1,452 / 2,519
偽善者と試されし練度 二十二月目
偽善者と決闘祭 その03
しおりを挟むしばらくすると、予選のために参加者たちが舞台の上に集まってくる。
VIP席にもどこかのお偉い様が来るかと思ったが、まだ予選だからか誰も来ない。
……つまり、まだまだ継続すべきと。
無言の強要をしてくるミシェルに苦笑し、慈しむ想いを籠めて頭を撫でる。
「メルス……ん、じょぉず、ぅ……」
「それは何より。俺も少しずつやり方を理解してきたってことだな」
「そうじゃなくて。ぁん、感覚がぁ……」
「痛かったか? じゃあ、止めるけど」
そう言うと首を横に振るため、大会運営側のアナウンスを聞きながら撫で続けた。
どうやら俺の予想通り、今回も証の魔道具が使われるようだ。
しばらく同じ撫で方を続けていると、だいぶ慣れたようで……言語能力が回復した状態で、俺の方を見てくる。
「メルス、どうするの?」
「どうするって……何もしないぞ。いくら偽善者とはいえ、誰からも望まれていないことはやらないよ。まあ、望まれたらやるかもしれないけど」
「そう。なら、ずっと二人っきり」
「お、お手柔らかに」
魔道具を砕き、参加資格を消し去れ。
要すればそういうルールなので、どの職業にも勝利できる可能性がある……回復しかできない奴以外は。
クラーレ、明らかに不利である。
そりゃあ回復系職業限定の能力もあるが、こういう自分以外の対象を狙われるときに作用しづらいんだよな。
もしこれが、生存するだけでいいのであれば問題なかっただろう。
彼女の一部だけ解除している【固有】スキルだけでも、充分な効果を発揮するし。
──さて、どうやって生き残るのかな?
◆ □ ◆ □ ◆
SIDE:クラーレ
≪では、本戦出場者を決める予選ロイヤル、Aグループの部を開始します。皆さん、準備はいいですか?≫
運悪く、わたしはAグループとしてもっとも早く予選を行うことになりました。
他のギルドメンバーは別グループのため、周囲に味方となる者はいません。
「でも、やるしかありません!」
使えるモノを確認しましょう。
まずは支援役としてよく使う魔法──攻撃魔法は光魔法だけ、あとは回復魔法や付与魔法を成長させたものです。
次に少しずつ磨いていた武術──棒に関するスキルをいくつか習得したうえで、スキルが無くとも同じように武器を扱えるように特訓を行いました。
……最近は、スキルを使えなくする能力を持つ魔物が出るフィールドが発見され、その技術を磨く祈念者も出てきています。
それよりもだいぶ前から、一部の人々は試していたそうですけど。
それはそういった理由ではなく、単純な趣味だからそうですけど……なぜでしょう?
「あとはメルがくれたこの棒……これで、どうやって生き残りましょうか?」
伸縮自在の棒型魔具、というヤツです。
つまりは棒に関するいくつかのスキル、そのすべてに対応できる武器。
もともとはただの支援役だったわたしも、ずいぶんとメル……スに汚されました。
ええ、はい、この責任はいずれ取ってもらうとしましょう……ジュルリ。
≪では──バトルロイヤル開始!≫
なんてことを考えている内に、予選が始まりました。
ルールは単純、相手を殺さないで腕に嵌めた魔道具を参加者から取り除くこと。
もしくは舞台から落とせば、その参加者は予選を戦う資格を失うことになります。
「わたし以外がやっても、それは同じことですから──“隠光”、“上級隠蔽”」
まずは光を屈折させて周囲から認識できなくなる魔法、そのうえで自身の存在感を隠すスキルで身を潜めました。
そう、最初は様子見をしなければ間違いなく脱落してしまいますので。
この技術もかなり練習し、ユウさんたちにも手伝ってもらったのでバッチリです。
少しずつ、減っていく参加者。
その残り人数を知る方法はありません、なのでどれだけ姿を隠そうと見抜かれない限りは安全でしょう。
「──“護光”、“光衣装甲”」
もちろん、隠れている人々を燻りだすための大規模な魔法が時折放たれます。
その場合、魔力の発露を抑えた状態で防御魔法を構築して防いで対処しました。
地道に対処を行い、時間を稼いでいけば数がどんどん減っていきます。
予選突破人数は三人、そしてこの場に──四人となった状態でわたしは動きました。
「──“侵魔功”、“気絶打”!」
魔闘術で肉体と武具を包み、武技を発動させたうえで武器の力を発揮させます。
振り被って振るった棒が突如グーンと伸びると、舞台すべてに届く一撃となりました。
ここまで耐えていたのは、一流の戦闘経験者です。
当然、何かしらの方法で攻撃を捌くのですが……その中で一人、防御を選んだ人が。
甘い、甘すぎます。
魔闘術によって、付与された力は侵蝕──つまり棒が当たった振動は内側へ入り込み、強制的に効果を発揮するのです。
耐性があるかもしれませんが、“侵魔功”は魔力量に依存して効果の強弱が決まる武技です……要するに、回復魔法を使わない今のわたしにはピッタリの武技でした。
「これも勝つためですので、ごめんなさい」
攻撃を防ぎきれなかった方は、そのまま吹き飛ばされて舞台から墜ちました。
そして、舞台の上に残ったのは三人──この結果、わたしは予選を突破したのです。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる