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偽善者と試されし練度 二十二月目
偽善者と決闘祭 その10
しおりを挟むSIDE:クラーレ
魔力と気力で包み、硬度を増した棒を握り締めて勢いよく振るいました。
同時にこちらへ迫ってきた刃と噛み合い、現実ではありえない風圧や火花が散ります。
自身に回復魔法を施し、限界以上の身体強化で押し切ろうとしますが……相手は──ユウさんはビクともしません。
「いくら能力値を抑えてあるといっても、さすがにそれは無理だよ。僕だって魔法剣士をやっているから……これぐらいのことは、できるからね!」
「くっ、うぅ……」
決勝戦が始まり、告げられたのは能力値の制限──その状態で優勝することが、メルから与えられた条件だったそうです。
しかし、それでもユウさんが強いことに変わりありません。
かつての闘技大会において、彼女はメルに次いで準優勝の成績を誇ったのですから。
身体強化を半ば暴走させて強めているわたしに対し、ユウさんは通常の身体強化のみで均衡状態を保ちます。
スキルや魔法に『使われる』のではなく、正しく『使っている』方にありがちだという精密な制御が行われているからです。
「て、てぇやぁあああ!」
「クラーレちゃん、もう戦闘職のソレだよ。師匠に毒されすぎじゃない?」
「い、今は関係ありません!」
感情が高ぶったお蔭か、どうにかユウさんの膂力を上回ることに成功しました。
序盤で終わらせるつもりはなかったのか、彼女もスッと後方へ引き下がります。
……シガンもユウさんも、どうしてメルのことでわたしを挑発するのでしょう?
そ、そんなことを言われても、わたしの鉄壁の精神は揺るぎません!
「ふーん、僕は結構あると思うんだけど……まずはこれを耐えてみて──“日照”」
「眩ッ──“光量調整”!」
「準決勝でも使ってた魔法だよね? そういう使い方もあるんだ」
光の量を調整する、それは自身の光魔法だけでなく周囲の光にも影響を及ぼします。
今回の場合、突如生みだされた激しい光を耐えられるレベルまで落とし込みました。
「これが僕の陽光魔法。今のところ、祈念者の使い手は僕と師匠だけだね……まあ、師匠の方は全然使ってくれないけど」
「…………」
「あんまり気にしなくていいんだけどね。師匠は『模倣者』なんて呼ばれる人だから、僕以外の固有スキルも持っているし。たしか、シガンちゃんのスキルも持っているんでしょう? クラーレちゃんのもね」
「ですが、わたしのスキルはわたしも使えません。だからこそ、わたしはユウさんに勝たなければなりません──“光折鏡”!」
ユウさんの固有スキルは、本人の口からすでに聞いていました。
光系統魔法に属し、太陽の力を体現したという陽光魔法。
そしてもう一つ──ユウさんの固有職業である【断罪者】。
こちらは罪人に絶大なダメージを与えるそうですが……当時、わたしにはダメージが与えられないと言っていました。
「注意するのは陽光魔法! この魔法には、光を反射する性質がありますよ!」
「うん、よく知っているよ。だけど、分かっているよね? 魔法には耐久度があるって」
ユウさんが何かを小声で呟くと、凄まじい速度で近づいてきます。
先日わたしが使った“光速転下”同様、光の速度での移動でした。
「直接砕いちゃえば、いいってだけの話だよね──“魔纏・陽光”、“三連撃”」
光の速度、そして魔法で高められた剣撃は反射する間もなく光の力を叩き込みます。
ユウさんの剣が真っ白に熱を帯びて輝き、わたしの設置した魔法の鏡を砕きました。
そして、そのままこちらへやって来ます。
熱を帯びた剣を防ぐためには、ただ防ぐだけではダメージを負ってしまうでしょう。
「──“流水円避・真”!」
メルの作った棒ですので、ただ伸びたり大きくなるだけではありません……いえ、それだけでも充分に凄いですけど。
消費する身力が多くなる代わりに、武技を強制的に強化できるようにされました。
……はい、されたのです。
少し見せてと渡したら、数十分もしない内に改造されていました。
どの武技でも『・真』が付くのですが、今回は“流水円避”に使います。
いつもよりも素早く、そして力強く振るわえた棒が見事に剣を捉えました。
「ハァアアアア!」
「うん、本当に戦闘職みたい……」
武技によって三連続で振るわれる斬撃。
一つ目を棒の先端で受け流し、二つ目を逆にした棒の先で払います。
そして三つ目、『真』の影響でこれまで以上に加速した動きで再び棒を元に戻し、今度はユウさんの腕に絡ませ軌道を変えました。
「クラーレちゃん、鮮やかすぎない? うちのギルドにも、そこまで上手く僕の攻撃を物理的に変えれる人はいないよ?」
「そうですか? これぐらいできないと、メルの修業に耐えられないのですが……」
「うん、師匠が全部悪いってことだね。僕とアルカとは違う形で、クラーレちゃんにもいろいろとやっていたんだ」
何か深刻そうな顔で呟いていますが、メルもわたしが耐えられるギリギリの加減をしていますので無事会得できました。
あまり『真』を酷使すれば、身の丈に合わない代償を支払うことになります。
そうなる前に、倒さなければなりません。
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