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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と決闘祭 その05

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「──ふぅ、よーやく終わったー!」
「アリィ、お疲れ様。アリスも疲れたわね、何かないのかしら?」


 やはりだが、本選になれば一人ぐらい来るかという予想は当たった。
 そのため、アリィたちには通訳役として働いてもらったわけだ。

 すでにここから離れた場所に、どこかの国から来たとか言っていた王の命を受けたお偉い様が座っている。

 俺とアリィたちがちょうど遊んでいた時に来たからか、距離を取ってくれたんだよな。
 ミシェルが張ってくれた結界の効果も、ここでは発揮されたのかもしれない。


《はいはい、フロートでも用意しようか。二人とも何味がいい?》

「メロンフロート!」
「コーヒーフロート」

《あいよ。ただ、味に文句を言うなよ》


 錬金術のある意味邪道、具現魔法と料理術に頼った魔力加工で創り上げる『魔力飯』。
 記憶した二つの注文品を呼び起こし、完全再現した状態で完成させる。


《──っと、縛りを戻さないとな。ついやってたけど、まだやっている最中だったし。二人はこれを飲んでてくれ》

「うーん、ぱちぱちする感じ……やっぱり飲むならメロンフロートだよね!」
「苦みが上手く緩和されて、部分で味が変わるコーヒーフロートもなかなかよ」

《喜んでもらえて何よりだ。結界をミシェルが張っていってくれたとはいえ、あまり派手な動きはできないんだけどね》

「わざわざ念話だしね……」
「ええ、自意識過剰ってことかもしれないわね。たしかにこっちを見てくる人はいるみたいだけれど、目的はアッチみたいよ」


 ただのSランク冒険者は存在感を隠しているので、違和感溢れる視線はその近くに居るお偉いさんの方へ行ってしまう。

 まあ、彼らも自分たちは見届けていますよとアピールをしたいのだから、非公式ながらWinWinな関係を構築できているのかもしれないな。


「あっ、そういえばメルス……じゃないや、ノゾムが気にしている女の子たちはどこに居るのかな?」
「たしか、七人・・だったわよね。全員見つけて、あとで……ふふっ、楽しみね」

《その含みのある言い方、止めてくれませんかね? あと、俺からヒントは出さないから記憶を思い返してくれ》


 すぐに戦うわけでもないし、今回はゆっくりと眺めていよう。
 前回の記憶は……まあ、ミシェルを撫でていることしか思い出せないけれども。

 そして、そんな会話をしている内に開始された本戦。
 まったく知らない祈念者プレイヤーと自由民が相対すると、合図が示されて戦闘が始まる。


「ノゾムとアリィたちの違いって、どんなことだっけ?」

《まず死んでも蘇る、次に種族・職業・スキルに対する適性が見た目の種族以上、あとは[メニュー]系の独自のシステムだな。どれも自由民からすれば厄介だろう?》

「一番最初から危険なことこのうえない。アリスとしては、その全部をアリスたち自由民に与えられるノゾムの方が凄いと思うけど」

《蘇るのは条件発動式の蘇生効果みたいなものだし、適正だって眷属はスキルで補える。最後の[メニュー]系だけは、渡した指輪越しにじゃないと使えないけどな。パクるだけなら、俺でもできるってことだ》


 観戦をしながら、話を続ける。
 舞台の上では、死を恐れずにレベリングを行った祈念者が自由民を押していた。

 だが、参加しているのだから相手の自由民もそれなりの戦闘経験を重ねている。
 スキルや武技のゴリ押しをする祈念者を相手に、一歩も引かずにやり合っていた。


《実際、どっちが強いかと聞かれると条件次第なんだよな。時間さえあれば自由民の方が強いし、そうじゃなく戦い方に縛りがあるなら祈念者の方が強い……なんでだと思う?》

「えっ? えっとー、なんでかな?」
「しょうがないわね……枠でしょう?」

《その通り。祈念者は仮初の器だから、そこに限界がある。だけど自由民は本人次第で好きなだけ増やすことが可能だ。魂魄も上手く馴染むから、適性さえあればどれだけ職業に就いても問題ないしスキルも使い放題》


 その言葉を証明するように、少しずつ自由民が押し返していく。

 そこには戦闘系スキルだけではなく、技能系に属するようなスキルを用いていると思われる動きも含まれていた。


「つまり、ゆっくりじっくりいろんなことをやる余裕があるなら、アリィたち自由民の方が強くなれるってこと?」

《そのためにレベルを上げようとして、死んだら一巻の終わりな自由民だろう? だから祈念者はそういうリスクを諸共せずレベルを上げてその体にできる限界まで強くなる。そこの違いで勝負は決まるのさ》

「なら、限界突破スキルや『超越者』の称号はどういうことなの? ノゾムの言うそういう部分を補うのにピッタリじゃない? 祈念者はどんなスキルでも手に入れられそうなわけだし」

《スキルはそういう才能を持った奴が本当にいたんだろう。称号は人族版の『超越種』みたいなものだろうな。限界突破系のスキルは適正以上にデメリットがデカいから、そう取ることは無いと思うぞ》


 舞台の上では限界突破系のスキルを使ったのか、エネルギー量を膨れ上がらせた祈念者が自由民の最後の一撃を振るおうとする。

 しかしながら、自由民は冷静にその無軌道な動きを観察し……見抜き、そっと武器を祈念者の動きに合わせて重ねる。

 強力な武技など必要ない。
 相手の速度はエネルギーとなり、これまで以上の威力で祈念者にダメージを与えた。


《──というわけだ。発動中はどの限界突破でもリスクが生じる。で、一か八かの賭けとかで使うと……ああなる》


 新人っぽい祈念者の反応を調べてみれば、みんなありえないみたいな顔をしている。
 自分たちの方が優れている、みたいな甘い考えをしていたのだろうか?


《まあ、ここに居る全員が相手だったとしても、アリィ独りで全部倒せるけどな》

「ふっふーん、そりゃあもちろん。だってアリィはアリィだからね!」

《……アリス、支えてやってくれよ》

「分かっているわよ。アリィとアリスは二心同体なんだから、バッチリサポートするわ」


 アリィはあらゆる強さに勝ち得るスキルを持ってはいるが、それを使うために欠けているものがある。

 それを補う存在こそがアリス。
 なればこそ、彼女はアリィと共に在り続けるのだ。


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