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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と決闘祭 その07

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「では、行きます!」


 準備を整え、シガンに接近しました。
 わたしは魔法の準備をするだけで済みますが、彼女の場合は剣を振るったり魔法を使うなど、行動そのものをする必要があります。

 さすがにシガンが万全の状態で挑むのは愚作、自身の準備を終えたのであればすぐに闘う必要がありました。

 今のわたしは能力値に補正を掛ける魔法が掛かったうえ、回避や五感などステータスには表示されない部分も強化されています。

 その分、魔力消費は激しいですが……もともと回復兼支援役として大量の魔力とそれに見合うだけの魔力を得ていましたので、一人分だけなら自然回復と釣り合いました。


「──“照準エイム”、“光折鏡リフレクトレイ”!」


 準備していた魔法を即座に起動させます。
 名前が示す通り──“照準”は光を用いて攻撃の命中先を定めるもの、“光折鏡”はあらゆる光を屈折できる魔法です。


「──“聖槍ホーリーランス”×10!」


 そしてわたしの使える魔法の中で、もっとも威力のある魔法を一気に発動しました。
 聖属性は光属性の派生としての性質を持つため、光を跳ね返す“光折鏡”の対象です。

 予め“照準”で指定した場所目がけて、聖なる槍は飛んでいきました。
 目で捉えようにも、“光折鏡”で機動が変わるため読み取りづらくなっています。

 ですが、点でダメなら面でというように。
 シガンは剣を振るいながら、魔法を起動させました。


「──“空間把握グラスプ”、“空間壁レイヤーウォール”」


 魔法で槍のある場所を認識したシガンは、空間を固めて生みだした壁でそれを防いでいきます。

 わたしの“聖槍”も相応の魔力を籠めたのですが、もともとの消費魔力量の多い代わりに性能が高い空間属性の魔法。

 おまけにすべてを知覚されている以上、今回の攻撃は防がれてしまいました。
 たった一度の魔法で防がれたようなので、そこまで無駄な魔力を消費させられなかったでしょう。


「なら、今度は──」

「もういいでしょう? そろそろこっちからいかせてもらうわよ──3、2、1、0」

「! りゅ、“流水円避リュウスイエンヒ”!」


 シガンの溜め込んだ攻撃が、いっせいにわたしへ襲いかかってきます。
 ストックは始まってからしかできないはずなのに、その数は優に百を超えていました。

 わたしはそれをシガンのように魔法で防ぐのではなく、武技の発動を告げるだけ。
 自動で行ってくれる補助も付けず、己の力だけで捌き切る挑戦を行いました。


「クラーレ、それって絶対後方職のやることじゃないわよ……だいぶ毒されたわね」

「ひゃっ……べべ、別にメルがどうこうという話じゃありません! ええ、ただこの方が向いていただけ──そ、それだけです!」


 き、きっとわたしの気を逸らそうとあることないこと吹きこんできたのですね。
 ですが問題ありません、ユウさんにそういう戦い方もあると学んでいましたので。

 右へ左へ魔法や斬撃が飛んできては、受け流し、逸らし攻撃を無効化していきました。
 時折わたしを傷つけるような攻撃もありますが、予め使った魔法が防御してくれます。

 その間、シガンは鈴型の魔道具に触れては自身の固有スキルの補充を行いました。
 メルの作ったその魔道具は、シガンの固有スキルに作用する効果を持っています。

 そして、今回使ったのはおそらく時間を進める『時飛ばしの鈴』。
 なぜなら少しずつ、シガンの溜めておいた攻撃の威力が向上しているからです。


「──“継続恢復リジェネレーション”、“持久不疲タフネス”!」


 継続的に肉体を癒し、心肺機能も恒久的に維持できる魔法です。
 武技の動きをなぞるだけでも、結構疲れてしまいます。

 ……あと、ユウさんから聞いたのですが、メルのようにずっと武技を発動し続ける方がおかしいそうです。

 実際、わたしも“流水円避”に無茶な捌き方を行い続けているせいか、腕が重くなっていました──それを治すための魔法でした。





「どうしました……もう、終わりですか?」


 しばらく受け流しを続けていると、急に攻撃が止みました。
 おそらく、準備が整ったのでしょう……わたしを対処する間もなく倒すための。

 わたしが攻撃を捌いている間に、シガンは煙魔法を固めたものを足場にして宙に移動していました。

 緊急時には相手を妨害できる、一対一の際にシガンがよく使う戦法です。


「まずは、と言ったところね。クラーレ、本当に強くなったわね……というか、やっぱり後方職じゃないわよ」

「これぐらいできないと、やっていけないと学びましたし。自分の役割を果たせるのであれば、できることは多い方がいいじゃないですか。実際、パーティーでもわたしを守る必要が無くなりました」


 パーティーの全員が自衛の手段を持っていれば、前衛が後衛のために気を使う必要は無くなりますので。

 シガンの攻撃すべてを、決して捌き切れたとは言い切れません。
 ですが内部の損傷はすべて治せましたし、シガンの魔力をだいぶ消費させました。


「まさか、ここまで耐えられるとは驚きだったわ。けど、次で終わりにしましょう」

「……まずはって言ってましたよね? 最初で倒そうとしていたんですか?」

「いいじゃない、どっちでも。そもそも、私の場合は最初から最後まで全部繋がっているわけだし」


 シガンの攻撃はストックされ、好きなタイミングで解放できるのですから。
 これまでに掛けた時間、そのすべてが彼女の味方でしょう。

 ──それでも、勝つのはわたしです!


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