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偽善者と試されし練度 二十二月目
偽善者と決闘祭 その06
しおりを挟む《──そして、なんやかんやの準決勝。さすがはクラーレ、無事そこまで辿り着いたのであった》
「……なぁ、それ誰に言っているんだい?」
《無論、観ている眷属にだが。いろいろと頑張っていたみたいだしな、ここまで来たついでに改めて説明を……って感じだ》
「ふーん、そうかい。しかしまあ、やっぱり闘いはいいねぇ。こうして観ているだけでも体がウズウズしてくるよ」
絶対に通訳に向いていない戦闘狂が、本日の通訳役として俺の傍に侍っていた。
まあ、機人族なので解析とかには向いているんだろうけども。
《準決勝の相手は──シガン。ずいぶんと偏りのあるトーナメントを超えて、二人は相対することになったわけだが……はてさて、勝つのはどっちになるんだろうか》
「本当、誰が仕組んだのやら。強い奴と戦えるなら、何をされていても構わないけど」
《そんなことを考えるのはお前ぐらいじゃないか? 他はだいたい、その裏事情も含めてしっかりと勝とうとするだろうし》
「はんっ、最後まで戦い抜けばそれが勝者だろう? 細かいことを考える暇があるなら、全部を力で叩き潰せばいい。アンタだって、それができるから私たちの大半をそうして、あそこから解放したんだろう?」
俺としては、そこに属さなかった少数派のやり方──つまり会話や交渉でどうにかしたかったのだがな。
それを拒んだり暴走したりと、やらかしていたのはその大半の奴らだ……目の前のヤツはさらに希少な、自分の意志を以って攻撃を仕掛けてきた輩の一人だ。
「メルス、じゃなくてノゾム。アンタの育てた娘たち……いつかは戦わせて──」
《ダメだ。誰が好き好んでそんな危ない戦闘狂を野に解き放つと思ってやがる。だいたいなあ、クラーレは回復職だぞ? シガンとは前の大会でやったんだから、もういいだろ》
「違うだろうが。こう、人でも機械でも成長するんだ。だからこそ、シガンやあの娘とも何回だって戦いてぇんだよ」
《……止めような、なっ? 闘技場に通うのは別にいいからさ、せめて戦うことに前向きな奴と戦ってくれ》
完全に止めることは俺にはできない。
だからせめて、その方向性を別の所へ逸らすぐらいが精一杯だ。
《戦いを強要されたヤツが、どれだけチャルに満足感をもたらしてくれるんだ? なら、強い戦いの意志を持った相手とやった方が有意義な戦いになるだろう?》
「まあ、そりゃそうなるだろうな」
《正の方向で、やる気を引き出すならともかく強引にやっても満足感は得られないだろうよ。──というわけで、今回はダメ。なっ、それでいいだろう?》
「……仕方ない。それで手を打とう」
戦闘の意識が逸れたからか、変わった口調にホッと息を吐く。
さすがにまだ早いというか……育てて開花する前に種子ごと攫われそうになったな。
いつか、選択の結果次第では再びあるかもしれない対戦カードだ。
時間稼ぎにしかならないかもしれないが、今は彼女たちの力を蓄えさせないと。
◆ □ ◆ □ ◆
SIDE:クラーレ
「こうなるんですね……シガン」
「ええ、とは言っても知り合いと戦ってきたのは全部私だけど。まったく、どういう抽選のやり方をしているのかしら?」
「もしかしたらメルが……なんて、思ってしまいます」
「クラーレ、本当にありそうなことを言うのは止めてちょうだい」
……はい、たしかに。
本戦が始まってから、わたしは抽選で決定した相手と戦ってきました。
決して簡単な戦いは一つもありませんでしたが、それでもこれまで培ってきたモノを生かしてどうにか突破します。
その一方、シガンは『月の乙女』の仲間たちとばかり戦っていました。
対戦カードが調整されていたのでは、と思うほどにピッタリでしたよ。
この戦いが終わったとき、次に進むことができるのはわたしかシガンのどちらかだけ。
その相手は……いえ、今はそういったことに考えを費やす暇はありませんでした。
「わたしはなんとしても、優勝をしなければなりません。なのでシガン、またわたしが勝たせてもらいますよ」
「……あのときはたしかに負けたわ。けど、今の私はあのときよりもはるかに強くなったわ。身も心も、どっちもね」
「わ、わたしだって……ただ縋っていたあの頃よりも、もっと強くなりました。もう、シガンにも頼るだけじゃない……支え合えると証明します!」
「バカね、それは回復がメインの支援職が言う言葉じゃないわよ」
剣と棒、互いに武器を構えます。
そのうえでスキルや魔法を使い、自分の体に強化を施していきました。
対人戦に関わる素の能力値はシガンの方が大きいですが、わたしはそれを補う魔法をいくつも有しています。
魔力が持ち得る限り、そしてそれを求められる最大限のパフォーマンスで運用できる限りはわたしの方が能力値は有利でしょう。
問題はシガンの固有スキルや積んできた経験から生みだされる、回避不可能な一撃。
ミスは許されません、後方支援職のわたしの生命力はそう多くはありませんので。
≪準決勝一回戦──始めてください!≫
それを合図にわたしたちは動きだします。
ただし、それは脚を動かすということではありません──互いにその場でできることを重ねて実行していきました。
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