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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と橙色の交流記 その10

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 無事、華都への潜入を果たせたようだ。
 前回のように警報は鳴らないし、森人エルフたちが焦る様子も感じられない。

 ……そこで調べている辺り、考え方が犯罪者みたいな気もするけど。


「あの華都……たしか、ラーバとは全然違う場所だな。まあ、エルフっぽさがあると言えばあるんだけど」

「ですが、ファンタジーらしさというものがあるのでは? 植物の中に植物が生えているというのも」

「やっぱり木はあるんだな。これも前の記憶だからうろ覚えだが、ユラル経由の樹魔法を見た反応が老人だけ違ってたんだよ。まあ、新鮮だからだと思っていたけど……ちゃんと考えないとダメだな」


 島同士が接触することはほとんど無いらしいが、とある条件を満たした時のみ載っている人々は接触することがあるらしい。

 それなりに長い時代を生きた老人、しかも高い地位に就いている者なので、森人たちとの接点もあったのだろう。


「アン、他の種族は見当たらないか?」

「……そのようです。やはりメルス様の推測通り、一つの華都には単一種族のみが生存しているようです」

「奴隷とか、別の種族をどうこうしないってのはいいことだな。普人は別だが、派生する種族はどうなんだ?」

「そちらは……すでに視ておられるかと。初期種族が同種であれば、以降の進化や派生には寛容なようですね」


 そう、すでに褐色肌の森人を視ていた。
 白と黒の森人がいるのだから、単一の種族しかいないというわけでもないのだろう。

 まあ、少なくとも自由世界の場合、肌の色は東洋人と西洋人ぐらいの差でしか無いとステータスに表示されているんだけど。


「さて、これからメルス様はどうなされるのですか? 隠れていればそのまま調査をできるでしょうが、偽善はできないでしょう」

「……まずはそうだな。アン、エルフに変装することはできるか?」

「可能です──“変形・義体:森人”」

「うぉ! 機人の体って凄いんだな」


 スキルを発動した途端、アンの姿は微妙に変化して森人を模る。
 ピョコンと伸びた森人の尖った耳は、普通の物ではなく少々機械チックだ。


「ここに“人化”を重ね掛けすることで──このように、森人のように映ります」

「視ていないと分からない、鮮やかな擬態だな……ちなみに、義体ってどういうこと?」

「サンプルはたくさんありましたので。少々ばいしゅ……いえ、お願いして型を取らせていただきました」

「……なあ、今『買収』って言ったよな? いったい何で買収したんだ?」


 普通に金とか料理とかであってほしい……たとえ、神殿で見覚えのないグッズが新規に追加されていたことを思いだしても、俺はそちらに賭けることを忘れない。


「まあ、いいや。俺も“幻ノ君ファンタズマ”で体を包んでおけば……どうだ?」

「はい、バッチリです。誰がどう見ても、平均よりも……なエルフに成り切っています」

「だから、一言多いって。ねぇ、平均よりもなんだよ。顔か、顔なのか!?」


 アンの顔を見ながら、自分の顔にエルフの耳を付けただけのイメージだったので、モブ顔のままだったのだ。

 だからって……だからって、微妙に濁されたからこそ、妙に辛くなる。
 分かってはいるんだぞ、だがそれと傷つくことはまた別の話じゃないか。


「さて、アン君。君には重要なミッションを与えようじゃないか」

「承知しております。単独で行動し、自分が帰るまで情報収集を行う……つまりは放置プレイ、ということですね?」

「言い方! 百パーセント合っているから、何も文句とかないんだけど! ……全然急いでないから、とりあえずここに選ばれし者が居るかどうかと面白いものがないかの調査、あとは資料が無いか探してくれればいい」

「メルス様と共に行えるのであれば、ぜひとも。後日はともかく、今日はいっしょに居てくださっても良いのでは?」


 わざとらしく手を擦り合わせ、こちらをチラチラと見てくる。
 ここで気づかないほど鈍感系でもない、俺の方から手を伸ばして誘いをかけた。


「アン、今日は俺といっしょにずっといてくれないか?」

「素直にデートと言えない辺りはどうかと思いますが、そのお誘いはとても嬉しいです」

「……わははっ、今はこれが限界」


 ノリとテンションに任せるならともかく、素で誘うには難しい壁が立ちはだかる。
 アンも少し苦く笑っていてくれているようだし、これで勘弁してもらおう。


「(“機構冷停”、“冷静沈却”)……ではメルス様、さっそく始めましょう」

「手、繋いでいくのか?」

「ダメ……でしょうか?」

「うぐっ……分かったよ、分かりましたよ」


 相変わらずのレイフ°目でこちらを見てくるアンに負け、手を繋ぐ。
 にしても、ずいぶんと冷静だな……{感情}が無かったら俺はパ二クっていただろうに。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 それからとりあえず、華都をグルリと一蹴しながら情報を集めることになる。
 図書館なんかもあったので、アンはしばらくそこに籠もると言っていた。

 必要な情報が全部集まったとは言えないものの、今回は初回なので遊ぶ方を主にしていたのであまり気にはならない。

 そして、最後には思い出作りをして……今回の情報収集は終了した。
 はたして、次に来るときにどこまで情報が集まっているんだか。


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