始める。
「俺はメルスだ。お前は……俺たちの認識では『輪魂穢廻』の本体という形なんだが、それで合っているか?」
「…………肯定」
「そうか。まあ、やったのは俺だから分かっていたんだけどさ。もしかしたら、みたいなこともあるからな。ああ、訊きたいことがあるならいつでも訊いてくれよ。これは対話だからな」
小さく呟いた声、それを聞き取って返事を行っていく。
たった四文字ではあったが、悪徳関係以外の単語を発してくれたな。
「じゃあ、俺から一つ質問。どうして俺を殺そうとするのか……だと、少し答えづらくなりそうだな。俺を絶対に殺さなければならないのか、でどうだ?」
「肯定」
「それはなぜ、理由があるのか?」
「否定」
あれ? なぜ、このタイミングで否定が出てくるのだろうか。
だがしかし、なんとなくではあるが経験から察してしまう……違うならいいけど。
「つまりお前は、俺を……というかあの道を通った奴をなんとなくで殺してたのか?」
「否定」
「……じゃあ、俺はなんとなく殺す」
「肯定」
これまでは何かしらの強制力が有ったから実行していた、そういうことだな。
しかし俺に限って、本人の意思で殺そうとしていると……なんとなくで、だが。
「殺す以外の選択肢はないのか?」
「絶無」
「じゃあ……勝負しないか? その結果で、俺を殺すかどうかを決めよう。それなら、あのときとか今みたいに抗わないからさ」
「…………要求、情報開示」
腕輪のスキル(直観認識)や(直感認識)が導き出した話し方で、(法則演算)を行いながら交渉を始める。
すると、視えていた未来通りの反応を示してくれた。
なのですぐに(誓約正規)を用い、これから行うゲームを絶対のものにする。
「『俺とお前、お互いに場所を指定する』。『そこへ先に触れられた方が、敗北だぞ』。『ただし、触れる時は魔力を籠めない。相手が魔力を籠めていたら無効になる』……こんな感じでどうだ?」
「…………理解、了承」
「そっか、じゃあ『勝った方が負けた方に、一つ指示を出す。敗者はそれを実行する』。お前なら、俺を殺すからそのまま死ねと言えばいいわけだ」
「…………即行」
早く始めたい、それは言葉だけでなく体でも示していた。
瘴気がどんどん湧きだしており、わらわらとこちらへ近づいている。
「まあ、そう焦るなって……今から魔法を一発放つから、それが合図だ。先にどこが触る場所なのか決めよう──俺は足の裏だ」
「……左目」
「了解、じゃあ始めるぞ──“花火”」
互いに難易度が高い場所を伝え、俺は空に魔法を打ち上げ──炸裂させた。
その瞬間、いっせいに生みだされていた複製体(?)たちは俺に向かってくる。
さながらロリータハーレム、とか思う暇はないんだからな。
うん、決して油断して体が動かなくなっているとかそういうこともないんだぞ。
「いきなり王手はダメだぞ──ニー!」
能力ではない、それはとある名前。
名前を与えられた存在──『不退の天靴』は伸びた手に対し、激しい抵抗を示した。
そう、唯一完全に覆われた体の部位。
そこを指定すれば、こうなるだろうと理解しての選択だった。
「ありがとうな……起きたか?」
《──いえ、すでに。やはり、求められ答えることこそが私たちの存在意義であり定義。故に、ずっと待ち続けていました》
開花した新たな武具っ娘。
どうやら俺が必要とすれば、いつでも起きてくれるようになったみたいだ。
まあ、創造してからだいぶ時間が経っているし……このままだと根腐れするとか言われても仕方ないんだよな。
「そりゃあ悪いことを……って、言っている暇もないのか。じゃあ、もう一人も起きてもらおうか──チー」
《了解しましたわ、わが君》
ニーとも、知っている眷属とも違う、しかしながら安心できる声が脳裏に響く。
続いて浮かんだイメージに従い、すぐさま桜色の大弓を取りだすと名を叫ぶ。
「──“迎撃反矢”」
《わたくしがサポートを行います。わが君はただ、天に弓を引いてください!》
「ずいぶんとカッコいい演出だな!」
《ええ、当然です。わたくしはわが君より生まれし者なのですから》
魔力の矢が生成され、俺が弓を引くのと同時に自動装填されて飛んでいく。
その間、数が増殖……速度も加速し、それぞれが複製体たちと衝突する。
どうやらこのスキル、自分に向けられた攻撃とまったく同じ威力で矢がぶつかって相殺していくというものらしい。
魔力が続く限りチーがサポートするため、遠距離攻撃をことごとく潰していく。
遠距離から接近する、というのもその中に含めてしまっているのが素晴らしい点だ。
つまり、『輪魂穢廻』は直接俺を叩かなければならないわけだ。
協力してくれている眷属がいるのだ、絶対に負けるわけにはいかないのさ。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる