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偽善者と試されし練度 二十二月目

偽善者と橙色の交流記 その07

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「いよっ、凄いぞリアお姉さま!」

「……ライカに呼ばれると少しくすぐったい気分になるけど、君に呼ばれてもあんまりそういう感じにならないね。やっぱり、からかわれているって気分だからかな?」

「リアがそう思うんなら、そうなんじゃないのか? 俺も突然『お兄ちゃん』って呼ばれた時は、混乱したものだよ」


 たしか、最初はオブリだったっけ?
 国民にもそう呼んでくれている子は多いのだが、あちらは普通に呼ぶのではなく『様』付けを嫌がる代わりにって感じだし。


「──そういえば、逆に君はライカから何を知ったんだい?」

「あっ、やっぱり分かる? いやー、彼女も彼女で苦労しているんだな。そりゃあリアをお姉さま呼びしたくなるのも当然だ」

「君の世界でいう、『プライバシーの侵害』に当て嵌まるよ」

「記憶を探ることも、人の夢の中に入り込むことも法律には無かったよ。というわけで、俺はギリギリセーフってことで」


 こういう考え方はあんまりしない方がいいらしけど。
 それは、自分が法律という籠の中でしか活動できていないことの証明だからな。

 本当に悪事をしたいのであれば、法律を気にしない大胆な行動をするべきだ。
 悪人を自称する者は、それに見合った罪を自覚しているべきではないか。


「でも、リアは知っていたんだろう?」

「そりゃあ、まあね。けど、そういう話は本人から訊かないとダメだよ」

「あんまり深く関わりそうにないからな。細かなケアは眷属に任せて、俺はもう悪役まっしぐらでも……なんて思っているぞ」

「君は偽善者を目指しているのに、そんな風に寄り道してもいいのかい?」


 目指すも何も、少なくともこの世界では偽善者でいるつもりなんだがな。
 つまり、まだまだ偽善者足りえない部分があるってことか……精進しないと。


「……なんだか変なことを考えていそうだけど、とりあえずぼくは君があまり悪いことをするのは好ましく思えないんだよ。他の子はともかく、ぼくはいちおうは王族として育った倫理観を持っているからね」

「おっ、嬉しいことを言ってくれるな。たださぁ、悪いことって言われてももう今さらな気がするんだよな。神に反抗するって、俺の世界はともかくこっちだともう大犯罪になっているんじゃないか?」

「…………それもそうだね」


 そうしないと、これまでのことの大半が成し得なかった気もするので、リアもその辺りのことは納得するしかない。

 宗教がある場所では、地球でも神云々で揉めることはあったらしいが……少なくとも、現代でニュース沙汰になるほど激しく揉めているのは海外だけだったな。

 日本はだいぶ緩々だったし、面白ければそれでいいという感じになっていた。
 神話も似たようなものだし、海外の風習を取り込みまくっているのが今の在り方だ。


「ところで君、そんな短絡的な行動に出るってことはもしかして……まさか、もうここから出ようとしているのかい?」

「そりゃあまあ、もう面倒だし。装華があれば、とりあえず疑われることはない。むしろこの世界じゃ、装華を使うのが上手ければどこでも行けそうだし」

「……はぁ、君って人は。君はともかく、ぼくとユラルがそのままじゃないか」

「それを狙ってたからな。あっ、別にリアを置いていきたいわけじゃないさ。ただまあ、俺は口が上手くないからどうしようもできないし、あとは任せたくなったなーって」


 面倒事ではあるが、しっかりと考えて話せる眷属なので問題なかろう。
 前に俺が居たときも、別の華都に関する情報をもう集めていたし。


「……なあ、リアはこれからどういう風に振る舞っていくんだ?」

「君が決めた聖霊使いのことかな? とりあえずは、ユラルと協力してそれをやっていくけど……問題があるのかな?」

「いや、そういうことじゃないんだが……そうだ、装華を使ってくれないか?」

「構わないけど……何があるんだい? こういうときの君は、何をやらかすと定評だよ」


 心当たりがないので問題ないと告げたが、リアはなお訝しむ視線を向けてきた。
 だが、何度も頼みこむと問い詰めるのを諦めたようで、取りだした蕾に魔力を籠める。

「──『開花』」


 蕾が花開くと、彼女を包み込む。
 そして丈の短いドレスと鎧を形作り、手には槍のような円錐──というか、ちょっと変わった針を握り締める。

 それがリアの装華[睡蓮]だ。
 俺はそれを確認すると、本人の了承を得てから針を借り受ける。


「さっき、ライカが術式をインストールとか言っていたけど、研究班曰くそれとは別に魔術以外が入るようになっているらしい。経験値、擬似職業システム、武技や魔技。失われたものが装華には入っている」

「それを君が書き加えると?」

「……それも考えたけど、まだどうやればいいか分かっていないみたいだから違う。安全性は確保したいからな。今回は少し制限を外して、リアが使いやすいようにする。その針も使いづらいだろう?」

「だいぶ慣れたけど、たしかにね。魔術は使わないし、不自然な回路が多いみたいだ」


 後から使いだした装華は回路を書き換えていたのだが、リアとユラルの分はすでに使用していたのでまだ終えていなかった。

 そして、ユラルの分はすでにそれを終わらせており……残るはリアというわけだ。


「──よし、これで使いやすくなったはず」

「ありがとう、メル──」

「あと、聖霊云々で揉めないように精霊だけど面白い術式を入れておいたぞ……だけど、ユラルには内緒だぞ」

「……素直に感謝できなくなったよ」


 いちおう前に話をしたので、怒られそうではあるが最後には許してもらえるだろう。
 精霊使いリア、それが本当の意味でそろそろ生まれることになるわけだし。


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