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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と決闘祭 その09

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「くぅぅっ! ほらほら、メルス。やっぱり戦いてぇって思うだろ! あれこそが戦いの醍醐味だ、闘争の本懐だ! 誰もがありえないと思った奇跡、いや奇跡なんて言葉じゃ語りたくない努力の結果があそこにあった!」

《……驚いたな。まさか、あれから一度も使わないで隠していたとは。このときのため、ずっと温存していたわけだ》


 魔法の伝授、その実験ついでにクラーレへいくつかの魔法を教えてみた。
 完成度や成長具合がどういったものになるのか、それを知りたかったのだ。

 そんな思惑はさておき、クラーレは諸刃の剣に成り得る光速すらも使いこなし、見事にシガンを打ち倒した……その結果、通訳役が再び戦闘狂モードに入ってしまったがな。


《そのノリ、だいぶ熱いな……ここで何を言おうと戦えませんから、落ち着きなさい。それとも、強引に魔法で沈められたいか?》

「…………はあ、融通の利かない主だよ。ノリと言えばアンタのアレが発動している時の方が仰々しいだろう?」

《えっ、マジで? いやいや、そこまでのはずじゃないんだが……本当に?》


 今回の戦い方は二度と通用しないだろう。
 シガンは作戦をしっかりと組み立てるタイプだし、一度使ったものに関しては必ず以降の戦いでも考慮するだろうからな。

 さて、クラーレは地面へ落下したあと、シガンに回収されてギルドに運ばれた。
 彼女からそういった連絡が入ったので、それは間違いないだろう。

 決勝はこの世界の明日行われ、ご褒美が誰の手に渡るかも決定する。
 微妙に勝敗は違うものの、予想通り決勝には関係者のみが上がったわけだし。


《チャル、帰るぞ。俺も見ていて試したいことができたから、それを試す分ぐらいなら戦いにも協力するか──》

「マジか! ほら、さっさと帰るぞ! ほらほら、早く早く!」

《あー、はいはい。あんまり引っ張らないでくれ……外聞的にも》


 Sランク冒険者が自分の部下に存外に扱われている、とかそんなウワサが出るのも少々控えておきたいし。

 ……表に出せる身分の中で、もっとも高い地位を持っているのが冒険者としての身分だからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 翌日、選手控え室に呼びだされた俺は、メルの姿でクラーレの下を訪れていた。
 決勝戦ということもあり、彼女もだいぶ緊張しているようだ。

 きっとそのせいだよな、少々頬を膨らませて俺の睨んでいるのは。
 そんな視線にめげない負けない心を持ち、その緊張を解そうと話を行う。


「ますたー、決勝の相手がどんな人かは調べてあるかな?」

「はい。というか……メルが仕込んだのですね? どうして──ユウさんがこの大会に参加しているのですか!」

「もちろん、私が呼んだから! ますたーに秘密を教えるというのならば、相応の試練を与えないと……と考えた結果だよ。むっ、どうやら来たみたいだね──入ってきて!」


 声を掛けると、入り口の前で待機していたユウが入ってくる。
 いつも通りの無邪気な笑みで……ヤバい、こっちを見た途端に目を輝かせた。


「し、師匠……またその姿なんだね」

「や、止め──」

「ふふふっ、メールちゃん。ぜーったいに放しませんよ」

「ししょーーーう!!」


 可愛い物好きだという性格をすっかり忘れて招いてしまった結果──ユウはクラーレに捕縛されていた俺を奪い去り、ムギュッと自分の胸の中で抱き締める。

 えっ、感触?
 今のユウは鎧とかを付けているから、そういうのとはえ──


「ああもう、これじゃあ師匠の抱き心地が分からない! 装備を解除して……うん、これでよし!」

「あ、あの……ユウさん?」

「うーん……やっぱり、師匠はこれぐらい大きさが一番だと思うんだよー。もういっそ、このままでいない?」

《死んでもごめんだ》


 抱きつかれたくない俺は抵抗する。
 子供の状態でやられると、どういうことになるのかは眷属で経験済みなのだ。

 ピンポイントでユウに念話を送り、ついでにイメージ映像を送る。
 内容は俺の悪夢の一つ……ガッチでムッチなお祭り騒ぎの光景だ。

 ヒッ! と小さく驚いたユウは、俺をバッと手放し硬直する。
 その間に俺は安全な場所まで避難し、小動物のようにフーフーッと唸っておく。


「ユウ……お前なぁ」

「し、師匠……やっぱり、その見た目と言動のギャップもいいね」

「コイツ、本当に折れないな」

「僕の心は愛らしい物を求めているんだよ。師匠もその対象だったってことだよ」


 冗談なのか分からない発言だが、要するにこの姿の俺は愛らしいようだ。
 前のショタ状態にも似た反応だったし、俺もこの姿には自信がある。

 なぜなら、眷属を参考にして生みだした妖女だからな……むしろ、見た目だけは可愛くないとダメだと思っているぐらいだ。


「クラーレちゃん、頑張ろうね! どっちが勝っても負けても言い合いは無しだよ!」

「えっ? あっ、はい……あの、どうしてユウさんはこの大会に?」

「師匠に頼まれたからだよ。最初は断ろうと思っていたんだけど、取引があってね。僕はその景品のために参加しているってわけさ」

「ユ、ユウさんも。メル……」


 今度はクラーレが、捨てられた子犬のような目を向けてくる。
 俺にどうしろと……いちおう、言うべきことは分かっているけれども。


「実を言うとね、ユウの方がますたーよりも多くのことを知っているよ。だから、ユウから訊いたうえで私に訊きたいことを見つけるとイイよ……決勝戦でね」

「師匠、もしかして僕って当てつけ?」

「いや、そんなことはないんだけど。最初の約束を覚えていてくれた、あのときはそつない態度を取ったけど結構嬉しかったんだからな。だから、誠実に向き合おうと思うぐらいにはユウのこともちゃんと考えているさ」

「そ、そう……なんだ」


 これで二人ともやる気に満ち溢れたな。
 あとは、決勝戦を楽しんでみるだけ……ある意味二人とも俺の弟子、師匠として見守ろうじゃないか。


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