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偽善者と試されし練度 二十二月目
偽善者と決闘祭 その08
しおりを挟むシガンの攻撃は固有スキルで保存され、過去をなぞって放つもの。
そのため、一度目の攻撃を覚えれば理論的には躱すことができます。
ただし、固有スキルが成長? というわけの分からないことになった結果、空間魔法で攻撃痕を移動させられるようになったことが厄介です。
しかし、攻撃を見抜く方法はいくつもありました。
その中の一つを実行し、勝負を仕掛けることにします。
「──“煌域顕現”!」
「それって、たしか……」
「はい、メルのオリジナルです」
一度は闘技大会で使われた魔法ですので、シガンが知っているのは当然でしょう。
燦々と地面から光が溢れだし、舞台の上を照らしていきます。
「これで……すべてが分かります」
「環境の書き換え。たしかにこれなら、認識はできるでしょうね」
シガンの攻撃は宙に固定されていますが、一部は見えないようにされています。
ですがそれは、周りをわたしの魔力で覆ってしまえば見えるようになるのです。
光属性を強化できるというこの魔法が場を支配し、隠された物を詳らかにしました。
そのすべてがわたしの脳裏を埋め尽くし、驚きます──完全に包囲されているのです。
「シガン、いったいどれだけの量を……」
「バレちゃったわね。けど、だからどうこうできるわけでもないわ──3、2、1、0」
「──ッ!?」
行使を続けた結果、“流水円避”を発動するにはもう少し時間が掛かってしまいます。
今、頼りにできるのは展開したばかりの魔法が広げたこの場全体への知覚能力。
「──“光壁”、“聖盾”、“回避”」
防御手段を展開し、防ぎきれないことを理解して避けるためのスキルも使います。
シガンのカウントダウンが終わり、いくつも発動する過去の攻撃。
いくら“煌域顕現”が光属性を強化してくれるものでも、わたしと同等レベルを誇るうえ戦闘職のシガンの攻撃を受け続けられるわけではありません。
壁はすぐに破壊され、魔力を減衰させる盾も砕かれます。
そして、残ったのは己の身のみ……それでもどうにか躱していきました。
「くっ……来た──“流水円避”!」
「クラーレ、それを使う時は上手く捌くわよね。もしかして、強化されてる?」
「三式ぐらいは、自力でいきましたよ!」
「思い入れが凄いわね……」
思い入れとかそういうことではなく、単にそれを使わないと回避できない攻撃ばかりされていたのが原因です。
普通に回避スキルを使うよりも、棒を弾くために使えるこの武技の方が使い勝手が良いのが理由かもしれません。
そういうわけで、わたしの“流水円避”の練度は『三式』になっています。
躱して、弾いて、受け流して……魔法が傷ついた部分を癒しますが、少しずつわたしの生命力が減少していきました。
ジリ貧です……このままでは、いずれ負けることになるでしょう。
ですがその前にシガンを倒してしまえば、なんとかなるかもしれません。
それを成すためには、たった一度の賭けに出るしかありません。
百回戦っても九十九回勝てない、それでも一度だけ勝つというアレをやってみます。
「──“幻光”、“焦光”、“照準”」
「分身と目晦まし? けど、それじゃあ私を倒しきることはできな──」
ええ、そんなこと百も承知です。
光で分身を創ったとしても、自分にダメージが入るほどの光を生みだそうとシガンの周りに展開されている攻撃の前には無意味。
ですが、最後に“照準”が合わさり目的の場所へ目的の物を届けられます。
一発必中、一撃で終わらせましょう。
「──“光量調整”、“光速転下”!」
「眩ッ……!?」
「──“超功錬丹”、“穿光突”!」
武器破壊付き、光属性の武技を使い一気に猛突進です。
先に発動した二つの魔法は、わたしの纏う光の量を増大させて速度を上げました。
先ほどの目晦ましによって、隙を突く程度の認識していなかったのでしょう。
わたしがメルから教わっていたオリジナルの光魔法、それは他にもありました。
肉体の破壊を引き換えに、文字通り光速で移動できる魔法です。
視界を奪われた今のシガンは、わたしを認識できないまま武技の攻撃を受けました。
大量の攻撃があるなら、それを使わせなければいいだけの話。
さすがのシガンも、わたしが一瞬で自分の下まで辿り着けるとは思ってないでしょう。
「これでそのまま──“爆雷”!!」
「ッ……かはっ!」
内部に浸透させた、気力と魔力を練り上げた超気功と呼ばれるエネルギー。
それを内側で炸裂させるという、これまたメルオリジナルの武技です。
……今さら何者か、なんてことを問わなくても気になりません。
ただただ誰かに尽くそうとしている、それがメルなのですから。
二度とこの一連の流れは、シガンに通用しなくなるでしょう。
ですが、今回だけ……絶対に譲れないこの闘いでだけは通用します。
光の速度で、高められた武技で外側と内側から一瞬で放たれた攻撃。
どれだけ策を練り上げていたとしても、時間を無視した光速の一撃で終わらせます。
≪試合終了。結界からの強制退場を確認──勝者『クラーレ』!≫
アナウンスがその名を告げたとき、ようやくわたしは息を抜き……動かなくなった体はそのまま地面へ墜ちていきました。
SIDE OUT
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