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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と自己紹介 その40

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 夢現空間 居間


 クラーレが新たな眷属となったが、特に関係性に変化は起きないだろう。
 あの頃と違い、今の眷属はそこまで便利な恩恵にあやかれてはいない。

 スキルをレンタルできるのは便利だが……初期とは違い、すでに祈念者自身で相応のスキルを入手できるぐらいには成長している。

 気になるスキルをお試しでレンタルしてみる、ぐらいの使い方しかないのだ。
 すでにシガンには話を通してあるので、暴走しそうになれば止めてもらえるだろうし。


「──というわけで、今回は見ていただけです。特に危ないことはしていませんよ」

「そうなんだ……」

「どうかしましたか?」

「ううん、なんでもない。ただ、その人はメル君のことを大切にしているんだなって」


 恒例になっている、インタビューを始める前にあった出来事を説明するこの時間。
 取材相手用に変身した子供の姿で、クラーレとの一悶着を話していた。

 すると、そんな答えが返ってきたのだ。
 大切……かどうかは分からないが、彼女なりに俺のことを考えてくれた発言だったな。


「ボクにはよく分かりません。ただ、彼女も言語化できないみたいでしたので、そこは他の眷属にお任せしようと思っています。できないことは任せる、それは覚えました」

「それがいいと思うよ。ワタシもメル君に頼む前に、リラちゃんとかに訊くもん」


 ある意味同じ境遇にある二人で、仲良く慣れているようで何より。
 最近はもう一人増えているので、さらなる友情が深まっているだろう。

 しかしまあ、気にするべきは残念ながらそこではない。
 突きつけられた俺の問題、そして時々教わる眷属からのありがたいお言葉。

 それらが意味すること、それは俺自身が根本的には何一つ変われていないこと。
 独自に独断で、独善的に振る舞う……孤立する存在でしかない。


「……やっぱり、誰かに頼ることが大切ですか。反省もしているんですけど、どうしようもない状態に陥ると自分だけの力でどうにかできないか考えてしまいます」

「それは……うん、ワタシもかも。メル君の世界のワタシはどうか知らないけど、ワタシは昔から、できるだけ自分でどうにかできないかって考えていたもん」

「ボクの世界だと、姫様の性格などが記された文献はありませんので……って、どうかしましたか?」

「……名前、呼んでくれなかった」


 前にそういう約束をしたからな。
 だが、今回はちゃんと事情がある。


「それは、今からインタビューをするからですよ。このままの姿、それか元に戻った姿。どちらでそれを受けますか?」

「うーん……メル君にお任せかな?」

「では、このままで。ボクを『メル君』と呼び続けてくれているのですから、そのままにした方がよろしいと判断しました」

「もう、メル君の『いぢわる』!」


 それ、本当に流行っているよな。
 流行語大賞が狙えそうだな……とか思いつつ、咳払いをしてから声を張り上げる。


「──じゃあ、さっそく始めましょう! 記念すべき第四十回質問タイムです! 今回のゲストはこの御方……精霊たちのプリンセスにして、ボクが仕える主シャルちゃん!」

「よ、よよ、よろしくお願いしみゃす!」

「はい、いっしょに頑張りましょう。途中、変な質問もありますが、皆さんの自己紹介映像と訊くことは変わりませんので」


 ずっと前に読んだ何かのサイトを基に、用意した質問集だからなー。
 今さら変えようにも、微修正ぐらいしかできない……いろいろと嬉しい問いもあるし。

 けどまあ、質問はちゃんと落ち着いてからにしよう。
 いきなり名前を出したうえ、肩書まで付けたからか、真っ赤な少女の姿にそう思った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「問01:あなたの名前は?」

「シャルル・デ・メラ。家名があるのは、昔はそういう生業があったからだって」


「問02:性別、出身地、生年月日は?」

「女性で、ロットカップ、──年の1月12日だよ(諸事情によって修正が掛かっていることをご了承ください)」


「問03:自分の身体特徴を描写してください」

「身体? っていうより、赤ずきんを被っていることかな? これ以上の特徴って、無い気がするな……」


「問04:あなたの職業は?」

「【精霊妖姫】。よく分からないけど、メル君と出会った後はこの職業になってたよ」

(たぶん、覚醒したから職業にも変化が生じたんだろうな。ついでに、<赤ずきん>なんてスキルまで発現してたし)


「問05:自分の性格をできるだけ客観的に描写してください」

「できるだけ、自分でできることは自分でやる……かな? さっきメル君に言ったけど」

「これを観ている方は、知りませんよ」


「問06:あなたの趣味、特技は?」

「うーん、最近は精霊の子たちと話すのが好きかな? いろんなところにいるから、お話しするのは楽しいよ」

「……お友達、減りませんか?」

「そんなことないよ。メル君たちがいろいろやってくれたもんね」

[※精霊を可視化できる場所を造ったりしていますが……それはいずれ]


