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偽善者と試されし練度 二十二月目
偽善者と決闘祭 その04
しおりを挟む「もう、メルったら……いったいどこへ」
予選を無事突破した後、わたしはさっそくメルを探しました。
しかし、どこを探しても姿はなく、呼びかけても見つかりません。
今回は使ってはいけないと言われていた霊呪がありますが……それを使うとなんだか負けた気になりそうですので、使わないと固く決意していました。
「仕方有りません──“追尾”」
戦闘時、的確に仲間の下へ支援魔法を届けるためのスキルですが……本来の用途を用いれば、予め指定した対象を追いかけるために使うこともできます。
ええ、あまり気乗りはしませんでしたが、相手が出てこないのであれば……遺憾ながら使わざるを得ません。
メルは魔力を偽ったりするため、見つけるのに苦労しますが……それでも、時間を掛ければ場所が──
「ここ……ですか?」
「あー、もしかしてますたー、私のことを探していてくれたの?」
「メ、メル!?」
「そんなに驚かれるのは心外なんだよ。だけど、それが動かぬ証拠かなー? もしかしてだけど、ますたーってばわたしに会えないのがそんなに不安だったりしてー」
わたしの内心を読んだのか、ニマニマと笑みを浮かべてきます。
うぅ……なんでしょう、顔が熱くなって考えが回らなくなってきました。
そんな状態に陥っていると、メルは笑みを止めた真剣な顔でわたしに近づいてきます。
「ますたー、大丈夫? ステータス……に異常は無いみたいだし、何かあったの?」
「だだ、大丈夫でしゅ!」
「……でしゅ? けど、問題ないなら良かったよ。ますたーに何かあったら、(私が)どうなるか分からなかったら」
「……心配、してくれたんですね。ありがとう、メル」
何やら含みのある言い方でしたが、心配してくれているのは間違いありませんでした。
なので息を整えて、しっかりとお礼を告げておきます。
メルはきょとんとした後、先ほどとは異なる笑みを浮かべました。
そして、小さな背丈をうんと背伸びしてわたしの頭に手を伸ばします。
「ううん。ますたーにもしものことがあったら、そんなことを考えるよりは楽しいもん。私を困らせないでね、ますたー」
「メ、メメメメル!?」
「んー? あっ、ごめんね。さっきまで、こうしていたからね……ってますたー、今度はどうしたの?」
「さっきまで、さっきまで……誰と、いえ誰にしていたんですか?」
そんな羨まし……じゃなくて、けしからんことをしたなんて、いけません!
その方とぜひ、会いたいです……ええ、いろいろと『おはなし』をしたいので。
「ん、んー……。ますたーには、まだ早いかな? 優勝したら、教えよっかな?」
「そ、そんなに回りくどいことをしないと、教えてもらえないような方なのですか?」
「まだまだ私には秘密が多いからね。その一つの中に、ますたーの知りたい人が含まれているんだよ。私から直接言えないことは、本人から訊くしかないんだけどね」
「……優勝すれば、いいんですね?」
実際のところ、あまり気になってはいないのですが……メルをもっと知りたいという衝動が、わたしを突き動かします。
メルに秘密が多いのは分かっていました。
ユウさんやアルカさん、『ユニーク』の方との接点だけでもそれは理解できます。
そうした隠している部分と、関係しているのでしょう……メルって、油断すると自分からいろんな情報を教えてくれることがありますので、それを待てばいいだけですしね。
SIDE OUT
◆ □ ◆ □ ◆
翌日、本選が始まった。
一度来たからには、何度も通わなければなるまいという考えから、再び謎のSランク冒険者ノゾムとして闘技場を訪れる。
「ふーん、アリィが通訳ねー。ずいぶんと偉い御身分になったみたいじゃない」
「王様で現人神より偉い奴って、少なくとも普通は居ないと思うけどな」
「アリィはそういうことを聞きたいんじゃないの。まあ、昨日のことはミシェルから聞いたから楽しみにしてたけど……日頃の行いがいいからね、アリィがこの役に選ばれるのは必然とも言えるでしょ!」
「今日は少しぐらい誰か来そうだからな。昨日のミシェルがやっていたことを、そっくりそのままやるのは無理だぞ」
さすがに本選ともなれば、王族は来ずともそれなりに偉い人が来るかもしれない。
そうなった場合、通訳役とイチャコラしているのはさすがに問題が生じてしまう。
「ちぇー。もっとアリィに優しくしてくれても良かったんだぞ」
「じゃあ、アリィのやってほしいことを一つだけやってやるよ。ほら、どういうことをしてほしい?」
「へっ? …………えっ、え、ちょ、ちょっと待って! きゅ、急に言われると……えーとえーと……」
不意打ちに弱いアリィなので、こういう風にからかうことができる。
……うん、『アリィ』をからかうことはできるのだが、『アリィ』たちをからかうことはできないわけだが。
「──まったく、ダメね。これぐらい、アリスたちをからかうための『誘い』だって理解しないと。というわけで、アリスが……」
「ああ、アリスは対象に入っていないぞ。アリィならからかうだけで済むけど、アリスはこの短時間ですぐに要求を告げそうだし」
「残念。せっかく持ってきたのに……アリスとしては、アリィと二人でこの仕事をやりたいと思っていたのに」
「……もちろん、それぐらいならやるよ。申請を取るから少し待ってくれ」
かつて遊戯室で行ったものと同じ手順を踏み、アリィとアリスを一時的に切り離す。
ストロベリーブロンドの少女は、一人から二人へ別れて顕現した。
──両手に花、みたいな感じを傍から見れば醸し出せるかな?
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