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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と決闘祭 その03

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 しばらくすると、予選のために参加者たちが舞台の上に集まってくる。
 VIP席にもどこかのお偉い様が来るかと思ったが、まだ予選だからか誰も来ない。

 ……つまり、まだまだ継続すべきと。
 無言の強要をしてくるミシェルに苦笑し、慈しむ想いを籠めて頭を撫でる。


「メルス……ん、じょぉず、ぅ……」

「それは何より。俺も少しずつやり方を理解してきたってことだな」

「そうじゃなくて。ぁん、感覚がぁ……」

「痛かったか? じゃあ、止めるけど」


 そう言うと首を横に振るため、大会運営側のアナウンスを聞きながら撫で続けた。
 どうやら俺の予想通り、今回も証の魔道具が使われるようだ。

 しばらく同じ撫で方を続けていると、だいぶ慣れたようで……言語能力が回復した状態で、俺の方を見てくる。


「メルス、どうするの?」

「どうするって……何もしないぞ。いくら偽善者とはいえ、誰からも望まれていないことはやらないよ。まあ、望まれたらやるかもしれないけど」

「そう。なら、ずっと二人っきり」

「お、お手柔らかに」


 魔道具を砕き、参加資格を消し去れ。
 要すればそういうルールなので、どの職業にも勝利できる可能性がある……回復しかできない奴以外は。

 クラーレ、明らかに不利である。
 そりゃあ回復系職業限定の能力もあるが、こういう自分以外の対象を狙われるときに作用しづらいんだよな。

 もしこれが、生存するだけでいいのであれば問題なかっただろう。
 彼女の一部だけ解除している【固有】スキルだけでも、充分な効果を発揮するし。

 ──さて、どうやって生き残るのかな?


  ◆   □   ◆   □   ◆

 SIDE:クラーレ


≪では、本戦出場者を決める予選ロイヤル、Aグループの部を開始します。皆さん、準備はいいですか?≫


 運悪く、わたしはAグループとしてもっとも早く予選を行うことになりました。
 他のギルドメンバーは別グループのため、周囲に味方となる者はいません。


「でも、やるしかありません!」


 使えるモノを確認しましょう。
 まずは支援役としてよく使う魔法──攻撃魔法は光魔法だけ、あとは回復魔法や付与魔法を成長させたものです。

 次に少しずつ磨いていた武術──棒に関するスキルをいくつか習得したうえで、スキルが無くとも同じように武器を扱えるように特訓を行いました。

 ……最近は、スキルを使えなくする能力を持つ魔物が出るフィールドが発見され、その技術を磨く祈念者も出てきています。

 それよりもだいぶ前から、一部の人々は試していたそうですけど。
 それはそういった理由ではなく、単純な趣味だからそうですけど……なぜでしょう?


「あとはメルがくれたこの棒……これで、どうやって生き残りましょうか?」


 伸縮自在の棒型魔具、というヤツです。
 つまりは棒に関するいくつかのスキル、そのすべてに対応できる武器。

 もともとはただの支援役だったわたしも、ずいぶんとメル……スに汚されました。
 ええ、はい、この責任はいずれ取ってもらうとしましょう……ジュルリ。


≪では──バトルロイヤル開始!≫


 なんてことを考えている内に、予選が始まりました。

 ルールは単純、相手を殺さないで腕に嵌めた魔道具を参加者から取り除くこと。
 もしくは舞台から落とせば、その参加者は予選を戦う資格を失うことになります。


「わたし以外がやっても、それは同じことですから──“隠光ハイドライト”、“上級隠蔽”」


 まずは光を屈折させて周囲から認識できなくなる魔法、そのうえで自身の存在感を隠すスキルで身を潜めました。

 そう、最初は様子見をしなければ間違いなく脱落してしまいますので。
 この技術もかなり練習し、ユウさんたちにも手伝ってもらったのでバッチリです。

 少しずつ、減っていく参加者。
 その残り人数を知る方法はありません、なのでどれだけ姿を隠そうと見抜かれない限りは安全でしょう。


「──“護光ライトアミュレット”、“光衣装甲ライトベール”」


 もちろん、隠れている人々を燻りだすための大規模な魔法が時折放たれます。
 その場合、魔力の発露を抑えた状態で防御魔法を構築して防いで対処しました。

 地道に対処を行い、時間を稼いでいけば数がどんどん減っていきます。
 予選突破人数は三人、そしてこの場に──四人となった状態でわたしは動きました。


「──“侵魔功シンマコウ”、“気絶打ショックスイング”!」


 魔闘術で肉体と武具を包み、武技を発動させたうえで武器の力を発揮させます。
 振り被って振るった棒が突如グーンと伸びると、舞台すべてに届く一撃となりました。

 ここまで耐えていたのは、一流の戦闘経験者です。
 当然、何かしらの方法で攻撃を捌くのですが……その中で一人、防御を選んだ人が。

 甘い、甘すぎます。
 魔闘術によって、付与された力は侵蝕──つまり棒が当たった振動は内側へ入り込み、強制的に効果を発揮するのです。

 耐性があるかもしれませんが、“侵魔功”は魔力量に依存して効果の強弱が決まる武技です……要するに、回復魔法を使わない今のわたしにはピッタリの武技でした。


「これも勝つためですので、ごめんなさい」


 攻撃を防ぎきれなかった方は、そのまま吹き飛ばされて舞台から墜ちました。
 そして、舞台の上に残ったのは三人──この結果、わたしは予選を突破したのです。


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