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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と輪魂穢廻 その02

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「──“乱射撃ちシューティングショット”」


 双銃は魔構銃──魔力技術の銃──に属するので、魔力があれば無限に弾丸を生成することができる。

 そこに大量の銃弾をバラ撒く武技を発動させれば、燃費は悪いが広範囲に攻撃を行えるわけだ……もちろん、そうせざるを得ない理由が目の前に広がっているからだが。


「くそっ、瘴気の量が半端ない!」


 内部でコトコト煮詰められていたからだろうか、瘴気の質も量も上がっているのだ。
 当初は薄暗いぐらい程度だった瘴気も、今では取りだしたはずの人形を隠すほどに。

 最初の方は誰を使おうか……とか考える余裕もあったが、今は全力全開で戦っていた。
 どうにか人形を視認するため、いつの間にかできていた黒い繭を破るために尽力する。


「──“無尽射撃”、“炸裂矢バーストアロー”」


 双銃を腰に下げ、今度は背負っていた桜色の大弓を使って瘴気への対応を行う。
 一つ目の装備スキルによって矢の数が増大され、二つ目の武技でそれらが爆発する。

 至る所で爆発が起きるが、それでも瘴気の量はちっとも減らない。
 なぜこうなったのだろう、そう考えても答えは出ない……考えていないから。


「無駄なことを考えている暇なんて全然無いからな──“無限射程”、“貫通射ポイントショット”」


 やや距離を取って、真っ直ぐに放った矢。
 目的の位置へ辿り着くことを阻止しようと瘴気が阻んできたものの、物理的干渉以外で射程が落ちないため速度が低下する程度。

 そのまま目的の場所──『輪魂穢廻』を詰めた『機巧乙女』の下へ矢を届ける。
 繭も大弓で放てばすぐに崩壊、貫通した場所から罅が入り少しずつ光が差し込む。


「開け──“必発必中”、“嵐獄廻矢ストームアロー”」


 隙間を視認したことで発動可能となったスキル、そして内部からめちゃくちゃにしてくれるであろう武技をセットで射る。

 ただし、描く線は真っ直ぐではなく上からの曲線で。
 認識できなくなるぐらい遠くへ放ち、スキルの効果でピンポイントに隙間へ落とす。

 すると、先ほど説明した通り嵐が吹き荒れ繭を内側から破壊していく。
 最終的には竜巻が視認できる形で発生、そのまま繭の残骸を上空に飛ばして消える。

 残ったのはその中身、人形の中に封じられていた『輪魂穢廻』だけ。
 黒髪黒目、褐色の肌など……だいぶ黒々しい少女の姿になってはいるが。


「…………」

「よお、会いたかったよ。どうだ、新しい自分に目覚めた気分は?」

「……『怨』」

「! まだ、同じのができるのかよ!」


 かつて、『穢れ』と呼ばれる個体が妖怪と人族の世界を行き来する通路で暴れていた。
 それを生みだしていたのが『輪魂穢廻』であり、その理そのものだ。

 ただ、今回は前回のものと違って妖怪を模るのではなく人形と同じ姿をしている。
 違うのは目の所に目隠しがされており、一文字『怨』と書かれている点のみ。

 封印したので、もう魂はどこかへ逝ったと思ったのだが……少し違うようだ。
 あることが気になり神眼で調べて視れば、それが正しかったことを知る。


「魂魄が入ってない? あくまで、擬似生命体を創造しているのか。それでも充分、厄介な能力だな」

『──怨!』

「チッ、面倒な──“命喰弾丸”」

『おッ──』


 生命力を奪うことで、どうやら創りだされた穢れは消えるようだ。
 ならば、と本腰を入れて対処をしようと考えたそのとき……ヤツは動いた。


「──壊崩嘆嗟業偽滅虚亡憂悪悲怒呪殺邪消鬱傲妬撲……」

「ちょ、ちょっと不味いかな……」

「破絶悶罪……死、シ、シ──死ンデ」

「ッ──“退転締脚”、“不折不倒”!」


 大量に生みだされた穢れたち。
 それらは己に刻まれた使命を受けて、俺にありったけの想いぜつぼうを伝えてくる。

 灰色の雨靴……いや、天靴に力を注ぎ、通過するのをひたすら耐え抜く。
 捌ききれる量では無かったこと、知りたいことがあったからやったことだ。


「……俺じゃなかったら、死ぬ以上に苦しいことになってたんだろうな」

「──死ンデ死ンデ死ンデ……死ネ」

「けど、俺には効かない──“無限拡張”」


 腰に提げていたラッパを持ち、魔力を籠めればその大きさはどこまでも変化する。
 迫り来る穢れたち、だが俺はただ深く息を吸い──告げた。


「──“最終審判”」


 吹き荒れるその音色が、終わりを招く。
 世界を侵蝕するように空間が罅割れ、そこから終焉の使徒が降り注ぐ。

 今回の使徒は生物では無かった。
 過去に魔導や魔法として使いまくったせいか、抽選の中から選ばれたようだ。

 ならば、告げよう──はめつの名は。


「──『天体衝突』」


 観戦していた眷属たちは、危険を察知して即座にこの場から撤退。
 扉を閉じることで、ここは外界から完全に閉ざされた密室と化す。

 空から降りてくるのは、一つの石だ。
 だがその規模が石と称するモノではなく、星と呼ぶに値するデカさである。

 ちなみにこれ、召喚するまでが効果であり隕石そのものは普通に俺へと影響を及ぼす。
 いわゆる『友軍誤射フレンドリーファイアー』状態なので避ける必要があった。


「──“不動金剛”、“永続守護”」


 しかし、俺は動かない。
 少しでも目を離せば、『輪魂穢廻』が何をするか分からない……耐える必要があった。

 バカみたいではあるが、耐えられるだけの自信はある。
 今の俺には武具っ娘たちが付いている、つまりは最強で無敵なわけなんだしな。

 ──そして、隕石が地表へ降り立った。


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