「問07:座右の銘は?」

「知らない人にはついていかない、だよ」

「……物凄く、実感がありますね」


「問08:自分の長所・短所は?」

「人を信じすぎること、だよね。だからメル君のことも信じたし、ヴァーリさんのことも信じたわけだし……あのときは、おばあさんの姿だったみたいだけど」

「……あとにしましょうか」


「問09:好き・嫌いなもの/ことは?」

「好きなものは甘い物、嫌いなものは……神様かな?」

「ボク、いちおう現人神かみさまですよ」

「うーん……メル君って、全然神様っぽくないよね? あっ、いい意味で!」

「いい意味って付ければ、なんでもプラスになるわけじゃありませんからね」


「問10:ストレスの解消法は?」

「今は感じないんだけどね。たぶんだけど、精霊さんたちと話しているからだと思う」


「問11:尊敬している人は?」

「ユラルさん! 精霊の子たちも崇めているし、凄い人……聖霊様なんだね」

「そうなると、ナース様も凄いということになっちゃいますよ」

「えっと、みんな可愛がっているよ?」


「問12:何かこだわりがあるもの/ことがあるならどうぞ」

「精霊さんたちへの頼みかたかな? 何でも叶えてくれそうだから、だからこそちゃんと考えて話すようにしているよ」


「問13:この世で一番大切なものは?」

「家族だよ。もともとのみんなも、メル君たちも……誰も殺させたくないよ」


「問14:あなたの信念は?」

「ちゃんと考えて行動すること。もう、同じ過ちは嫌だもんね」


「問15:癖があったら教えてください」

「癖かぁ……新しい場所に行くと、いつも精霊さんたちが居るか見るようになったこと、かな?」


「問16:ボケですか? ツッコミですか?」

「ツッコミ……だよね?」

「……さぁ、どうでしょう」


「問17:一番嬉しかったことは?」

「メル君が助けてくれたことかな?」


「問18:一番困ったことは?」

「そんなメル君が、今のワタシにいろんなことを教えてたこと……本当、いろいろね」

「えっと、ごめんなさい?」


「問19:お酒、飲めますか? また、もし好きなお酒の銘柄があればそれもどうぞ」

「飲めないよ。まだ、十二歳だもんね」

「ボクの世界だと二十歳になってからなんだけど、こっちは解禁は十五歳。あんまりお勧めはしないけど、あと三年だね」


「問20:自分を動物に例えると?」

「動物より、精霊さんがいいかな?」

「じゃあ、それでいきましょう」

「なら……水の精霊さんだよ。風の精霊さんみたいに自由ではないけど、一つの場所でならいろんなことをしているから」


「問21:あだ名、もしくは『陰で自分はこう呼ばれてるらしい』というのがあればどうぞ」

「姫様……そう呼ぶよね」

「い、今は呼びませんよ」

「むー、さっき呼んでたじゃん」

「ごめんなさい……シャルちゃん」


「問22:自分の中で反省しなければならない行動があればどうぞ」

「最初にヴァーリさんと会ったとき、いろいろと話しちゃったことだよ。もし言わなかったら、おばあさんまで巻き込まれることは無かったかもしれないし」


「問23:あなたの野望、もしくは夢について一言」

「精霊さんたちと、みんなが仲良くできる世界にしたいな。悪用されるとか、そういう話が入ってこないように」


「問24:自分の人生、どう思いますか?」

「……何度も何度も死んで、やっと生きられたのが今なんだよね。だからこそ、それまでのワタシの分まで楽しんでいかなきゃいけないと思っているよ」


「問25:戻ってやり直したい過去があればどうぞ」

「さっき言った、ヴァーイさんとの出会いの部分かな? あとは、メル君との出会い」

「そちらもですか?」

「うん、言ってやるんだ──その演技、止めてよねって」

「あははは……できても止めてくださいね」


「問26:あと一週間で世界が無くなるとしたらどうしますか?」

「世界っていっぱいあるよね?」

「……えっと、一つの場合でお願いします。それかすべてが同時に無くなるという仮定で考えてください」

「たぶん、メル君といっしょに居たいと思うけど……あっ、そ、そういうわけじゃないんだからね!」

「……どういうわけでしょうか?」


「問27:何か悩み事はありますか?」

「……年齢」

「えっと、もう一度お願いします」

「ね・ん・れ・い! 早く大きくなりたいです……あの、もしかしてメル君ならどうにかできるんじゃ──」

「ゆっくり、大きくなりましょうね」


「問28:死にたいと思ったことはありますか?」

「メル君が記憶を思いださせたとき、ちょっとね……なんだか、大人びたって言われるようになっちゃったし」


「問29:生まれ変わるなら何に(どんな人に)なりたい?」

「今度は普通に……ああでも、それだとメル君……メル君たち! に会えなくなるね!」

「いえ、ボクは誰かを助けたいなと思ったら現れますよ。だからシャルちゃんは、助けてほしいなという顔ができるように転生してくれればきっと会えますよ」

「できるような顔って……どんな顔?」

「とりあえず、人に近い顔でお願いします」


「問30:理想の死に方があればどうぞ」

「少なくとも、あのときに視た死に方以外がいいかな?」


「問31:何でもいいし誰にでもいいので、何か言いたいことがあればどうぞ」

「じゃあ……メル君に。ワタシって、まだ子供だよね。だから、時間が掛かる。でも、変わらないから」

「…………」


「問32:最後に何か一言」

「だから、メル君も待ってて。……もう、メル君は届いているみたいだからね」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はい、カットです! ……変身魔法、使いますか?」

「ううん、イイの。それにね、大切なのは年齢じゃないのは分かっているし」

「そ、そうですよ。大切なのは──」

「体、だもんね♪」


 ──とりあえず、これを教えた奴は間違いなく地獄逝き確定だろう。
 でも、たぶん俺なんだよな……いや、正しくは俺が与えた平行世界の知識だろうが。

 今の彼女を、人は『ませている』と称するかもしれないが……それだけの人生経験を積ませてしまった張本人からすれば、笑うに笑えないな。

 俺の功罪は、まだまだ続くらしい。


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