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偽善者と試されし練度 二十二月目
偽善者と決闘祭 その01
しおりを挟むバスキ
この街には巨大な闘技場があり、彼女たちの今回の目的地はそこだ。
同じような野望を持った者たちがすでにこの地に集っており、街の中は賑わっている。
──『決闘祭』。
今回彼女たちが挑むのは、そんなお祭り。
かなり有名な者らしく、高レベルの祈念者や自由民たちが集まっている。
のだが、一つ問題があって──
「うわぁー、男ばっかり……」
「メル……スも男でしょう?」
「ますたー、考えてみてよ。男の人がいっぱいいるのと、女の人がいっぱいいる場所……どっちに行きたい?」
「それは後者ですけど……」
もしかしたらそういう嗜好があって、男が群がる場所の中心に行きたいとかいうヤツもいるかもしれないが……基本的に、どちらの性でも女性の集団の方を好む。
女性の方が身形に気を使うからな。
少々ドギツイ香水を使っているヤツもたまにいるが、男たちが放つ体臭に比べればはるかにマシだろう(偏見)。
「あっ、ますたー見えてきたよ!」
「やっぱり、あそこが一番人がいます……酔いそうです」
「ますたーって、そんなに弱かったっけ?」
「メルを通じて、少しぐらい正直になった方がいいかと学びました……あまり、人混みは好きじゃありませんので」
もう少し話を聞いてみると、知っている人がいれば耐えられるそうだ。
俺もその中に入っていることを嬉しく思うものの、言うべきことはちゃんと言う。
「外のお姉ちゃんたちはもう登録を済ませたみたいだし、ますたーもいかないとね」
「うぅ……あの中に、ですか?」
「今回はみんな敵同士、とかやって別々に登録することにしたんだから、しょうがないと思うよ。本当は私だって、陰ながら見守るだけにしようと思ったのに……ますたーがなんだか迷子みたいだったから、ついね」
なのに俺が合流した途端、親を見つけた子供みたいに目の色を変えたものだから少々驚いたものだ。
そして、そのまま放置するわけにもいかなかったので……今に至る。
「登録は一人でやった方がいいんだけど……ダメなの?」
「メルに隠すことはありません! わたしのすべてを、メルには知られていますので」
「ステータスはね。ますたー……ううん、何でもない。それよりほら、早く行こう!」
「は、はい……」
俺はいったい、何を言おうとしたのか。
分かってはいる、そして誰も幸せにはならない結末しか待っていない。
何より、彼女自身が望まないだろう……これ以上を知る必要などないのだ。
◆ □ ◆ □ ◆
「──はい、登録完了しました。予選は午後から行われますので、それまでは自由にしてくださって構いません」
クラーレを受け付けていた女性がそう言うと、彼女は渡された魔道具を受け取る。
それは俺も二回目の闘技大会で着けた、識別機能の付いた名札みたいな物だった。
「ふぅ、どうにかできました」
「よかったね、ますたー」
「はい!」
少し離れた所で見守っていた俺の下へ駆け寄ると、魔道具を見せてきた。
魔眼で視ていたが、やはり予選はそれを着ける必要のある物となりそうだ。
「……けど、メルは参加しないのですか?」
「前回はアレが出てきたから仕方なく参加したけど、本当はできるだけ姿を隠さないといけない立場だからね。まあ、最近は隠れるためのスキルができたから、少しだけなら大丈夫だけど……こういう場所はダメなんだ」
「えっと、それって本当に──」
「おいおい! こんな場所にガキを連れてくるとはなぁ! ……いやぁ、ずいぶんと余裕なんだなママさんは!」
テンプレ……からは少し外れているが、なぜかクラーレに絡むチンピラが一人。
雑魚かと思えばいちおうは大会参加者、レベルは150(凄腕冒険者)ぐらいあった。
さて、そんな絡まれ方をしたクラーレ本人であるが……反論していない。
なぜなら彼女は顔を真っ赤にしたまま、意識がどこかへ旅立ってしまったからだ。
どう対処しようかと思ったが、ここで彼女のコンディションを悪くされても困る。
仕方ないとため息を吐いてから、チンピラの下へ近づく。
「ねぇねぇ、お兄さん。私、お兄さんに訊きたいことがあるんだ?」
「あ゛ぁ? ガキが、何を言って──」
「お兄さん、とーっても忙しいでしょう? 早く、『行った方がいいんじゃないの?』」
「っ……!?」
ピンポイントに絞った威圧を掛ける。
魔法とかスキルというわけではなく、単純な魔力による圧迫……そのため、耐性スキルや魔道具は関係なく脅すことができた。
「て、テメェ……」
「ねぇ、どうなの?」
「…………チッ! 後でテメェらと戦える機会を楽しみにしてやるよ」
と、捨て台詞をのたまいながらチンピラはこの場を去っていく。
残ったのは、未だにエラーを起こしているクラーレと俺だけだ。
「ますたー、ますたー起きて」
「マ、ママ……わたしが、メルの……」
「違うからね。それよりも、そろそろ私は観るための席を取りにいかないといけないから離れないと」
「! そ、そんな……って、あれ?」
またボッチになってしまうということで、再起動したクラーレ。
これまでのやり取りを認識していなかったようで、辺りをキョロキョロと見渡す。
「あの方は?」
「もう行っちゃったよ。あとで会ったら、ぜひともお礼をしないと。私はもう行くから、どこかに居るお姉ちゃんたちと合流した方がいいかもしれないね」
「そうでしたか……分かりました。予選が始まるまでは、そうしておきます」
「うん、さっきのこともあるからそうした方がいいよ。じゃあ、頑張ってね」
そう言って、俺は移動を開始する。
いい場所で視てやらないとな……うん、特等席を用意しよう。
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