1,452 / 2,518
偽善者と試されし練度 二十二月目
偽善者と決闘祭 その03
しおりを挟むしばらくすると、予選のために参加者たちが舞台の上に集まってくる。
VIP席にもどこかのお偉い様が来るかと思ったが、まだ予選だからか誰も来ない。
……つまり、まだまだ継続すべきと。
無言の強要をしてくるミシェルに苦笑し、慈しむ想いを籠めて頭を撫でる。
「メルス……ん、じょぉず、ぅ……」
「それは何より。俺も少しずつやり方を理解してきたってことだな」
「そうじゃなくて。ぁん、感覚がぁ……」
「痛かったか? じゃあ、止めるけど」
そう言うと首を横に振るため、大会運営側のアナウンスを聞きながら撫で続けた。
どうやら俺の予想通り、今回も証の魔道具が使われるようだ。
しばらく同じ撫で方を続けていると、だいぶ慣れたようで……言語能力が回復した状態で、俺の方を見てくる。
「メルス、どうするの?」
「どうするって……何もしないぞ。いくら偽善者とはいえ、誰からも望まれていないことはやらないよ。まあ、望まれたらやるかもしれないけど」
「そう。なら、ずっと二人っきり」
「お、お手柔らかに」
魔道具を砕き、参加資格を消し去れ。
要すればそういうルールなので、どの職業にも勝利できる可能性がある……回復しかできない奴以外は。
クラーレ、明らかに不利である。
そりゃあ回復系職業限定の能力もあるが、こういう自分以外の対象を狙われるときに作用しづらいんだよな。
もしこれが、生存するだけでいいのであれば問題なかっただろう。
彼女の一部だけ解除している【固有】スキルだけでも、充分な効果を発揮するし。
──さて、どうやって生き残るのかな?
◆ □ ◆ □ ◆
SIDE:クラーレ
≪では、本戦出場者を決める予選ロイヤル、Aグループの部を開始します。皆さん、準備はいいですか?≫
運悪く、わたしはAグループとしてもっとも早く予選を行うことになりました。
他のギルドメンバーは別グループのため、周囲に味方となる者はいません。
「でも、やるしかありません!」
使えるモノを確認しましょう。
まずは支援役としてよく使う魔法──攻撃魔法は光魔法だけ、あとは回復魔法や付与魔法を成長させたものです。
次に少しずつ磨いていた武術──棒に関するスキルをいくつか習得したうえで、スキルが無くとも同じように武器を扱えるように特訓を行いました。
……最近は、スキルを使えなくする能力を持つ魔物が出るフィールドが発見され、その技術を磨く祈念者も出てきています。
それよりもだいぶ前から、一部の人々は試していたそうですけど。
それはそういった理由ではなく、単純な趣味だからそうですけど……なぜでしょう?
「あとはメルがくれたこの棒……これで、どうやって生き残りましょうか?」
伸縮自在の棒型魔具、というヤツです。
つまりは棒に関するいくつかのスキル、そのすべてに対応できる武器。
もともとはただの支援役だったわたしも、ずいぶんとメル……スに汚されました。
ええ、はい、この責任はいずれ取ってもらうとしましょう……ジュルリ。
≪では──バトルロイヤル開始!≫
なんてことを考えている内に、予選が始まりました。
ルールは単純、相手を殺さないで腕に嵌めた魔道具を参加者から取り除くこと。
もしくは舞台から落とせば、その参加者は予選を戦う資格を失うことになります。
「わたし以外がやっても、それは同じことですから──“隠光”、“上級隠蔽”」
まずは光を屈折させて周囲から認識できなくなる魔法、そのうえで自身の存在感を隠すスキルで身を潜めました。
そう、最初は様子見をしなければ間違いなく脱落してしまいますので。
この技術もかなり練習し、ユウさんたちにも手伝ってもらったのでバッチリです。
少しずつ、減っていく参加者。
その残り人数を知る方法はありません、なのでどれだけ姿を隠そうと見抜かれない限りは安全でしょう。
「──“護光”、“光衣装甲”」
もちろん、隠れている人々を燻りだすための大規模な魔法が時折放たれます。
その場合、魔力の発露を抑えた状態で防御魔法を構築して防いで対処しました。
地道に対処を行い、時間を稼いでいけば数がどんどん減っていきます。
予選突破人数は三人、そしてこの場に──四人となった状態でわたしは動きました。
「──“侵魔功”、“気絶打”!」
魔闘術で肉体と武具を包み、武技を発動させたうえで武器の力を発揮させます。
振り被って振るった棒が突如グーンと伸びると、舞台すべてに届く一撃となりました。
ここまで耐えていたのは、一流の戦闘経験者です。
当然、何かしらの方法で攻撃を捌くのですが……その中で一人、防御を選んだ人が。
甘い、甘すぎます。
魔闘術によって、付与された力は侵蝕──つまり棒が当たった振動は内側へ入り込み、強制的に効果を発揮するのです。
耐性があるかもしれませんが、“侵魔功”は魔力量に依存して効果の強弱が決まる武技です……要するに、回復魔法を使わない今のわたしにはピッタリの武技でした。
「これも勝つためですので、ごめんなさい」
攻撃を防ぎきれなかった方は、そのまま吹き飛ばされて舞台から墜ちました。
そして、舞台の上に残ったのは三人──この結果、わたしは予選を突破したのです。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる